公開日 2015/08/19 10:30
創業90周年。ラックスマン”歴史的銘機”と最新モデルが対決
プレーヤー/プリメイン/真空管アンプで3本勝負
■ソリッドステート・アンプ<新旧対決>
「L-570」vs「L-590AXII」
新旧対決の第2ラウンドは、ソリッドステート方式の純A級プリメインアンプ同士の比較である。対決に入る前に、なぜフラグシップのセパレート型でなく、プリメインアンプを取り上げたのかも説明しておきたい。
ラックスマンはトランスをはじめとする部品メーカーとして出発し、オーディオコンポーネントを手がけるようになってからも自作用の「ラックスキット」を販売していた。アンプでは管球式にやがてソリッドステート方式が加わり、両者が共存しつつ現在へ至っている。こうしたラックスマンの歴史を振り返ったとき、「ユーザー中心主義」という一貫した信念を感じるのである。
アンプをセパレート型にすれば、すなわち音がよくなるというわけでは当然ない。プリ/パワーを分離すれば他社製品と組み合わされるケースも生まれ、グラウンドの考え方の不一致によるノイズなど想定外の現象も起こり得る。音質上のポリシーを打ち出しやすいのはプリメインなのだ。さらに、一般的なリスニングルームの規模とスピーカーシステムを前提にした時、設置性も含めて使いやすいのは一体型のプリメインである。ユーザーを中心に考えた時、セパレートアンプとプリメインアンプは並列の選択肢であり上下関係ではない、というのがラックスマンの主張なのだと筆者は考える。
さて、過去の銘機として取り上げるソリッドステート型アンプは、1989年発売の「L-570」である。パワー部への純A級動作回路の搭載はプリメインアンプ「L-550」(1981年発売)から始まったが、純A級アンプの確固たる評価を築いたのは、このL-570である。十分なスピーカー駆動能力と躍動感のある音質を純A級方式で達成したL-570の登場以降、「純A級だから…」というエクスキューズは我が国から姿を消してしまった。ハイスピードかつ密度と鮮度のある妥協のない音で、ラックスマンは純A級アンプを日本のオーディオに根付かせたと言っていい。なお、ケタ違いのパワーが求められるフラグシップのパワーアンプでは、ラックスマンは現在もAB級を採用することが多い。この点からも、製品のコンセプトありきで純A級とAB級を選択していることが伺える。
ちなみに、かつて純A級とAB級で使用するユーザー像にちがいはあるのか、ラックスマン技術陣に質問したことがある。すると「特定の音楽ジャンルを深く聴くユーザー、特定の器楽の音色に関心の深いユーザーに純A級アンプの愛用者が多く、幅広いジャンルの音楽を楽しむユーザーにAB級アンプの愛用者が多いという傾向があります」という答えが返ってきた。ラックスマンが考える純A級とAB級は、音質という点でも優劣ではなく選択肢の関係なのだ。
そして現在のラックスマン純A級プリメインアンプの代表が、今回登場する「L-590AXII」である。L-570からL-590AXIIの登場まで26年を経るが、その間に電子制御アッテネーター(ボリューム)である「LECUA」や、負帰還の新しい考え方を達成したODNFが開発された。ラックスマンが開拓した純A級アンプは、この26年間でどのように進化したにだろうか。
結果から言ってしまうと、3ジャンルの比較試聴の中で時間の推移を最も感じさせられたのがL-570とL-590AXIIの比較だった。スペックを比較するとL-570は定格出力が50W+50W(8Ω)なのに対して、L-590AXIIは30W+30W(8Ω)。使用したスピーカーシステムはB&W「802 Diamond」(インピーダンス:8Ω)である。しかし、スピーカーのドライブ能力という点で圧倒的にL-590AXIIに軍配が上がる。ダンピングファクターはL-590AXIIが320、L-570は非公開だが、両機の出力は逆転したように聞こえ、帯域の広さでもL-590AXIIは大きく差を付ける。
発売当時には「濃密な音」と評されたL-570だが、L-590AXIIに比べると響きが薄く感じられる。音の立ち上がりや出方がおとなし過ぎて、802 Diamondを鳴らしきっていない。一方のL-590AXIIは同じスピーカーシステムを軽々とハンドリングし、音色にも滲みが一切ない。現在ではVer.4.0まで進化したODNFと最新のLECUAが達成した途方もない進歩を実感させられる。
しかし、26年間の間にスピーカーシステムもソース機器も、そしてソフトも進歩している。当然、L-570は802 Diamondのような現代的なスピーカーシステムを鳴らすことを想定してない。L-570の時代、スピーカーシステムはもっと素朴なアナログ変換器だったはずだ(当時の開発リファレンスはJBL4343だったという)。
L-590AXIIと比較することはやめて、L-570の再生する音に集中してみた。ラックスマン本社の地下試聴室は、L-570を鳴らすにはちょっと広過ぎるので、音量を少し下げて傾聴する。そうすると自然に体がスピーカーシステムににじり寄っていき、L-570の本質が聞こえてくる。まずS/Nが抜群によい。帯域は決して広くないが、弦楽器などの音の階調が豊か。ダイナミックなコントラスト感でなく、陰影が豊かなのだ。それらの総和で、音色にも富んでいる。
純A級動作のプリメインアンプは1970年代から存在していたが、純A級の「匂いを嗅がせる」ことに止まっていた。パワーも極小で、音色の肌触りは良くても、もやっとしたキレのない音だった。今回の試聴で、ホームオーディオにおける実用レベルの純A級アンプはL-570に始まったということを再確認した。
