公開日 2018/07/15 14:10
理想の低トルク機構に3段階の調整機構を搭載したアナログプレーヤー。Tien Audio「TT5」を聴く
何を聴いてもエクセレントであれこれ遊べるエスプリの効いたプレーヤー
ティエンオーディオは2002年に台湾で創立されたアナログブランド。音楽を楽しむことに焦点を絞り、なおかつシンプルな設計を独自に研究し、2011年に製品第1号を発売した。TT5はTT3のアップグレードバージョンで、軽量プラッター+3基の低トルクモーターによる回転機構に、3段階のトルク調節を備えるベースを搭載。カートリッジの動作条件を整え、レコード盤の溝の奥深くに刻まれた情報を露わにできるよう、新たなコンセプトを形にしている。石原氏による本機のレビューをお届けしよう。
■理想の低トルク機構に3段階の調整機構を搭載
ティエンオーディオは台湾のレコードプレーヤー・メーカーである。主宰者のジェフ・ティエン氏は当初、プレーヤーの修理工房を営んでいたそうだが、数多くのプレーヤーの分解組み立て作業を行っているうちに、レコードプレーヤーの理想を見出したという。
本機は先行してリリースされた、TT3のアップグレードバージョンだ。内容的にはTT3にコントロール機能つきのベースボードを付加したものである。したがってTT3からのアップグレードもできる。TT3については、本誌56号でレポートしたので屋上屋を架すことになるが、おさらいしておこう。
TT3の「TT」は、TripleTurntableの略である。プラッターと同サイズのベース部は、3本の円柱で支持されている。円柱の直上には3基のモーターがマウントされているので、モーターの振動は相互に干渉しにくい。ではなぜ3基ものモーターを使用するのだろうか。ティエン氏によると、モーターは1基でも2基でもダメだそうで、3基のモーターが正三角形状のベルトを駆動し、その正三角形に内接する円であるところのサブプラッターを回転させることで、理想的な回転が得られるという。
TT3には白っぽいアクリル製のメインプラッターが載っていたが、本機にはデルリンという黒っぽい素材のものが標準でつく。重量は1kg程度で、軽量の部類といえるだろう。アップグレードの要であるベースボードには3カ所の窪みがある。工作精度は極めて高く、そこにTT3の3基の円柱をマウントするとピタリと収まる。TT3は円柱にスパイクがマウントされているが、TT5ではTT3をベースボードにネジ留めする。
ベースボードは重量級で極めて剛性が高い。ボトムパネルには4基の自社製インシュレーターがマウントされている。ベースボードのコントロール部はUSBケーブルを介して3基のモーターを制御する。コントロール部への給電はトランス式電源アダプターで行う。右側のノブはスタート/ストップ兼回転数選択ノブだ。左側のノブはオン/オフ兼トルク選択ノブで、H/M/Lが選択できる。
TT3のモーターのトルクは極小で、3基合わせてもダイレクトドライブ機の十分の一、通常のACシンクロナスモーターの数分の1程度しかない。低トルクで軽量プラッターを回転させる方が高トルクよりも情報量が多い、というのがティエン氏の主張だ。またトルクを微妙に調整することで、幅広いタイプのレコードに対応できるという。
TT3/5は腕木状のアームボードを介してトーンアームを取りつける。アームベースは他社製用も存在するそうだが、試聴機には自社製のVIROAというヘッドシェル一体型トーンアームの10インチタイプがついていた(12インチタイプも用意されている)。これはなかなかのスグレモノだ。ピボット部は下側からスパイクで1点支持されているので、そのままではフラフラなのだが、スタイラスがレコードにコンタクトするとピタリと安定する。
面白いのはケーブルの処理で、アームパイプからいったん外に出て、小型のコネクターでRCA端子の出力部に接続する仕組みになっている。だからアームパイプを買い足せばカートリッジを比較的楽に交換することができる。
■音楽的に中立で雑味がなくレコードそのものの再現性
輸入元のトップウイング社製の朱雀というカートリッジを用いて試聴を行った。トルクは通常のLPに推奨されているHのポジションとした。
台湾から到着したばかりの個体だったので、当初はヒエヒエのサウンドだったが、20分も経過すると目覚めてきた。明晰な音である。分解能が恐ろしく高い。静かな音ともいえる。音場が森閑と静まり返っている。雑味のない音ともいえる。いわゆるアナログ的な味つけのようなものが全くなく、レコードの音だけが聴こえてくるような印象だ。
