公開日 2022/02/11 06:45
長引くコロナ禍、半導体不足等で正念場にあるオーディオ市場。逆風の中も光る2021年の注目トピックを総ざらい!
<2022年オーディオ業界提言>“趣味性”の高いアイテムへの期待はさらに高まる
2020年から続く終わりの見えないコロナ禍が長期化している。原材料や人件費、輸送費などのコストが高騰し、ありとあらゆるものが値上がりする中、もちろんオーディオ業界でも半導体やその他パーツが入手困難となり、昨年は新製品の登場がお預けとなったメーカーも多かった。そして、国内、国外製品共に、続々と大幅値上げのニュースが飛び込んできている。
業界的には、本年からが正念場に入ってくる状況と言えそうだが、巣ごもり需要によるテレビ周りの音質強化の高まり、アナログ再評価によって上昇を続けるレコード生産枚数、ここにきてCDが再評価され世界的にも人気が高まるなど、前向きなニュースも多い。
そんな中、2021年はどのような製品が登場したのか。新製品の振り返りを軸に、ロスレス・ストリーミングやイマーシブ化の動き、カーオーディオ分野への新展開などのトレンドも踏まえつつ、昨年の動きを今一度振り返ってみたい。
■半導体不足の影響を如実に受けながらも、各社独自の取り組みが光る
まず、デジタルプレーヤー関連は、とりわけ国内ブランドのハイエンド製品が賑わったといえる。アキュフェーズの創立50周年記念モデル「DP-1000」「DC-1000」やTAD「TAD-D1000TX」「TAD-DA1000TX」などを筆頭に、プリアンプとネットワーク再生機能およびバランス駆動ヘッドホンアンプを一体化させ、プリアンプの新スタイルを築いたエソテリック「N-05XD」、そして、独自のZERO-LINK接続によって圧倒的なパフォーマンスを達成するSOULNOTE「ZEUSシステム」などが登場。ハイエンド分野での着実な進化が続いている。
半導体業界は現在も大きな混乱の渦中にあるようだが、多くのオーディオ製品で用いられていたAKM製DACチップを製造する旭化成エレクトロニクスの半導体製造工場火災によって業界全体が大きなダメージを受けたことは記憶に新しい。それと呼応するかのように、汎用のDACチップではなく、ディスクリートDAC開発を進めてきたマランツやエソテリックに加え、LINN「KLIMAX DSM/3」やTEAC「UD-701N」など、オリジナル設計のディスクリートDACを搭載したモデルが登場し始めた。
既存DACチップを使用する場面では、他メーカーチップへの置き換えで対応したブランドも見られ、音作りなどで設計者を大いに悩ませたと推察でき、これも開発時間の増大に繋がったとみられる。普及価格帯で大きなシェアを持ち、毎年モデルチェンジを実施していたブランドの製品更新が昨年は見送られたことにも、半導体不足などによる大きな打撃を窺い知ることができる。
だが、今年に入り旭化成がオーディオ用の新チップの開発を進めているというニュースも発表されたので、今後のリカバーに大いに期待を寄せたいところだ。
■ストリーミング機能を内蔵するアンプやHDMI搭載機にも期待
アンプ分野は、内外ブランドから多くのモデルが登場したが、中でも、新たな増幅帰還回路「LIFES」を搭載し驚くべき飛躍を見せたラックスマンの「M-10X」や「L-507Z」が印象的であった。歪みの大幅な低減によるものと思われる、ある種の「電気の存在を感じさせない音」は、オーディオ再生の新たな次元を感じさせるものではないだろうか。
新たなトレンドの兆しとしては、フルサイズ、もしくはそれに準ずるコンポーネントでストリーミングに対応するレシーバーとして、ROKSAN「Attessa Streaming Amplifier」、JBL「SA750」、日本再上陸を果たしたARCAM「SA30」(HDMI入力も搭載)、テクニクスのネットワークCDレシーバー「SA-C600」などが登場したことに注目したい。この手のストリーマーアンプは今後さらなる普及が予想されるほか、とりわけリビングAVとの融合を可能とするHDMI入力の搭載は、ひとつのトレンドとなるかもしれない。
■B&Wの800シリーズが大幅刷新。アクティブSPへの注目も高い
