公開日 2018/11/08 15:34
マスターは「まるでバンドの時が止まったまま」
ビートルズ『ホワイト・アルバム』50周年盤、プロデューサーが語る音づくり。 “記憶を再現しながらモダン”に
オーディオ編集部・樫出
既報の通り、ユニバーサルミュージックから、ザ・ビートルズの『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』発売50周年を記念し、記念エディション4製品が11月9日に世界同時発売される。
10月1日にはマスコミ向けの発表会が開催され、ビートルズのほぼ全作品でプロデューサーを務めたジョージ・マーティン氏の子息であり、本作のプロデューサーを務めたジャイルズ・マーティン氏も登場し、試聴を含め今回のアルバムについて語った(関連記事)。
本稿ではジャイルズ・マーティン氏への単独インタビューの内容をお伝えするが、まずは改めて『ホワイト・アルバム』50周年盤について触れておく。今回新たに収録されるのは、ジャイルズ・マーティン氏と、ミックスエンジニアのサム・オケル氏によって制作された新規ステレオミックスであり、数多く登場したリマスター版とは異なるものだ。
さらに、スーパー・デラックス・エディションには、5.1サラウンドミックス、ジョージの家で見つかった「イーシャー・デモ」と呼ばれるオリジナル音源27曲のアコースティック・デモを収録。加えて、アルバムのセッションテープから起こされた50テイク(大半が未発表音源)が収録される。
ジャイルズ・マーティン氏は、プロデューサーとして、2016年にラスベガスで行われた公演『Love』をはじめ、2015年の『ザ・ビートルズ1』、2016年の『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』、2017年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念盤と、ビートルズのリミックスに関わってきており、今回は『ホワイト・アルバム』のプロデュースも行うことになった。
試聴会で聴いた新ミックスのサウンドは、個々の楽器やボーカルが鮮明に聴き取れる高い解像度と共に、それらの見事な融合により、スケールがひとまわり大きくなった。最近のポール・マッカートニーのステージを思わせる、鮮烈なバンドサウンドが堪能できた。
また、デラックス・エディションに収録されているデモバージョンでは、メンバーがどう関わり、どのようにこのアルバムが作られたかといった過程が理解できるのが面白い。「イーシャー・デモ」は、高い完成度を持つアコースティックバーションが聴けるという、まさに貴重なものである。いずれにしても、ファン垂涎の内容であることは間違いないだろう。
さて冒頭で触れたとおり、試聴会の翌日にジャイルズ・マーティン氏に単独インタビューをする機会に恵まれたので、今回の新ミックスの意義やオーディオライクな質問について語っていただいた。
――お目にかかれてとても光栄です。私は音にこだわる雑誌を作っていますが、『ホワイト・アルバム』の先行試聴会に参加させていただき、感動しました。また買う必要があるものが増えてしまいました。
ジャイルズ・マーティン氏(以下、ジャイルズ氏):ごめんなさい(笑)。持っていたら差し上げたいくらいです。私も音に関わっているので嬉しいです。
――まず、今回のリミックスで目指したものや、ポイントをお聞かせください。
ジャイルズ氏:だれもが愛する作品のミックスを手掛ける時は、ポイントはいつも一緒です。聴く気持ちは昔と一緒のまま、よりサウンドがモダンに聴こえることです。今回の『ホワイト・アルバム』の作業のためにスタジオでマスターテープを聴いた時には、まったく古さを感じませんでした。当時のレコーディング状態が良く、まるでバンドの時が止まったままという感じでした。だから、リミックスする時はなるべくプロセスをシンプルにしようと考えました。そして最新の技術的な要素ではなく、メンバーたちの人間的な要素に感動してもらうことを目指しています。
――何度かリマスターが発売されていますが、ジャイルズさんのリミックスの狙いはどこにありますか?
