公開日 2012/09/14 12:00
名門・ゼンハイザーのクオリティを検証する − イヤホン「IE 80/IE 60/CX 175」を聴く
フラグシップからエントリーまで受け継がれる「音」へのこだわり
■「IE 80」は「ファンからの高い期待に納得のクオリティーで応えてくれる製品」 |
1945年、終戦直後のドイツで歩みをスタートさせたゼンハイザー。同社は70年近くにもなる長い歴史のなかで、元々の主力製品であるマイクロフォン、そして今回紹介するヘッドホン/イヤホン分野でも、1968年に世界初のオープン型ヘッドホン「HD 414」を発売するなど常にエポックメイキングな製品を世に送り出してきた。
例えばマイクロフォンではRihanna(リアーナ)など世界中のトップアーティスト達をサポートし、日本のプロミュージシャンにも愛用者は多い。プロ御用達の名門ブランドなのだ。
そしてその製品クオリティの高さはヘッドホン/イヤホンにも共通している。もしかすると“イヤホンメーカー”と聞くと、例えば国内ではソニーやオーディオテクニカなどといったところを思い浮かべる方もいるかもしれないが、ゼンハイザーもそうした大手メーカーに比肩する人気ブランドであり、コアなファンを中心に厚い支持を集める製品を数多く産み出してきていることに改めて触れておきたい。
さて、世の中には、これまでの高評価を踏まえ「良くて当たり前」といわれてしまうものがある。先日のオリンピック競技でいえば、柔道などがまさにそうで、金メダルをとって当たり前、銀や銅では(それだってとてもすごいのに)かえってガッカリされてしまうという、ある意味で身もふたもない、大きすぎるほどの期待が、優れた存在には寄せられてしまう傾向があるのだ。
ゼンハイザーというブランドに対する期待も、それに近いニュアンスがあるように思う。ヘッドホンやマイクロフォンなどにおいて、絶大な人気と信頼を誇るがゆえに、新製品が登場するたびに、良くて当たり前、想像を超える何かが欲しいという、ファンからの熱望が常に注がれているように感じるのだ。
そんな、過大ともいえるプレッシャーに対して、納得のクオリティで応えてくれている製品がある。それが、ゼンハイザーのカナル型イヤホン「IE 80」だ。
プロユースも想定された「イヤーモニター」シリーズの最高峰だけに、周囲の期待も並々ならぬものがあったはずだが、想像を超える実力の高さを示すことで、早くも定評をもつ人気モデルとなっている。
そういった「IE 80」ならではの素晴らしさは、その外観からもうかがえる。
先代「IE 8」の好調さもあってか、あえて大きなデザイン変更を行われなかったが、ハウジングのトッププレートにアルミ素材を新採用するなど、さらなる高級感の演出を行いつつ、音質的にも大きくクオリティアップ。加えてダイナミック型ドライバーは、詳細こそ公表されていないものの、更なるチューニングによって高音質化が推し進められたようだ。
いっぽう、カナル型イヤホンとしては他メーカーの製品にはなかなか見られない「音質調整機能」(低音ボリュームの調整メカニズム)や、交換できることでさらなる長期間の使用が可能となる着脱式ケーブルなど、好評だった機能性はしっかりと先代の「IE 8」から受け継がれている。
また、10種類ものイヤーピースを付属し、あらゆる人がベストな状態でサウンドを楽しめるよう配慮されている点もありがたい。
■抑揚に富んだ、それでいて見通しの良いサウンドが楽しめる |
とはいえ、「IE 80」最大の特徴といえば、やはり“ダイナミック型ドライバー”を採用していることだろう。
カナル型イヤホンの最新トレンドとしては、高級モデルにはBA(バランスドアーマチュア)型ドライバー、ミドルクラス以下にはダイナミック型を搭載する風潮があるが、実際のところはBA型とダイナミック型で音質的な優劣があるわけではない。
どちらにもそれぞれにメリットデメリットがあるし、そのなかでゼンハイザーがダイナミック型をベストと考えチョイスした、ということなのだが、それが同社ならではのこだわりにもつながる部分となっている。
実際のサウンドを聴くと、そういった判断の絶妙さが良く分かる。BAドライバー複数個を搭載した高級モデルとは全く異なる、抑揚に富んだ、それでいて見通しの良いサウンドが楽しめるのだ。