スピーカーは、普及価格帯10万円以下〜20万円クラスの製品で賑わった印象だ。数十年ぶりに日本再上陸を果たしたポーク・オーディオの 「Reserve」シリーズを筆頭とする高コスパな各種ラインアップ、ディナウディオの新エントリー「Emit」シリーズ、テクニクスの重心マウントを搭載したプレミアムクラス「SB-G90M2」や「SB-C600」、密閉型の雄クリプトンの「KX-0.5II」、JBLはLシリーズ最小となる「L52Classic」や「4309」、モニターオーディオの新Silverシリーズ、デンソーテンEclipseシリーズ待望の新モデルとなる「TD307MK3」、フォステクスからは限定フルレンジユニット「FE108SS-HP」が登場するなど、近年は海外勢に押され気味な国内ブランドからも比較的多くの注目製品が登場し活況を呈した。
そして、なんといっても大きな注目を集めたのは、B&Wのフラグシップラインである800シリーズの最新ラインとなるD4シリーズの登場だろう。筐体構造の大幅な刷新から磁気回路や振動系の細かなパーツに至るまで、入念なバージョンアップを経て切り開いた新境地のサウンドは、実に目覚ましいものがある。これから刷新されるであろう700、600シリーズの登場にも、今から期待が高まる。
スピーカー分野の今後の展望で言えば、これから国内でも普及が進むのが、アンプを内蔵したアクティブ型のスピーカーだろう。KEF「LS50 Wireless II」がいち早くamazon musicのロスレス/ハイレゾ再生対応を果たしたほか、 昨年は、大ヒットAIRPULSEの最新モデル「A100 BT5.0」、クリプトンの2ウェイアクティブスピーカー「KS-55 Hyper」 、年始に発表されたのJBLのアクティブスタジオモニター「4305P」などの登場に加えて 、今年に入ってB&Wの独自メッシュネットワーク技術によるワイヤレススピーカーの製品群「Formation Suite」 が日本に上陸した。これからさらに多くの高音質アクティブ/ワイヤレススピーカーが登場してくるだろう。
昨年の年頭記事でも述べたが、この分野のスピーカーで期待されるのは、アンプとの相性問題の解消や、省スペース化による、スピーカー再生ユーザーの裾野の拡大である。モニタースピーカーでは、GENELECやIK MULTIMEDIAなど、大きなシェアを誇るアクティブスピーカーが専用マイクによる手軽かつ高精度な音場補正機能を搭載しつつあり、セッティングという大きな壁に対して、これも入門者への敷居を下げるキーとなる機能と言える。
加えて、パラダイムのフラグシップとなる「Persona 9H」やアヴァンギャルドの「XDシリーズ」など、低音部のみに専用アンプを搭載したハイブリッドタイプもハイエンド分野では登場し始めており、スピーカー再生における最大の難敵に対し、現代の技術でメスを入れる製品の挑戦にも期待を寄せたい。
■最先端技術で生まれ変わるレコード再生。真空管も静かな注目を集める
アナログディスク再生関連では、プレーヤーは国内ブランドの目立った動きが見られなかったものの、ロクサンを創設して傑作TMSや XERXESを生んだトラジ・モグハダムが設立したVARTEREが日本上陸を果たしたことは昨年のビッグニュースであった。肉厚なアクリルの多重構造が美しい同社の中核機「MG-1 PKG」は、業界内でも導入が相次ぎ話題をさらっている様子だ。ほかには、SMEのニューモデル「Model 6 Classic」やレガのエントリーモデル「Planar3 mk2」なども登場している。
カートリッジでは、ラックスマンから数十年ぶりに発売されたMCカートリッジ「LMC-5」、新世代の振動系を搭載した光カートリッジのDS AUDIO「DS003」、樹齢2000年以上の屋久杉を厳選してボディに使用したアナログリラックス「EX1000」などが登場。現代においても、アナログ再生の進化が探求されている。
フォノイコライザーアンプ関連製品も、オラクル「PH200 MK3」、VARTERE「Phono1 MKII」、HEGEL「V10」、フェーズメーション「EA-1200」、CSポート「CMT1」など普及価格帯〜高額ラインまで国内外ブランドから多数登場したほか、プリメインアンプ内蔵のフォノイコライザーアンプが強化傾向にあるなど、相変わらずこの分野へのニーズの高さを感じさせる製品展開となった。
