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公開日 2014/12/19 16:17

【特別対談】飯森範親氏と江崎友淑氏、日本センチュリー交響楽団「ブラームス 交響曲全集」を語る

長年の信頼関係が結実した新作がハイレゾでも登場
ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実
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飯森範親 指揮・日本センチュリー交響楽団の「ブラームス:交響曲全集」が12月19日よりe-onkyo musicにてハイレゾ配信スタートとなった。飯森氏は今年4月に同オーケストラの首席指揮者に就任。足かけ8年にわたりハイドンの交響曲全104曲を演奏&ハイレゾ配信するという試みに着手するなど、意欲的な活動を行っている。

飯森範親氏。2014年より日本センチュリー交響楽団の首席指揮者に就任 (c) 山岸伸

今回配信される「ブラームス:交響曲全集」の録音を手掛けたのは、録音エンジニアとして数々の高音質盤を世に送り出しているオクタヴィア・レコードの江崎友淑氏。実は江崎氏と飯森氏は桐朋学園大学の同級生であり、在学時から友情を育んできた仲である。これまでにも何枚も一緒に録音を世に送り出してきたおふたりの信頼関係が結実したのが、今回のブラームス全集なのだ。

飯森範親氏(右)、オクタヴィア・レコードの江崎友淑氏(左)

今回、飯森氏と江崎氏にインタビューを敢行。ブラームス全集について、そして日本センチュリー交響楽団についてお話しをうかがった。



飯森範親 指揮・日本センチュリー交響楽団「ブラームス:交響曲全集」(こちらはSACDハイブリッド版ジャケット)
ブラームス 交響曲全集/飯森範親指揮 :日本センチュリー交響楽団
(PCM 96kHz/24bit DSD 2.8MHz アルバム¥5,040 単曲¥432)
http://www.e-onkyo.com/music/album/ovcl00554/



― 2014年は日本センチュリー交響楽団の創立25周年にあたります。飯森さんは節目の年に首席指揮者に就任され、2014年は「始動」、2015年は「挑戦」、2016年は「発展」をコンセプトに掲げて精力的に活動していらっしゃいます。飯森さんにとって日本センチュリー交響楽団の最初の印象はどんなものだったのでしょう?

飯森氏:弦楽器の音がとても綺麗なオーケストラ、でも少しおとなしいな…という印象でした。今年4月から様々なプログラムを一緒にやっていくなかで、だんだん「遊び」の部分を共有できるようになってきたように思います。

また、とても驚いたのは、団員も運営メンバーも非常に強い熱意を持っていること。団員は1回の指摘ですぐに出てくる音が変わるし、運営メンバーにはオケを良くしようという真摯さと誠実さがある。素晴らしいオーケストラだと思います。


― 今回e-onkyo musicでハイレゾ配信されるのは、今年4月17日と19日に行われた首席指揮者就任演奏会の音源ですね。記念すべき演奏会のプログラムに、ブラームスを選んだ理由は何だったのでしょうか?

飯森氏:理由は色々ありますが……ブラームスの交響曲は、僕がドイツにいた頃何度も演奏した曲。でも実は3番だけはあまり演奏したことがありませんでした。というのも3番は、ブラームスの交響曲のなかでも精神的な成熟度が問われる作品。自分はまだ指揮者としては若手と言われる存在で、中途半端な演奏はしたくないという思いがありました。それに、ブラームスは日本人のメンタリティに合わないのではとも考えていました。でも、センチュリー(交響楽団)のポテンシャルと実力に触れて「このオケなら面白い演奏ができるのでは?」と感じたんです。

― 今回のブラームスの録音にあたって、お二人で話されたことなどはありますか?

飯森氏:最初に音を出したときには、江崎には「(ブラームスなのに)音が軽い」と言われましたね。なので楽器ごとに音の出し方を指導して。

― 短い練習時間で簡単に変わるものなのですか?

江崎氏:そこで分厚い音を引き出すのが、飯森のウデなんだと思います。

飯森氏:僕は江崎をすごく信頼しています。元々彼自身も音楽家だし、耳が良いし、それに基づいてきちんと批判してくれる本当に貴重な存在なんです。それと、根底に持っている感覚が似ているので「こういう感じの音にしたい」と言葉で言わなくても、録った音を聴くと望んでいた方向性になっているんです。

江崎氏:飯森の棒(指揮)はすごく綺麗なんですよ。その綺麗な棒から出てくる音を表現したいなと思っています。今回は音の調整に木材を使ったりと、自分としても新しい録音技法を色々と試してみました。


飯森氏:録った音を聴いてみると、10型という小さめの編成で演奏したとは思えないほど弦楽器の音の厚みがあって驚きました。臨場感もものすごいです。それと3番、いいですね。演奏に“温度がある”感じがします。2楽章の冒頭の木管アンサンブルとか、とてもいい。

江崎氏:日本のオケの、1回のライブでこの録音というのは、本当にすごいですよ。飯森はドイツで何度もブラームスをやっただけあって、“ブラームスらしさ”が体にしみこんでいると思うんです。それが発揮されている。このブラームス全集は、EXTONレーベルの数あるブラームスの録音のなかでも非常に素晴らしい演奏だと思います。


― 8年間掛けて取り組むハイドンの交響曲全曲演奏も、おふたりがタッグを組んで録音を進めていらっしゃいますね。

飯森氏:ハイドンは日本ではなかなか演奏会で取り上げられないのが実情。そこで、交響曲104曲全てを演奏してハイレゾ配信するというユニークな試みを行うことで、多くの方々にセンチュリーに注目してもらえればと思ったんです。

それに、ハイドンの作品は本当にオーケストラにとって勉強になります。というのは「約束事」が決まっていて、曲のなかで何度もそれが出てくる。それを体にしみこませ、即座に適用できるようになるという応用力・反応力が養われると、オーケストラとしての底力がつくと思います。

― 意欲的な試みを録音というかたちで楽しんでもらうことはもちろん、実際にホールへも聴きに来ていただきたいですね。

飯森氏:そうですね。僕自身オーディオに興味があって、家にもオーディオシステムを何セットも揃えているんです。それで思うのですが、生演奏の楽しみ方とCDの楽しみ方は違うのでは、と。CDは「CD芸術」という独自のものだと感じています。

江崎氏:ホールと部屋では空間の広さも違いますからね。CDは、そこにある素材の100分の1くらいの要素を選び取って収録しているだけですから。ハイレゾについても、レコードやCDなど色々なカテゴリがあるなかのひとつだと思います。録音がめちゃくちゃなハイレゾと、録音品質は低くても音楽的に素晴らしい音源と、どちらが良いかは明白でしょう。ハイレゾというのは音楽家の哲学が優れた制作者に引き継がれたときに活きてくるもので、数値がどうこうという問題ではないのだと思っています。


(インタビュー・構成…ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実)

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