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公開日 2022/07/19 06:30

ハイスピードで高鮮度、これぞ“現代”の真空管アンプ。オーディオ・ノートの新たな挑戦「Departure」

【特別企画】入念に仕上げられた魂がサウンドに宿る
林 正儀
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国産ハイエンドオーディオの市場を牽引し、海外でも高評価を得ているブランド「AUDIO NOTE(オーディオ・ノート)」。今回は、オーディオ用真空管である5極管EL34をプッシュプルで駆動するステレオパワーアンプ「Departure」にプリアンプ「G-70」を組み合わせ、アナログ再生の実力を検証する。

オーディオ・ノート真空管パワーアンプ「Departure」(手前・2,970,000円/税込)、真空管プリアンプ「G-70」(奥・2,585,000円/税込)

パワーアンプとしてさらにブラッシュアップ。“旅立ち”の「Departure」



オーディオ・ノートの新しい世代を代表する、EL34プッシュプルのステレオパワーアンプ。それが「Departure」だ。“旅立ち”の意味をもつ。今回はGシリーズでは最初期のプリアンプ「G-70」と組んで、その卓越したパフォーマンスをお届けしたい。

ご存じの通りDepartureは、初のプリメイン機「Overture(序曲)」のパワーアンプバージョンである。真空管は5極管のEL34×4、12BH7A×2、6072×2を搭載。その回路構成を基本的に踏襲しつつ、パワーアンプとしてブラッシュアップしたような内容だ。

違いを先に見ておくと、入力回路がやや異なる。Overtureはプリメインなので、それなりにゲインをもたせているが、Departureはパワーアンプとしての適切なゲインになっている。プリの入力を上手く受け止められるような入力回路なのだ。

ここからマニアックになるのだが、Overtureでは、EIコアだった電源トランスが、新設計のカットコアにグレードアップされ、細かく見ていくとコンデンサーの構成も少し異なる。例えばブロックコンデンサーを使わずに、すべて上質なチューブラータイプとした。NFB量もわずかに増やす方向のチューニングである。当然広帯域設計となり、周波数特性は8Hz〜100kHzを確保した。残留ノイズや歪みも検聴外で、これは古典的な真空管アンプとは別格の現代仕様だ。

手作りのアンプならではのモジュール化されたピン立て基板、純銀線材SSWや純銀箔コンデンサーを含む自社製パーツによって、入念に仕上げられたその魂がサウンドに宿る気がする。

「Departure」の背面。入力はRCAとXLR(いずれもアンバランス)を搭載する

シャーシは「Kagura」などと同様の美しい銅製で、極めて高剛性。かつ真空管やトランスがシンメトリーに配置された美しいシルエットが好ましい。スピーカー端子が上にあり配線しやすい工夫だ。

一方プリのG-70は信号経路の短縮化などにより、鮮度の高い高品位再生を図る定番ハイエンドモデルだ。空間に余裕のある設計で奥行きが長く438mmもある。

各素材の使いこなしがサウンドの随所に現れる



一聴、Overtureよりも締まった方向の表現を目指したようだ。音そのものにハリがあってダルさがなく、低音域も実にハイスピード。定格出力は32W+32Wだが、半導体アンプなら優に100W+100W以上の体感エネルギーと瞬発力がある感触だ。

マーラーの『巨人』など大シンフォニーを聴いても、空間の飽和やピークの潰れがない。この清々しいほどのパワーリニアリティは、直熱3極管シングルのような、オープンで溌剌とした鮮度を感じさせる。ダムのような電源の余裕や真空管を含む素子の使いこなしの上手さが、サウンドの随所に現れてくる印象である。

繊細なショパンのピアノ曲は素晴らしく、ポップスやヘルゲ・リエン・トリオの北欧ジャズにしても音の粒が立ち、プレーヤーそれぞれの楽器のパーツが空間に点在する。音の境目に輪郭強調が生じず、滑らかに推移して聴かせるのだ。高級半導体アンプのような “見える” 音である。綺麗に立体化され、その遠近のピントが隅々にまで合ってくるからたいしたものだ。

一瞬真空管アンプであることを忘れそうになるくらいだが、Departureが魅力的なのは、サウンドと音楽の深いところでしっかり管球デバイスの存在感を表現してくれることだろう。トランジスターアンプにはないオーガニック(有機的)な質感や生々しいプレゼンス(実在感)をもつ。5極管EL34のダイナミックかつ繊細な音を高い次元で両立するのは言うほど簡単ではないが、本機Departureは相当近づいたのではないか。

最後に補足しておこう。Overtureをオーディオ・ノート入門機だとすれば、次のステップはセパレート型のDepartureになる。プリは、価格とグレードを考えるとやはりG-70がベストマッチだ。この組み合わせでの音づくりをぜひオススメしたい。その際、振動対策としてオーディオボードには良いものを使いたいものだ。

(提供:オーディオ・ノート)

本記事は『季刊・analog vol.76』からの転載です

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