巣ごもり需要やレコード人気とともに、静かな注目を集めるのが真空管アンプだろう。米国ウェスタン・エレクトリック社で再生産が始まった「300B」正規品が、日本国内では昨年11月からトライオードで販売が開始されたが、すでに注文が殺到し納期が春以降となっているという。同社からは、昨年も幾つかの管球式アンプの新モデルが登場したほか、中古品購入者の修理対応などにも追われているという。さらに、より手軽で廉価な分野でも、中国ブランドの安価な小型アンプが一定の人気を博しているようで、アナログ同様に、「真空管」が作り出す独特の世界観は、趣味としてのオーディオと切っても切り離せない存在のようだ。
■ライセンス問題などサブスクを取り巻く現状
サブスク関係で大きなニュースだったのは、やはりmora qualitasのサービス終了発表だ。様々な要因を予想できるが、根本的なビジネスモデルとしてのロスレスストリーミング・サービスの難しさを物語る出来事である。この手のサービスは、現状では、ライセンス交渉も含め圧倒的な資本力/販売力を持つ会社に有利な状況か。圧倒的会員数を誇るSpotifyのSpotify HiFiのサービス開始が、ライセンス問題で遅れているとニュースになったばかりだが、Spotifyのロスレス提供如何で、オーディオ機器を取り巻く状況は大きく変わりそうだ。
他に、TIDALをはじめ、Xandrie社のe-onkyo music買収で日本でのサービスインの期待が寄せられているQobuzなどの動向に注目が集まっているが、ライセンス問題の交渉に加えて、如何に日本国内でユーザー数を集められるかが鍵となると予想され、なかなか日本上陸は容易ではない取り組みと言えそうだ。
一方で、シェアの高いストリーミングサービスの一つであるamazon music再生機能の実装も、amazon側の理由で対応するオーディオ機器が限られてしまっている現状もあるようだ。実際、chromecast built-inやairplayによる接続を除くと、フルサイズのハイファイなオーディオ機器がamazon musicのネイティブ再生に対応しているものは現状で数えるほどしか見いだせない。一般的には音楽リスニングはサブスク聴取が主流となった今、大きなシェアを持つamazon musicがハイファイオーディオ機器に普及しないことも、オーディオの裾野拡大にとっては大きな損失であるといえる。提供側の思惑もあるため一筋縄では行かない部分だが、今後の連携拡大を大いに期待したいところだ。
そんなネットワーク再生の音質改善のティップスとしては、ネットワークリンクの光アイソレートというキーワードに注目が集まっているようだ。これは、ネットワーク接続を一旦光信号に変換することでノイズをアイソレートするもの。通常は、専用機器を接続して光信号を扱うSFP端子に変換する手法が一般的だが、光変換の過程を一台の機器の中で完結させるEDISCREATIONのユニークなコンポーネント「FIBER BOX2」が登場したことも印象的であった。
ハイファイオーディオ的な観点から言えば、とりわけネット回線を利用するストリーミング再生、そしてLANを利用するファイル再生は、ルーター選びから始まり、ハブやケーブルなど、まずは周辺機器のケアも肝となる。これらに関するノウハウや対策機器が普及することで、ネットワークを用いたオーディオ再生の魅力も、さらに可能性が広がっていくだろう。
■新しいオーディオ再生の可能性 -イマーシブオーディオと車載エンタメ-
その他のトピックスとしては、amazon musicやapple music等で配信が開始されたDolby AtmosやSony 360 Reality Audio(360RA)などの、イマーシブオーディオコンテンツが続々と登場してきている。無論、これらはイヤホンやヘッドホン、サウンドバーや一体型ワイヤレススピーカーでの再生に主眼を置いたものであるが、イマーシブフォーマットの純粋な音楽コンテンツが極めて乏しかったこれまでの状況からすると、これらコンテンツの充実は、「スピーカーによるイマーシブ再生」への興味関心やニーズを高めることにも繋がるのではないか。
制作ベースとしても、大手スタジオのイマーシブ対応はもちろんのこと、AppleのDAWソフト「Logic pro」がデフォルトで「Dolby Atmos」の制作機能を搭載したこと、Dolby AtmosやSony 360RA 、そして、 Auro-Maxの制作ソフトウェア(Creative Suite)が数万円から手に入れられる状況となりコンテンツ制作の敷居が大きく下がったことと併せて、新たな音楽表現の可能性拡大という意味でも、今後のイマーシブ・コンテンツの充実化に期待したいところだ。