味つけが希薄だからといってつまらない音では断じてない。ピアノトリオのピアノには濡れた瞳のような輝きと水蜜桃を思わせるフレッシュな甘みがあり、ベースは切れば血の出るかのように生々しく、ドラムスのエネルギーは脳天を直撃する。音楽的にはあくまでも中立で、楽曲・演奏への介入は一切ない。いや、それどころか音楽以外の要素がスピーカーから全く伝わってこないのである。
■理想の低トルク機構に3段階の調整機構を搭載
ティエンオーディオは台湾のレコードプレーヤー・メーカーである。主宰者のジェフ・ティエン氏は当初、プレーヤーの修理工房を営んでいたそうだが、数多くのプレーヤーの分解組み立て作業を行っているうちに、レコードプレーヤーの理想を見出したという。
本機は先行してリリースされた、TT3のアップグレードバージョンだ。内容的にはTT3にコントロール機能つきのベースボードを付加したものである。したがってTT3からのアップグレードもできる。TT3については、本誌56号でレポートしたので屋上屋を架すことになるが、おさらいしておこう。
TT3の「TT」は、TripleTurntableの略である。プラッターと同サイズのベース部は、3本の円柱で支持されている。円柱の直上には3基のモーターがマウントされているので、モーターの振動は相互に干渉しにくい。ではなぜ3基ものモーターを使用するのだろうか。ティエン氏によると、モーターは1基でも2基でもダメだそうで、3基のモーターが正三角形状のベルトを駆動し、その正三角形に内接する円であるところのサブプラッターを回転させることで、理想的な回転が得られるという。
TT3には白っぽいアクリル製のメインプラッターが載っていたが、本機にはデルリンという黒っぽい素材のものが標準でつく。重量は1kg程度で、軽量の部類といえるだろう。アップグレードの要であるベースボードには3カ所の窪みがある。工作精度は極めて高く、そこにTT3の3基の円柱をマウントするとピタリと収まる。TT3は円柱にスパイクがマウントされているが、TT5ではTT3をベースボードにネジ留めする。
ベースボードは重量級で極めて剛性が高い。ボトムパネルには4基の自社製インシュレーターがマウントされている。ベースボードのコントロール部はUSBケーブルを介して3基のモーターを制御する。コントロール部への給電はトランス式電源アダプターで行う。右側のノブはスタート/ストップ兼回転数選択ノブだ。左側のノブはオン/オフ兼トルク選択ノブで、H/M/Lが選択できる。
TT3のモーターのトルクは極小で、3基合わせてもダイレクトドライブ機の十分の一、通常のACシンクロナスモーターの数分の1程度しかない。低トルクで軽量プラッターを回転させる方が高トルクよりも情報量が多い、というのがティエン氏の主張だ。またトルクを微妙に調整することで、幅広いタイプのレコードに対応できるという。
TT3/5は腕木状のアームボードを介してトーンアームを取りつける。アームベースは他社製用も存在するそうだが、試聴機には自社製のVIROAというヘッドシェル一体型トーンアームの10インチタイプがついていた(12インチタイプも用意されている)。これはなかなかのスグレモノだ。ピボット部は下側からスパイクで1点支持されているので、そのままではフラフラなのだが、スタイラスがレコードにコンタクトするとピタリと安定する。
面白いのはケーブルの処理で、アームパイプからいったん外に出て、小型のコネクターでRCA端子の出力部に接続する仕組みになっている。だからアームパイプを買い足せばカートリッジを比較的楽に交換することができる。
■音楽的に中立で雑味がなくレコードそのものの再現性
輸入元のトップウイング社製の朱雀というカートリッジを用いて試聴を行った。トルクは通常のLPに推奨されているHのポジションとした。
台湾から到着したばかりの個体だったので、当初はヒエヒエのサウンドだったが、20分も経過すると目覚めてきた。明晰な音である。分解能が恐ろしく高い。静かな音ともいえる。音場が森閑と静まり返っている。雑味のない音ともいえる。いわゆるアナログ的な味つけのようなものが全くなく、レコードの音だけが聴こえてくるような印象だ。
味つけが希薄だからといってつまらない音では断じてない。ピアノトリオのピアノには濡れた瞳のような輝きと水蜜桃を思わせるフレッシュな甘みがあり、ベースは切れば血の出るかのように生々しく、ドラムスのエネルギーは脳天を直撃する。音楽的にはあくまでも中立で、楽曲・演奏への介入は一切ない。いや、それどころか音楽以外の要素がスピーカーから全く伝わってこないのである。