公開日 2017/09/14 10:00
【レビュー】Sonoma「Model One」 ー 突出した音楽表現を手中にした革新的な静電型ヘッドホン
音楽の生々しさをありのままに伝える
■デジタルオーディオ最前線の技術者集団が手がけた静電型ヘッドホン
ヘッドホンの音をきわめようとする音楽ファンが行き着くソリューションの一つが静電型である。振動系が軽いのでトランジェントが抜群、圧迫感がなく伸び伸びと広がる上質なサウンドはダイナミック型とは一線を画し、根強いファンが多い。高電圧をかけた極薄のフィルムを2つの電極の間で振動させるという動作原理で知られているが、高い電圧を供給するために専用アンプが必要で、据え置き環境で使うことが前提になる。そのナチュラルでくせのないサウンドはスピーカーの再生音に近い。そのため、ヘッドホンと距離を置くリスナーも「静電型だけは例外」と評価する人が多い。
その静電型に強力な新ブランド、Sonoma Acousticsが参入した。新ブランドとは言っても、Sonoma(ソノマ)という名前になじみのある人は少なくないと思う。PCM系フォーマットへの変換プロセスを経ない、純粋な1bit録音・編集が可能なDSD録音の定番ワークステーションを開発し、SACD製作をいまも支え続ける技術者集団である。ヘッドホンも含めた民生用機器の開発は今回が初めてだが、録音環境に不可欠な忠実かつ高精度なモニターシステムを探求する過程で注目すべき新技術と出会い、開発に踏み切ることにしたのだという。「Model One」という型名が示す通り、Sonomaの記念すべき民生モデル第一弾である。
■独自のHPEL(高精度静電ラミネート)振動板を採用
その注目技術が、英国Warwick社が開発した新発想の静電型ドライバーである。従来型の静電型ヘッドホンの課題として、振動フィルムを挟むグリッドの存在があり、特に振動膜と耳の間に存在する導電性グリッドの共振が歪率の悪化や音色の変化を引き起こすことが指摘されていたが、Warwickは独創的なアイデアによってその課題を解決することに成功した。
アルミを蒸着した極薄フィルムをセル状に分割し、複数のセルを同時に駆動するという独自の構造を考案し、HPEL(高精度静電ラミネート)トランスデューサーと命名した。各セルの形状を微妙に変えることで共振周波数をコントロールし、振動系全体として有害な歪みを排除するとともに、透過性の高さが生む澄んだ再生音を実現する。Warwickが開発したドライバーはグリッドが外側のみで、耳との間にはセルを分割するフレーム以外に遮蔽構造がなく、音がダイレクトに届くため、静電型のメリットを実感しやすいと考えればいいだろう。
ちなみに上述のセルは、スウェーデンの3次元モデリング解析会社として著名なCOMSOL社との協業により実現したもの。COMSOL社は医療や軍事関連をはじめとする3Dモデリングの解析を得意としており、マサチューセッツ工科大学など多くの研究機関もその顧客に含まれているという。
振動板は僅か15μmと非常に薄く、超低域から60kHzを超える超高域までの広帯域にわたってリニアリティの高い特性を引き出すことができる。そして、Warwickが考案したHPELの優れた特性を活かすために、Sonomaのエンジニアは、ハウジング、フレームなど周辺部分の素材や構造を吟味し、再生音を入念にチューニングした。
ハウジングはマグネシウムを採用して剛性を確保しつつ軽量化を実現、イヤーパッドはなめらかな感触のシープスキンを奢っている。Lemoコネクターを採用したケーブルは米Straight Wire社との共同開発による特注ケーブルで、表皮にはケブラーが織り込まれている。高電圧駆動なので通常のヘッドホンケーブルとは構造が異なるが、ケーブル自体はしなやかでハンドリングの良さが際立つ。なお、付属のUSBケーブルもStraight Wire社の特注品となる。
■D/Aコンバーターを内蔵したアンプ部