広い視野で見ると、ソニーがEV事業参入を発表したり 、ゼンハイザーが独自の立体音響技術「AMBEO(アンビオ)」の車載エンターテインメント向け展開を発表するなど、自動車内移動空間でのオーディオ・エンターテイメントの普及展開もトピックと言えるだろう。直接的にハイファイ・オーディオが導入される分野ではないであろうし、根本的なサウンドクオリティもそれとは異なると予想できるが、イヤホン・ヘッドホンとは別の、スピーカーを用いて実空間で楽しむ音楽再生が普及しそのコンテンツの売上も拡大すれば、それは自ずと音楽制作業界や、スピーカー再生を主とするオーディオ業界の活性化にも繋がるのではないだろうか。
■良質なオーディオ機器は音楽から得られる喜びを一層大きくしてくれる
音楽ソフト関連としては、2018年にECMからデビューしたドラマー/コンポーザー福盛進也が手掛ける新レーベル「nagalu」からリリースされたRemboato『星を漕ぐもの』が鮮烈であった。独特の湿度感を狙いあえて「モノラル」でミキシングするとともに、手の込んだCDパッケージでモノとしての高い質感も追求。新世代の邦人ジャズ・ミュージシャンたちが、アジア発としての独自のセンスで生み出すその瑞々しい音楽は、音楽的にもサウンド・クオリティ的にも充実しており、一過性のファッションとは異なる持続可能性を筆者は感じた。このような取り組みが新世代の音楽家から生じていくことは、今後のオーディオシーンにとっても、非常に価値のあることだと思った。
以上、昨年のオーディオ的なトレンドを振り返ってみたが、多大なストレスを強いられるこの世界的なウイルス流行の逆風の中で、音楽という存在の大きさを改めて痛感する次第だ。昨今発売された新譜に耳を傾けると、音楽の様相的に、あるいは歌詞の内容的に、深い内省や慰めを求めるものが少なくないように感じる。音楽を良質な音で楽しませてくれるオーディオ機器は、それらの音楽から得られる喜びや価値をより一層大きなものにしてくれる存在である。その意味でも、今まさに、趣味としてのオーディオはもちろんのこと、それを超えて、ある種「実用」としてオーディオが存在意義を高めている時だと言えるのではないだろうか。
昨年に新製品を発表できなかったメーカーからも、次第に新たなプロダクトの存在が見え始めている。正念場ではあるが、本年もオーディオ業界の躍進を願ってやまない。
業界的には、本年からが正念場に入ってくる状況と言えそうだが、巣ごもり需要によるテレビ周りの音質強化の高まり、アナログ再評価によって上昇を続けるレコード生産枚数、ここにきてCDが再評価され世界的にも人気が高まるなど、前向きなニュースも多い。
そんな中、2021年はどのような製品が登場したのか。新製品の振り返りを軸に、ロスレス・ストリーミングやイマーシブ化の動き、カーオーディオ分野への新展開などのトレンドも踏まえつつ、昨年の動きを今一度振り返ってみたい。
■半導体不足の影響を如実に受けながらも、各社独自の取り組みが光る
まず、デジタルプレーヤー関連は、とりわけ国内ブランドのハイエンド製品が賑わったといえる。アキュフェーズの創立50周年記念モデル「DP-1000」「DC-1000」やTAD「TAD-D1000TX」「TAD-DA1000TX」などを筆頭に、プリアンプとネットワーク再生機能およびバランス駆動ヘッドホンアンプを一体化させ、プリアンプの新スタイルを築いたエソテリック「N-05XD」、そして、独自のZERO-LINK接続によって圧倒的なパフォーマンスを達成するSOULNOTE「ZEUSシステム」などが登場。ハイエンド分野での着実な進化が続いている。
半導体業界は現在も大きな混乱の渦中にあるようだが、多くのオーディオ製品で用いられていたAKM製DACチップを製造する旭化成エレクトロニクスの半導体製造工場火災によって業界全体が大きなダメージを受けたことは記憶に新しい。それと呼応するかのように、汎用のDACチップではなく、ディスクリートDAC開発を進めてきたマランツやエソテリックに加え、LINN「KLIMAX DSM/3」やTEAC「UD-701N」など、オリジナル設計のディスクリートDACを搭載したモデルが登場し始めた。
