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ハイレゾ化キーマンにインタビュー

「小泉今日子」像はいかに確立されたのか? ハイレゾ化されたアルバム制作の舞台裏から探る

公開日 2016/07/06 11:15 インタビュー・試聴:炭山アキラ/構成:編集部
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―― 小泉さんはちょうどアナログとデジタルの狭間、レコード時代とCD時代の両方を経験されたアイドルといってよいと思います。最初の頃のレコーディングはアナログだったんですよね。

高田 最初はアナログのマルチトラック・レコーダーで録っていたんですが、割と早くデジタルへ移行する時期がきまして。当時はダッシュ(Digital Audio Stationary Head:ソニーが開発したオープンリールのデジタル録音方式。1/2テープに最大48トラックまで収録できる)方式とPD(PRODIGI:三菱電機、赤井電機、オタリ、のグループが開発。1/2オープンリールに32トラックまで収録できる)がありました。

ダッシュにはソニーのPCM-3324、PDには三菱のX-800というレコーダーがあって、使ってみるとX-800の方が音が太かったんですよ。『Phantasien』(1987年7月)は僕にとってすごく思い出深い作品なんですが、この作品はX-800のマルチで録った覚えがあるんですよ。国内でベーシック・トラックとかオケを録って、歌のダビングはベルリンへ行ったんですね。それで、ベルリンのハンザトーン・スタジオというところでミックスをしてまとめたんですけど、デジタルならではのクリアさと、PDフォーマットならではの深さみたいなものがあるな、ということを感じさせてくれた作品でしたね。

―― コンパクトディスクが規格化するまで、デジタルのフォーマットは44.1kHz/16bitと決まってませんでしたよね。

高田 はい、いろいろなものがありました。でもね、デジタルで録ってもミックスはアナログで落としていたり、手段もいろいろでしたよ。特に3/4インチ・テープを使ったDAS-90とDAS-900というデジタル・テープレコーダーが開発されてまして、それがとてもいい音だったので、日本ビクターは途中からはそれを使ってました。ポップス系でいうと、派手というわけではないんですが、音がクリアではっきり見える、しっかりしたリズムが感じられる音を求められることが多かったので、そういう意味ではデジタルへ移行して、エンジニアとしてはよかったというか、やりやすくなりましたね。

―― アナログからデジタルへ、というのはとても大きな過渡期だったと思っていたんですが、意外とスムーズに移行できたんですね。

高田 録音のシステムとしては変わらないですが、何より音が変わりましたね。といっても、それは後から気づくんですけど(苦笑)。当時ははっきりいってあまり気づいていなくて、デジタルのクリアさだけを「いいなぁ」と感じていたということは正直ありましたね。ただアナログのマルチトラック録音が16chから24chへ変わった時に、チャンネル数は増えてすごく作業しやすくなったんですけど、何だか音の質感がちょっと違うなと感じましたね。それと、アナログの24chからデジタルへ移行した時、さらに音の質感が変わったな、と体感しました。

―― そうなりますと、ハイレゾのマスタリングをなさるに当たっては、アナログとデジタルのマスターテープという、まったく違ったものからということになりますね。

川崎 初期のアナログのマスターについては普通にハイレゾ対応のA/Dコンバーターを導入して、アナログとデジタルのエフェクトを使いつつ、通常のマスタリングを行っています。デジタルの場合、ミックスされた44.1kHz/16bitのマスターは、ビクターが開発したK2HDという、44.1kHz/16bitを96kHz/24bitに拡張するシステムを使います。これは単純なサンプリング変換じゃなくて、超高域の倍音などを演算して96kHzにする、そういう機械を使って、アナログとデジタル、2つの軸をハイレゾへ変換しています。

川崎 洋氏

―― デジタル初期のK2HDマスタリングによるハイレゾ音源は、私も結構いろいろ聴かせてもらっています。やっぱりCDとはかなり違ってきますよね。

川崎 それを「かなり違う」といっていいのか、「今の“想い”がそうなっているんだよ」といっていいのか、あるいは今のテクノロジーが加味されて、以前とは違うもの、かつて「もうちょっとこうしたかった」ことに、より近くなってきている、そういうことができるものだと思うんですよ。

―― ただ単純に96kHz/24bitになったというよりは、「やれることが増えた」という風に捉えればよいですか?

川崎 そうですね。昔は「ここまでしかできないな」ということがかなりあったので。

高田 メディアとしてはCDの登場は非常に良かったと思うんですね。レコードというのは物理的制限があまりにもありましたから。内周と外周では音が違うとか、片面20分以内でないと正直いっていい音では入らないとか。あと、僕は個人的に低音域がすごく好きで、低音をたっぷり入れて安定した音を作りたかったんですが、そうすると溝が太くなってしまって音楽が長時間入らなくなってしまいました。それがCDになると、逆相成分ももちろん入るし、まったくそういう制限がない。『あ、いいな』というのは感じていましたね。

最終的にCDになった時に「低音域がちょっと細いな」というのは感じていたんですが、でもCDの器の中でもデジタル技術はどんどん進化していって、初期のCDと今のものとはまったく別物といっていいくらいにね、「CDってこんないい音が入るんだ」と感じられるようになりました。当然、彼(川崎氏)のマスタリングの力もものすごいんですけど、そういう意味ではCDはCDで本当にすごいと思っているんですよ。

川崎 CDが出た時は、みんなケチョンケチョンに「CDってダメだ!」みたいなことを言われてたんですけど、「いやいや、よく聴くとちゃんとしてるよ」って。と、そういうこともありつつ、ハイレゾとかそういう考え方じゃなくって、CDの44.1kHzから96kHzに広がったということは、普通になってきた、自然界に近くなってきた、ということですよね。これまでCDの小さな器の中でやり繰りしていたんですけど、それが96kHzになって、みんな「ハイレゾ? それってすごいもの?」とか思ったかもしれませんが、実は自然界にあるものだから、「普通に仕事ができるな」という環境が整ってきた、という感じですかね。

高田 今回の小泉さんのハイレゾも、音の柔らかさだとか深さ、川崎がさっき言った「自然に還る」というようなニュアンスを、彼は上手く作ってくれるというか、入れ込んでくれるので、そうなると今の時代の“気持ちいい音”になっていくな、という感じはしますね。

―― ちなみに『N°17』のマスターはアナログだったんですか、それともデジタル?

高田 マスターテープはアナログです。でも、元のマルチトラックはデジタルだったかもしれないなぁ。最終的に2chに落とされたマスターはアナログでした。

田村 ロンドンで録音した分はアナログ持って帰って、東京で高田さんが録ったスカパラのバージョンは多分デジタルだね。

高田 うん、デジタルだった。

田村 だから、アルバムの中でも混在しているんですよ。

―― そういうフォーマットの違うマスターの音をそろえたりするのも大変だったんでしょうか?

高田 川崎さんにお願いする時点で、もう彼の音の世界なんですよ。それはもうブレない世界があるので、マスターのタイプが違うことはそんなに大きな要素ではないですね。

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