ジャイルズ氏:リマスターとリミックスは違います。多くの人が知らないのですが、当時ビートルズクラスの人たちは1/4テープでレコーディングしており、それがアビーロードスタジオに厳重に保管されています。例えばユニバーサルがアルバムでコンピレーションに使いたいというと、そこに保管されているアルバム用の1/4テープを使うわけですが、何度も使っているうちに劣化していきます。今回のリミックスに関しては、オリジナルのマスターテープを使うことができました。それはほとんど使われていないため、音がまったく違うのです。
自分が手掛けるからには、アーティスティックなインプットがなければならない。そのためにビートルズのメンバーから雇われているわけですから。でも私は歴史を変えたいわけではなく、どちらかというと自分が聴いていたそのままの音ではなく、今の自分の記憶の中にある音を再現したいのです。それをひとつのテクニックとして自分は使っているので、オリジナルより鮮明な音になっている場合もあります。
10月1日にはマスコミ向けの発表会が開催され、ビートルズのほぼ全作品でプロデューサーを務めたジョージ・マーティン氏の子息であり、本作のプロデューサーを務めたジャイルズ・マーティン氏も登場し、試聴を含め今回のアルバムについて語った(関連記事)。
本稿ではジャイルズ・マーティン氏への単独インタビューの内容をお伝えするが、まずは改めて『ホワイト・アルバム』50周年盤について触れておく。今回新たに収録されるのは、ジャイルズ・マーティン氏と、ミックスエンジニアのサム・オケル氏によって制作された新規ステレオミックスであり、数多く登場したリマスター版とは異なるものだ。
さらに、スーパー・デラックス・エディションには、5.1サラウンドミックス、ジョージの家で見つかった「イーシャー・デモ」と呼ばれるオリジナル音源27曲のアコースティック・デモを収録。加えて、アルバムのセッションテープから起こされた50テイク(大半が未発表音源)が収録される。
ジャイルズ・マーティン氏は、プロデューサーとして、2016年にラスベガスで行われた公演『Love』をはじめ、2015年の『ザ・ビートルズ1』、2016年の『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』、2017年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念盤と、ビートルズのリミックスに関わってきており、今回は『ホワイト・アルバム』のプロデュースも行うことになった。
試聴会で聴いた新ミックスのサウンドは、個々の楽器やボーカルが鮮明に聴き取れる高い解像度と共に、それらの見事な融合により、スケールがひとまわり大きくなった。最近のポール・マッカートニーのステージを思わせる、鮮烈なバンドサウンドが堪能できた。
また、デラックス・エディションに収録されているデモバージョンでは、メンバーがどう関わり、どのようにこのアルバムが作られたかといった過程が理解できるのが面白い。「イーシャー・デモ」は、高い完成度を持つアコースティックバーションが聴けるという、まさに貴重なものである。いずれにしても、ファン垂涎の内容であることは間違いないだろう。
さて冒頭で触れたとおり、試聴会の翌日にジャイルズ・マーティン氏に単独インタビューをする機会に恵まれたので、今回の新ミックスの意義やオーディオライクな質問について語っていただいた。
――お目にかかれてとても光栄です。私は音にこだわる雑誌を作っていますが、『ホワイト・アルバム』の先行試聴会に参加させていただき、感動しました。また買う必要があるものが増えてしまいました。
ジャイルズ・マーティン氏(以下、ジャイルズ氏):ごめんなさい(笑)。持っていたら差し上げたいくらいです。私も音に関わっているので嬉しいです。
――まず、今回のリミックスで目指したものや、ポイントをお聞かせください。
ジャイルズ氏:だれもが愛する作品のミックスを手掛ける時は、ポイントはいつも一緒です。聴く気持ちは昔と一緒のまま、よりサウンドがモダンに聴こえることです。今回の『ホワイト・アルバム』の作業のためにスタジオでマスターテープを聴いた時には、まったく古さを感じませんでした。当時のレコーディング状態が良く、まるでバンドの時が止まったままという感じでした。だから、リミックスする時はなるべくプロセスをシンプルにしようと考えました。そして最新の技術的な要素ではなく、メンバーたちの人間的な要素に感動してもらうことを目指しています。
――何度かリマスターが発売されていますが、ジャイルズさんのリミックスの狙いはどこにありますか?
ジャイルズ氏:リマスターとリミックスは違います。多くの人が知らないのですが、当時ビートルズクラスの人たちは1/4テープでレコーディングしており、それがアビーロードスタジオに厳重に保管されています。例えばユニバーサルがアルバムでコンピレーションに使いたいというと、そこに保管されているアルバム用の1/4テープを使うわけですが、何度も使っているうちに劣化していきます。今回のリミックスに関しては、オリジナルのマスターテープを使うことができました。それはほとんど使われていないため、音がまったく違うのです。
自分が手掛けるからには、アーティスティックなインプットがなければならない。そのためにビートルズのメンバーから雇われているわけですから。でも私は歴史を変えたいわけではなく、どちらかというと自分が聴いていたそのままの音ではなく、今の自分の記憶の中にある音を再現したいのです。それをひとつのテクニックとして自分は使っているので、オリジナルより鮮明な音になっている場合もあります。