既存DACチップを使用する場面では、他メーカーチップへの置き換えで対応したブランドも見られ、音作りなどで設計者を大いに悩ませたと推察でき、これも開発時間の増大に繋がったとみられる。普及価格帯で大きなシェアを持ち、毎年モデルチェンジを実施していたブランドの製品更新が昨年は見送られたことにも、半導体不足などによる大きな打撃を窺い知ることができる。
だが、今年に入り旭化成がオーディオ用の新チップの開発を進めているというニュースも発表されたので、今後のリカバーに大いに期待を寄せたいところだ。
■ストリーミング機能を内蔵するアンプやHDMI搭載機にも期待
アンプ分野は、内外ブランドから多くのモデルが登場したが、中でも、新たな増幅帰還回路「LIFES」を搭載し驚くべき飛躍を見せたラックスマンの「M-10X」や「L-507Z」が印象的であった。歪みの大幅な低減によるものと思われる、ある種の「電気の存在を感じさせない音」は、オーディオ再生の新たな次元を感じさせるものではないだろうか。
新たなトレンドの兆しとしては、フルサイズ、もしくはそれに準ずるコンポーネントでストリーミングに対応するレシーバーとして、ROKSAN「Attessa Streaming Amplifier」、JBL「SA750」、日本再上陸を果たしたARCAM「SA30」(HDMI入力も搭載)、テクニクスのネットワークCDレシーバー「SA-C600」などが登場したことに注目したい。この手のストリーマーアンプは今後さらなる普及が予想されるほか、とりわけリビングAVとの融合を可能とするHDMI入力の搭載は、ひとつのトレンドとなるかもしれない。
■B&Wの800シリーズが大幅刷新。アクティブSPへの注目も高い
スピーカーは、普及価格帯10万円以下〜20万円クラスの製品で賑わった印象だ。数十年ぶりに日本再上陸を果たしたポーク・オーディオの 「Reserve」シリーズを筆頭とする高コスパな各種ラインアップ、ディナウディオの新エントリー「Emit」シリーズ、テクニクスの重心マウントを搭載したプレミアムクラス「SB-G90M2」や「SB-C600」、密閉型の雄クリプトンの「KX-0.5II」、JBLはLシリーズ最小となる「L52Classic」や「4309」、モニターオーディオの新Silverシリーズ、デンソーテンEclipseシリーズ待望の新モデルとなる「TD307MK3」、フォステクスからは限定フルレンジユニット「FE108SS-HP」が登場するなど、近年は海外勢に押され気味な国内ブランドからも比較的多くの注目製品が登場し活況を呈した。
そして、なんといっても大きな注目を集めたのは、B&Wのフラグシップラインである800シリーズの最新ラインとなるD4シリーズの登場だろう。筐体構造の大幅な刷新から磁気回路や振動系の細かなパーツに至るまで、入念なバージョンアップを経て切り開いた新境地のサウンドは、実に目覚ましいものがある。これから刷新されるであろう700、600シリーズの登場にも、今から期待が高まる。
スピーカー分野の今後の展望で言えば、これから国内でも普及が進むのが、アンプを内蔵したアクティブ型のスピーカーだろう。KEF「LS50 Wireless II」がいち早くamazon musicのロスレス/ハイレゾ再生対応を果たしたほか、 昨年は、大ヒットAIRPULSEの最新モデル「A100 BT5.0」、クリプトンの2ウェイアクティブスピーカー「KS-55 Hyper」 、年始に発表されたのJBLのアクティブスタジオモニター「4305P」などの登場に加えて 、今年に入ってB&Wの独自メッシュネットワーク技術によるワイヤレススピーカーの製品群「Formation Suite」 が日本に上陸した。これからさらに多くの高音質アクティブ/ワイヤレススピーカーが登場してくるだろう。
昨年の年頭記事でも述べたが、この分野のスピーカーで期待されるのは、アンプとの相性問題の解消や、省スペース化による、スピーカー再生ユーザーの裾野の拡大である。モニタースピーカーでは、GENELECやIK MULTIMEDIAなど、大きなシェアを誇るアクティブスピーカーが専用マイクによる手軽かつ高精度な音場補正機能を搭載しつつあり、セッティングという大きな壁に対して、これも入門者への敷居を下げるキーとなる機能と言える。