たとえば、小曽根誠のピアノは、芯の通った力強い打音を聴かせつつ、ホールに広がる余韻も消え入る寸前までその存在感をしっかりと再現してくれる。
いっぽうでサンタナのハードロック曲などを聴いても、存在感の強いベースラインとバスドラムが、普段よりも数段ノリの良いグルーブを感じさせてくれる。
そう、ダイナミック型ドライバーの特徴をうまく引き出し、どんな楽器も、どんな声も本来の音色を損なうことなく、それでいて細部まで克明に再現してくれている魅力溢れるサウンドなのだ。
結果として、カナル型イヤホンとは思えない、多彩な表現力を持ち合わせていて、より深く音楽に没頭できるのだ。
また低音ボリュームが調整できる点もありがたい。自分好みのサウンドに整えられるのはもちろん、音楽ジャンルによって積極的に変えるのもなかなかに楽しい。こういった演出の自由度の高さは、まさに「IE 80」ならではの魅力といっていいだろう。
いっぽうで、副産物的なポイントながら、ベストセラーを続けるシリーズだからこそのメリットも持ち合わせている。
それは、アフターマーケットに交換用ケーブルが多数存在することだ。「リケーブル」と呼ばれ、ファンの間で人気を博しているケーブル交換だが、こういった製品を活用してみると、サウンド傾向に多少の変化が現れるなど、「IE 80」の新たなる一面が垣間見られたりするのでなかなかに面白い。
当然ながらこれは「IE 80」が多彩な表現力を持っているからこその結果だが、こういった環境が「IE 80」を魅力をより際立たせてくれているのも確かだ。
■ミドル/エントリークラスにも確実に受け継がれる同社のこだわり |
このように、際立った個性と上質なサウンドクオリティーを持ち合わせる「IE 80」だが、いっぽうで、音質に対するこだわりがミドルクラス、およびエントリークラスモデルに対しても確実に受け継がれているという点も見逃せない。
例えば前モデルの「IE 6」からハウジングのデザインを大きく変え、ブラックのハウジングに、ゴールドのパーツでブランドロゴを配置した兄弟モデル「IE 60」。
「IE 80」とは、音質調整や着脱式ケーブルは採用しないといった違いがあるが、ヌケの良い高域としっかりした厚みのある中域でダイナミックでノリの良い音楽を楽しませてくれるあたりに、同社の音質へのこだわりを感じられる。
また、この8月に発売されたばかりのエントリーモデル「CX175」もそう。ヴォーカルやメイン楽器などの中域がしっかりと存在感を趣致要する、それでいて「バランスが良く、かつ抑揚豊かな」サウンドをしっかりと持ち合わせている。
同機の価格はオープンだが予想実売価格は3,000円前後。前述のようにエントリーモデルとして位置付けられる機種だが、同社が「ロープライスとは思えないほどの音質」「ファーストゼンハイザーとして、自信を持っておすすめします」と公式サイトで表現するのもうなづけるサウンドだ。
いずれの機種も、音楽の魅力をストレートに、かつ豊穣に表現してくれるのが、ゼンハイザー製品に共通する魅力といえるだろう。ファンが常に期待してしまうのが良く分かる、見逃せないブランドであることは断言しよう。
■製品情報 |
■ IE 80 ¥OPEN(予想実売価格36,000円前後)
【SPEC】●周波数特性:10Hz〜20kHz ●インピーダンス:16Ω ●音圧レベル:125dB ●ケーブル長:1.2m
>>ゼンハイザージャパンによる公式情報
■ IE 60 ¥OPEN(予想実売価格18,000円前後)
【SPEC】●周波数特性:10Hz〜18kHz ●インピーダンス:16Ω ●音圧レベル:115dB ●ケーブル長:1.2m
>>ゼンハイザージャパンによる公式情報
■CX 175 ¥OPEN(予想実売価格3,000円前後)
【SPEC】●周波数特性:17Hz〜23kHz ●インピーダンス:16Ω ●音圧レベル:121dB ●ケーブル長:1.2m
>>ゼンハイザージャパンによる公式情報
【問い合わせ先】
ゼンハイザージャパン
info@sennheiser.co.jp
【筆者プロフィール】 |
野村ケンジ Kenji Nomura ホームシアターやヘッドホン、音楽関連、カーAVなどの記事を中心に執筆活動を展開している。100インチスクリーン+TADスピーカーで6畳間極小ホームシアターを実践。さらに現在はステレオと7.1chの同居計画が進行中。好きなクルマはアルファ・ロメオなどのイタフラ系。 |