専用アンプはアルミ押し出し材を高精度に加工した筐体が目を引くが、機能とパフォーマンスにも注目する必要がある。アナログ(RCA/ステレオミニ)入力に加えてUSBと同軸のデジタル入力をそなえるため、USB-DACなど外部機器をつなぐことなく、ハイファイオーディオの音源は本機だけでほぼカバーできる。
USB入力はDSD 5.6MHz、PCM 384kHz/32bitまで対応し、対応ファイル形式にも不満はない。そして、デジタル入力だけでなく、アナログ入力もA/Dコンバーターでデジタル化し、すべてDSPによるデジタル信号処理を経てESS製DACに送り出す。このDSPでは、通常の状態で用いても非常に歪率が低いHPEL振動板をさらに低歪にするための補正処理を行っている。ちなみにこのアルゴリズムの開発には、ソニーとも縁の深い、プロ用DSPソフトウェアで著名なOxford Digitalのエンジニアが関わっている。
D/A変換の後、ディスクリートで構成されたクラスAアンプで増幅し、専用出力を得る仕組みだ。アンプ部については、ハイエンドなミキシング・コンソール製造で著名なSolid State Logic社に在籍したエンジニアの協力を得て設計しているとのことだ。
DSPの内部デジタル処理やDAC以降のアナログ回路については、HPELドライバーに最適化した設計を徹底していることはいうまでもない。通常は多様なヘッドホンを駆動するためにヘッドホンアンプは汎用設計を採用せざるを得ない。一方、静電型ヘッドホンの場合はヘッドホンとアンプの組み合わせが固定され、つなぐ機器は最初から決まっている。周波数バランス、音調などをきめ細かくチューニングできるなど、アンプを専用に設計するメリットは非常に大きく、静電型を選ぶ大きな理由になる。
なおModel Oneのバイアス電圧は1350V DCで、これはスタックス製の静電型ヘッドホンの2倍を超える値だという。このバイアス電圧は駆動電源信号と共にラミネート側に印加され、約400V DC分振幅(変化)させる仕組みになっている。
設計陣は新方式のドライバから最大のポテンシャルを引き出すためにSonomaとWarwickの技術を多数投入したと語っていたが、それはヘッドホンの世界ではかなり贅沢なアプローチと言える。
ヘッドホンの音をきわめようとする音楽ファンが行き着くソリューションの一つが静電型である。振動系が軽いのでトランジェントが抜群、圧迫感がなく伸び伸びと広がる上質なサウンドはダイナミック型とは一線を画し、根強いファンが多い。高電圧をかけた極薄のフィルムを2つの電極の間で振動させるという動作原理で知られているが、高い電圧を供給するために専用アンプが必要で、据え置き環境で使うことが前提になる。そのナチュラルでくせのないサウンドはスピーカーの再生音に近い。そのため、ヘッドホンと距離を置くリスナーも「静電型だけは例外」と評価する人が多い。
その静電型に強力な新ブランド、Sonoma Acousticsが参入した。新ブランドとは言っても、Sonoma(ソノマ)という名前になじみのある人は少なくないと思う。PCM系フォーマットへの変換プロセスを経ない、純粋な1bit録音・編集が可能なDSD録音の定番ワークステーションを開発し、SACD製作をいまも支え続ける技術者集団である。ヘッドホンも含めた民生用機器の開発は今回が初めてだが、録音環境に不可欠な忠実かつ高精度なモニターシステムを探求する過程で注目すべき新技術と出会い、開発に踏み切ることにしたのだという。「Model One」という型名が示す通り、Sonomaの記念すべき民生モデル第一弾である。
■独自のHPEL(高精度静電ラミネート)振動板を採用
その注目技術が、英国Warwick社が開発した新発想の静電型ドライバーである。従来型の静電型ヘッドホンの課題として、振動フィルムを挟むグリッドの存在があり、特に振動膜と耳の間に存在する導電性グリッドの共振が歪率の悪化や音色の変化を引き起こすことが指摘されていたが、Warwickは独創的なアイデアによってその課題を解決することに成功した。