加えて、パラダイムのフラグシップとなる「Persona 9H」やアヴァンギャルドの「XDシリーズ」など、低音部のみに専用アンプを搭載したハイブリッドタイプもハイエンド分野では登場し始めており、スピーカー再生における最大の難敵に対し、現代の技術でメスを入れる製品の挑戦にも期待を寄せたい。
■最先端技術で生まれ変わるレコード再生。真空管も静かな注目を集める
アナログディスク再生関連では、プレーヤーは国内ブランドの目立った動きが見られなかったものの、ロクサンを創設して傑作TMSや XERXESを生んだトラジ・モグハダムが設立したVARTEREが日本上陸を果たしたことは昨年のビッグニュースであった。肉厚なアクリルの多重構造が美しい同社の中核機「MG-1 PKG」は、業界内でも導入が相次ぎ話題をさらっている様子だ。ほかには、SMEのニューモデル「Model 6 Classic」やレガのエントリーモデル「Planar3 mk2」なども登場している。
カートリッジでは、ラックスマンから数十年ぶりに発売されたMCカートリッジ「LMC-5」、新世代の振動系を搭載した光カートリッジのDS AUDIO「DS003」、樹齢2000年以上の屋久杉を厳選してボディに使用したアナログリラックス「EX1000」などが登場。現代においても、アナログ再生の進化が探求されている。
フォノイコライザーアンプ関連製品も、オラクル「PH200 MK3」、VARTERE「Phono1 MKII」、HEGEL「V10」、フェーズメーション「EA-1200」、CSポート「CMT1」など普及価格帯〜高額ラインまで国内外ブランドから多数登場したほか、プリメインアンプ内蔵のフォノイコライザーアンプが強化傾向にあるなど、相変わらずこの分野へのニーズの高さを感じさせる製品展開となった。
巣ごもり需要やレコード人気とともに、静かな注目を集めるのが真空管アンプだろう。米国ウェスタン・エレクトリック社で再生産が始まった「300B」正規品が、日本国内では昨年11月からトライオードで販売が開始されたが、すでに注文が殺到し納期が春以降となっているという。同社からは、昨年も幾つかの管球式アンプの新モデルが登場したほか、中古品購入者の修理対応などにも追われているという。さらに、より手軽で廉価な分野でも、中国ブランドの安価な小型アンプが一定の人気を博しているようで、アナログ同様に、「真空管」が作り出す独特の世界観は、趣味としてのオーディオと切っても切り離せない存在のようだ。
■ライセンス問題などサブスクを取り巻く現状
サブスク関係で大きなニュースだったのは、やはりmora qualitasのサービス終了発表だ。様々な要因を予想できるが、根本的なビジネスモデルとしてのロスレスストリーミング・サービスの難しさを物語る出来事である。この手のサービスは、現状では、ライセンス交渉も含め圧倒的な資本力/販売力を持つ会社に有利な状況か。圧倒的会員数を誇るSpotifyのSpotify HiFiのサービス開始が、ライセンス問題で遅れているとニュースになったばかりだが、Spotifyのロスレス提供如何で、オーディオ機器を取り巻く状況は大きく変わりそうだ。
他に、TIDALをはじめ、Xandrie社のe-onkyo music買収で日本でのサービスインの期待が寄せられているQobuzなどの動向に注目が集まっているが、ライセンス問題の交渉に加えて、如何に日本国内でユーザー数を集められるかが鍵となると予想され、なかなか日本上陸は容易ではない取り組みと言えそうだ。
一方で、シェアの高いストリーミングサービスの一つであるamazon music再生機能の実装も、amazon側の理由で対応するオーディオ機器が限られてしまっている現状もあるようだ。実際、chromecast built-inやairplayによる接続を除くと、フルサイズのハイファイなオーディオ機器がamazon musicのネイティブ再生に対応しているものは現状で数えるほどしか見いだせない。一般的には音楽リスニングはサブスク聴取が主流となった今、大きなシェアを持つamazon musicがハイファイオーディオ機器に普及しないことも、オーディオの裾野拡大にとっては大きな損失であるといえる。提供側の思惑もあるため一筋縄では行かない部分だが、今後の連携拡大を大いに期待したいところだ。