「L-570」vs「L-590AXII」
新旧対決の第2ラウンドは、ソリッドステート方式の純A級プリメインアンプ同士の比較である。対決に入る前に、なぜフラグシップのセパレート型でなく、プリメインアンプを取り上げたのかも説明しておきたい。
ラックスマンはトランスをはじめとする部品メーカーとして出発し、オーディオコンポーネントを手がけるようになってからも自作用の「ラックスキット」を販売していた。アンプでは管球式にやがてソリッドステート方式が加わり、両者が共存しつつ現在へ至っている。こうしたラックスマンの歴史を振り返ったとき、「ユーザー中心主義」という一貫した信念を感じるのである。
アンプをセパレート型にすれば、すなわち音がよくなるというわけでは当然ない。プリ/パワーを分離すれば他社製品と組み合わされるケースも生まれ、グラウンドの考え方の不一致によるノイズなど想定外の現象も起こり得る。音質上のポリシーを打ち出しやすいのはプリメインなのだ。さらに、一般的なリスニングルームの規模とスピーカーシステムを前提にした時、設置性も含めて使いやすいのは一体型のプリメインである。ユーザーを中心に考えた時、セパレートアンプとプリメインアンプは並列の選択肢であり上下関係ではない、というのがラックスマンの主張なのだと筆者は考える。
さて、過去の銘機として取り上げるソリッドステート型アンプは、1989年発売の「L-570」である。パワー部への純A級動作回路の搭載はプリメインアンプ「L-550」(1981年発売)から始まったが、純A級アンプの確固たる評価を築いたのは、このL-570である。十分なスピーカー駆動能力と躍動感のある音質を純A級方式で達成したL-570の登場以降、「純A級だから…」というエクスキューズは我が国から姿を消してしまった。ハイスピードかつ密度と鮮度のある妥協のない音で、ラックスマンは純A級アンプを日本のオーディオに根付かせたと言っていい。なお、ケタ違いのパワーが求められるフラグシップのパワーアンプでは、ラックスマンは現在もAB級を採用することが多い。この点からも、製品のコンセプトありきで純A級とAB級を選択していることが伺える。
ちなみに、かつて純A級とAB級で使用するユーザー像にちがいはあるのか、ラックスマン技術陣に質問したことがある。すると「特定の音楽ジャンルを深く聴くユーザー、特定の器楽の音色に関心の深いユーザーに純A級アンプの愛用者が多く、幅広いジャンルの音楽を楽しむユーザーにAB級アンプの愛用者が多いという傾向があります」という答えが返ってきた。ラックスマンが考える純A級とAB級は、音質という点でも優劣ではなく選択肢の関係なのだ。
そして現在のラックスマン純A級プリメインアンプの代表が、今回登場する「L-590AXII」である。L-570からL-590AXIIの登場まで26年を経るが、その間に電子制御アッテネーター(ボリューム)である「LECUA」や、負帰還の新しい考え方を達成したODNFが開発された。ラックスマンが開拓した純A級アンプは、この26年間でどのように進化したにだろうか。
結果から言ってしまうと、3ジャンルの比較試聴の中で時間の推移を最も感じさせられたのがL-570とL-590AXIIの比較だった。スペックを比較するとL-570は定格出力が50W+50W(8Ω)なのに対して、L-590AXIIは30W+30W(8Ω)。使用したスピーカーシステムはB&W「802 Diamond」(インピーダンス:8Ω)である。しかし、スピーカーのドライブ能力という点で圧倒的にL-590AXIIに軍配が上がる。ダンピングファクターはL-590AXIIが320、L-570は非公開だが、両機の出力は逆転したように聞こえ、帯域の広さでもL-590AXIIは大きく差を付ける。
発売当時には「濃密な音」と評されたL-570だが、L-590AXIIに比べると響きが薄く感じられる。音の立ち上がりや出方がおとなし過ぎて、802 Diamondを鳴らしきっていない。一方のL-590AXIIは同じスピーカーシステムを軽々とハンドリングし、音色にも滲みが一切ない。現在ではVer.4.0まで進化したODNFと最新のLECUAが達成した途方もない進歩を実感させられる。
しかし、26年間の間にスピーカーシステムもソース機器も、そしてソフトも進歩している。当然、L-570は802 Diamondのような現代的なスピーカーシステムを鳴らすことを想定してない。L-570の時代、スピーカーシステムはもっと素朴なアナログ変換器だったはずだ(当時の開発リファレンスはJBL4343だったという)。
L-590AXIIと比較することはやめて、L-570の再生する音に集中してみた。ラックスマン本社の地下試聴室は、L-570を鳴らすにはちょっと広過ぎるので、音量を少し下げて傾聴する。そうすると自然に体がスピーカーシステムににじり寄っていき、L-570の本質が聞こえてくる。まずS/Nが抜群によい。帯域は決して広くないが、弦楽器などの音の階調が豊か。ダイナミックなコントラスト感でなく、陰影が豊かなのだ。それらの総和で、音色にも富んでいる。
純A級動作のプリメインアンプは1970年代から存在していたが、純A級の「匂いを嗅がせる」ことに止まっていた。パワーも極小で、音色の肌触りは良くても、もやっとしたキレのない音だった。今回の試聴で、ホームオーディオにおける実用レベルの純A級アンプはL-570に始まったということを再確認した。