アルミを蒸着した極薄フィルムをセル状に分割し、複数のセルを同時に駆動するという独自の構造を考案し、HPEL(高精度静電ラミネート)トランスデューサーと命名した。各セルの形状を微妙に変えることで共振周波数をコントロールし、振動系全体として有害な歪みを排除するとともに、透過性の高さが生む澄んだ再生音を実現する。Warwickが開発したドライバーはグリッドが外側のみで、耳との間にはセルを分割するフレーム以外に遮蔽構造がなく、音がダイレクトに届くため、静電型のメリットを実感しやすいと考えればいいだろう。
ちなみに上述のセルは、スウェーデンの3次元モデリング解析会社として著名なCOMSOL社との協業により実現したもの。COMSOL社は医療や軍事関連をはじめとする3Dモデリングの解析を得意としており、マサチューセッツ工科大学など多くの研究機関もその顧客に含まれているという。
振動板は僅か15μmと非常に薄く、超低域から60kHzを超える超高域までの広帯域にわたってリニアリティの高い特性を引き出すことができる。そして、Warwickが考案したHPELの優れた特性を活かすために、Sonomaのエンジニアは、ハウジング、フレームなど周辺部分の素材や構造を吟味し、再生音を入念にチューニングした。
ハウジングはマグネシウムを採用して剛性を確保しつつ軽量化を実現、イヤーパッドはなめらかな感触のシープスキンを奢っている。Lemoコネクターを採用したケーブルは米Straight Wire社との共同開発による特注ケーブルで、表皮にはケブラーが織り込まれている。高電圧駆動なので通常のヘッドホンケーブルとは構造が異なるが、ケーブル自体はしなやかでハンドリングの良さが際立つ。なお、付属のUSBケーブルもStraight Wire社の特注品となる。
■D/Aコンバーターを内蔵したアンプ部
専用アンプはアルミ押し出し材を高精度に加工した筐体が目を引くが、機能とパフォーマンスにも注目する必要がある。アナログ(RCA/ステレオミニ)入力に加えてUSBと同軸のデジタル入力をそなえるため、USB-DACなど外部機器をつなぐことなく、ハイファイオーディオの音源は本機だけでほぼカバーできる。
USB入力はDSD 5.6MHz、PCM 384kHz/32bitまで対応し、対応ファイル形式にも不満はない。そして、デジタル入力だけでなく、アナログ入力もA/Dコンバーターでデジタル化し、すべてDSPによるデジタル信号処理を経てESS製DACに送り出す。このDSPでは、通常の状態で用いても非常に歪率が低いHPEL振動板をさらに低歪にするための補正処理を行っている。ちなみにこのアルゴリズムの開発には、ソニーとも縁の深い、プロ用DSPソフトウェアで著名なOxford Digitalのエンジニアが関わっている。
D/A変換の後、ディスクリートで構成されたクラスAアンプで増幅し、専用出力を得る仕組みだ。アンプ部については、ハイエンドなミキシング・コンソール製造で著名なSolid State Logic社に在籍したエンジニアの協力を得て設計しているとのことだ。
DSPの内部デジタル処理やDAC以降のアナログ回路については、HPELドライバーに最適化した設計を徹底していることはいうまでもない。通常は多様なヘッドホンを駆動するためにヘッドホンアンプは汎用設計を採用せざるを得ない。一方、静電型ヘッドホンの場合はヘッドホンとアンプの組み合わせが固定され、つなぐ機器は最初から決まっている。周波数バランス、音調などをきめ細かくチューニングできるなど、アンプを専用に設計するメリットは非常に大きく、静電型を選ぶ大きな理由になる。
なおModel Oneのバイアス電圧は1350V DCで、これはスタックス製の静電型ヘッドホンの2倍を超える値だという。このバイアス電圧は駆動電源信号と共にラミネート側に印加され、約400V DC分振幅(変化)させる仕組みになっている。
設計陣は新方式のドライバから最大のポテンシャルを引き出すためにSonomaとWarwickの技術を多数投入したと語っていたが、それはヘッドホンの世界ではかなり贅沢なアプローチと言える。