そんなネットワーク再生の音質改善のティップスとしては、ネットワークリンクの光アイソレートというキーワードに注目が集まっているようだ。これは、ネットワーク接続を一旦光信号に変換することでノイズをアイソレートするもの。通常は、専用機器を接続して光信号を扱うSFP端子に変換する手法が一般的だが、光変換の過程を一台の機器の中で完結させるEDISCREATIONのユニークなコンポーネント「FIBER BOX2」が登場したことも印象的であった。
ハイファイオーディオ的な観点から言えば、とりわけネット回線を利用するストリーミング再生、そしてLANを利用するファイル再生は、ルーター選びから始まり、ハブやケーブルなど、まずは周辺機器のケアも肝となる。これらに関するノウハウや対策機器が普及することで、ネットワークを用いたオーディオ再生の魅力も、さらに可能性が広がっていくだろう。
■新しいオーディオ再生の可能性 -イマーシブオーディオと車載エンタメ-
その他のトピックスとしては、amazon musicやapple music等で配信が開始されたDolby AtmosやSony 360 Reality Audio(360RA)などの、イマーシブオーディオコンテンツが続々と登場してきている。無論、これらはイヤホンやヘッドホン、サウンドバーや一体型ワイヤレススピーカーでの再生に主眼を置いたものであるが、イマーシブフォーマットの純粋な音楽コンテンツが極めて乏しかったこれまでの状況からすると、これらコンテンツの充実は、「スピーカーによるイマーシブ再生」への興味関心やニーズを高めることにも繋がるのではないか。
制作ベースとしても、大手スタジオのイマーシブ対応はもちろんのこと、AppleのDAWソフト「Logic pro」がデフォルトで「Dolby Atmos」の制作機能を搭載したこと、Dolby AtmosやSony 360RA 、そして、 Auro-Maxの制作ソフトウェア(Creative Suite)が数万円から手に入れられる状況となりコンテンツ制作の敷居が大きく下がったことと併せて、新たな音楽表現の可能性拡大という意味でも、今後のイマーシブ・コンテンツの充実化に期待したいところだ。
広い視野で見ると、ソニーがEV事業参入を発表したり 、ゼンハイザーが独自の立体音響技術「AMBEO(アンビオ)」の車載エンターテインメント向け展開を発表するなど、自動車内移動空間でのオーディオ・エンターテイメントの普及展開もトピックと言えるだろう。直接的にハイファイ・オーディオが導入される分野ではないであろうし、根本的なサウンドクオリティもそれとは異なると予想できるが、イヤホン・ヘッドホンとは別の、スピーカーを用いて実空間で楽しむ音楽再生が普及しそのコンテンツの売上も拡大すれば、それは自ずと音楽制作業界や、スピーカー再生を主とするオーディオ業界の活性化にも繋がるのではないだろうか。
■良質なオーディオ機器は音楽から得られる喜びを一層大きくしてくれる
音楽ソフト関連としては、2018年にECMからデビューしたドラマー/コンポーザー福盛進也が手掛ける新レーベル「nagalu」からリリースされたRemboato『星を漕ぐもの』が鮮烈であった。独特の湿度感を狙いあえて「モノラル」でミキシングするとともに、手の込んだCDパッケージでモノとしての高い質感も追求。新世代の邦人ジャズ・ミュージシャンたちが、アジア発としての独自のセンスで生み出すその瑞々しい音楽は、音楽的にもサウンド・クオリティ的にも充実しており、一過性のファッションとは異なる持続可能性を筆者は感じた。このような取り組みが新世代の音楽家から生じていくことは、今後のオーディオシーンにとっても、非常に価値のあることだと思った。
以上、昨年のオーディオ的なトレンドを振り返ってみたが、多大なストレスを強いられるこの世界的なウイルス流行の逆風の中で、音楽という存在の大きさを改めて痛感する次第だ。昨今発売された新譜に耳を傾けると、音楽の様相的に、あるいは歌詞の内容的に、深い内省や慰めを求めるものが少なくないように感じる。音楽を良質な音で楽しませてくれるオーディオ機器は、それらの音楽から得られる喜びや価値をより一層大きなものにしてくれる存在である。その意味でも、今まさに、趣味としてのオーディオはもちろんのこと、それを超えて、ある種「実用」としてオーディオが存在意義を高めている時だと言えるのではないだろうか。
昨年に新製品を発表できなかったメーカーからも、次第に新たなプロダクトの存在が見え始めている。正念場ではあるが、本年もオーディオ業界の躍進を願ってやまない。