公開日 2012/07/11 11:09
【海上忍のAV注目キーワード辞典】第4回:Qi − スマホ等で急速普及中のワイヤレス充電の特徴は?
どんな製品で使える?
【第4回:Qi(チー)】
目には見えないが動きがあり、なんらかの作用をおこす「気」が存在するという。その中国の伝統的な思想にちなみ命名された「Qi(チー)」は、電源ケーブルを使わない給電技術として、携帯バッテリーやスマートフォン向けに急速に普及しつつある。
■「“気”で充電する」国際規格
Qiは、2008年12月設立の「ワイヤレス・パワー・コンソーシアム(WPC)」が定めた無接点型給電の国際規格。簡単に言えば、電源ケーブルを使わず電化製品に給電/充電するための規格だ。携帯電話やスマートフォンなど小型電子機器を対象とした低電力規格(5W以下)が2010年7月に策定され、翌2011年から対応製品が市場に流通しはじめている。
Qiという規格は、ワイヤレス給電技術の標準化を目指し策定された経緯がある。Qi以前にも実用化されたワイヤレス給電技術はいくつかあるが、互換性は考慮されていなかったため、メーカーの壁を越えて普及するには至らなかった。
Qiではその反省も踏まえ、給電方式および制御プロトコルを細かく定義することで、異なるメーカーの製品でも利用できるよう考慮されている。WPCのテストを経て認証された機器には、Qiのロゴを使用する権利が与えられ、互換性が保証されることになる。Qiデバイスであれば、すべてのQi充電器で充電することが可能なのだ。
Qiでは、「近接電磁誘導」と呼ばれる技術により、ケーブルを使わずに送電側デバイスから受電側デバイスへと電力を供給する。この場合の送電側デバイスとは、Qi規格に準拠した「給電パッド」や「充電ステーション」などと呼ばれる機器のこと。受電側デバイスとは、スマートフォンやバッテリーパックといった電力を消費/蓄積する機器のことだ。
同じQiロゴを取得した製品は、給電・充電が自由に行える。機器の用途や種類、メーカーの違いによる制限はないため、Qiのロゴを冠した充電ステーションには、スマートフォンやバッテリーパックなど、同じくQiロゴを持つデバイスを近づければ充電が開始される。
■「コイルの位置合わせ」がポイント
ワイヤレス給電技術にはいくつかの方式があるが、磁場が共鳴する現象を利用してコイルからコイルへと電力を伝送する「磁界共鳴方式」と、送電側と受電側のコイルの間の磁束により生じる電力(誘導起電力)を利用する「電磁誘導方式」が主流だ。Qiでは後者の電磁誘導方式を採用しているが、製品化にあたってはひとつの課題が存在した。
それは「コイルの位置合わせ」だ。電磁誘導方式では、送電側のコイルと受電側のコイルが最適な位置にない場合、伝送効率が大きく低下してしまう。そこでQiの規格では、コイルの位置合わせについて「マルチコイル(コイルアレイ)型」と「可動コイル型」、「マグネット吸引型」の3種類を定め、メーカー側に選択を任せることにした。
マルチコイル型では、送電側に複数のコイルをアレイ状に並べておき、受電側の機器が置かれた位置にもっとも近いコイルを選び充電を開始する。可動コイル型は、送電側のコイルをステッピング・モーターなどで動かすことで位置を合わせる方式だ。そしてもう1つのマグネット吸引型は、送電側のコイルの中央に設置した磁石の力で受電側のコイルを引き寄せ、位置をあわせる。
マルチコイル型を採用した製品には、日立マクセルの「Air Voltage」シリーズが挙げられる。送電側に複数設置されたコイルのうち受電側にもっとも近いものを使うという構造上、位置合わせの精度は若干下がるが、駆動部を持たないため故障が発生しにくく、製造コストも抑えられる。
パナソニックでは、WPCの設立に大きく関与した旧三洋電機(2012年に合併)の考案による可動コイル型を採用している。充電ステーションには常に微弱な電流が流されているため、受電側のコイルが確認されると、その位置目指して送電側のコイルが動き出す。充電ステーションの上に受電機器を載せると駆動音が聞こえるのは、そのためだ。
コイルが動くため、どこに置いても確実に高い効率で電力伝送できる点が利点といえる。コイルの駆動にモーターを必要とする都合上、製造コストが嵩む問題はあるが、携帯型CDプレーヤーのものを利用するなどしてコストを抑える工夫がなされている。
2012年現在、製品化されている送電側デバイスは「充電ステーション」と呼ばれる充電専用機か、パナソニック製HDDビデオレコーダ・DIGAシリーズの一部機種(DMR-BZT920、DMR-HRT300)など、AV機器の天板部分を活用した製品に限定されている。受電側にも、シャープ製Android端末「AQUOS PHONE f SH-13C」など、コイルを内蔵した機器を用意しなければならない。ラインナップの充実は、今後の課題といえるだろう。