公開日 2024/01/24 06:30
往年の銘機の設計思想を現代に紡ぐ。タンノイ「Stirling III LZ Special Edition」を聴く
【特別企画】英国伝統家具のような高品位な造り
英国の名門スピーカーブランドTANNOY(タンノイ)。ここで紹介する「Stirling IIILZ Special Edition」は、往年の銘機であるモニターレッド「IIILZ」の流れをくむモデルである。同ブランドのシンボルとも言える同軸2ウェイユニットを、大型で強力なアルニコマグネットALCOMAX-IIIで駆動。より堅牢な新設計が取り入れられている。
久しぶりにヴェルディのレクイエムを聴いた。スピーカーは、タンノイ最新の「Stirling IIILZ SPECIAL EDITION」だ。その音楽は、まさに楽曲の深淵さを引き出し、第1楽章では、静かにクレシェンドしてくる弦楽の響きに、身震いするほどであった。それは、ホールで聴く、木質感と膨らみのある響きだ。実に弦の繊細さや柔らかさを引き出している。
そして、声楽。ソリストや合唱では、肉声を思わせる温度感までも体験することができる。第2楽章の、あたかも怒りのような壮大な旋律は、新しいエソテリックのA級プリメインアンプ「F-01」のワイドレンジな駆動力により、高い音圧を示し、ホーンから噴出する管楽器やグランカッサの響きにも心奪われてしまった。SACDプレーヤー「K-01XD」のアナログに迫る音質も加わり、ダイナミックレンジが広く、倍音が濃厚に迫る。
続いて、サヴァール指揮のモーツァルトのレクイエムも再生した。スピーカー背後に音場、音像が定位することも理解でき、古楽器の色彩鮮やかな音色を鮮度高く再現し、弱音から強音まで、さらに巧みなテンポまで、この伝統的なスピーカーは、音楽の躍動を堪能させてくれた。これが、歴史あるタンノイが、音楽の深淵さや躍動を引き出す新しい音なのであろう。
このスピーカーについて触れておこう。1961年に登場したモニターレッド期の銘機「IIILZ」の系譜を踏むスピーカーであり、Prestige Stirling/GRの特別エディションモデルだ。タンノイのモニターは、ピーター・ガブリエル、レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイド、ビートルズなど有名アーティストなどの音楽制作でも活躍した。ご存知のように、2ウェイ同軸型スピーカーユニットが伝統的な特徴だ。
まず、本機のエンクロージャーを見てみよう。伝統のオートミールクロスを使用したグリルも装備される。実に美しく、気品に満ちている。板材としては、ウォルナット無垢材と突き板を適所に使用し、内部のブレース(筋交状仕切り板)などに積層合板を使用し、異種素材により振動を低減させている。フロントの両側前方には、目立ちにくいスリット型の45度放射のバスレフポートも採用した。
美しいゴールドリング(フレーム)を備えた同軸型2ウェイユニットは1947年に開発されたが、さらに進化を遂げた。クルトミュラーのコーンを使用した低域振動板は、25cm径。ツインロールハードエッジが大振幅でも正確な振幅を維持する。
その中央には、美しいゴールド・ホーンを備えたコンプレーションHFドライバーを配置。そのホーンの奥には、19個の小口径の開口をもつスロートを配置し、振動板は高速高域伝播する52mmアルミマグネシウム振動板を採用した。エッジはマイラーフィルムだ。磁気回路には、磁束密度が高く、強力なアルニコマグネットALCOMAX-IIIを採用し、結果として93dBという高い能率を実現した。
このユニットサイズながら重量があるため、エンクロージャー全体も堅牢な構造とした。フロントのゴールドプレートには、上位モデルと同様、TREBLE ENERGY/TREBLE ROLLOFFの2種類のロックアップ式高域コントロールと低損失ネットワーク回路を搭載。
バイアンプ、バイワイヤリングに対応し、アンプとアース接続し、ボイスコイルをノイズからシールドするためのアース端子も装備する。デザインと設計開発、そして製作は、英国で、伝統の家具造りのように行われている。隅々まで高品位に美しく仕上げられており、専用のウッドワックスも付属されている。
音質は、冒頭のとおり。このスピーカーは、決して、再生ジャンルを問うわけではないが、クラシック音楽を愛好する方にとっては、かけがえのない存在となることであろう。
エソテリック試聴室Photo by 君嶋寛慶
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.191』からの転載です
「Stirling IIILZ Special Edition」を評論家・角田郁雄がレビュー
久しぶりにヴェルディのレクイエムを聴いた。スピーカーは、タンノイ最新の「Stirling IIILZ SPECIAL EDITION」だ。その音楽は、まさに楽曲の深淵さを引き出し、第1楽章では、静かにクレシェンドしてくる弦楽の響きに、身震いするほどであった。それは、ホールで聴く、木質感と膨らみのある響きだ。実に弦の繊細さや柔らかさを引き出している。
そして、声楽。ソリストや合唱では、肉声を思わせる温度感までも体験することができる。第2楽章の、あたかも怒りのような壮大な旋律は、新しいエソテリックのA級プリメインアンプ「F-01」のワイドレンジな駆動力により、高い音圧を示し、ホーンから噴出する管楽器やグランカッサの響きにも心奪われてしまった。SACDプレーヤー「K-01XD」のアナログに迫る音質も加わり、ダイナミックレンジが広く、倍音が濃厚に迫る。
続いて、サヴァール指揮のモーツァルトのレクイエムも再生した。スピーカー背後に音場、音像が定位することも理解でき、古楽器の色彩鮮やかな音色を鮮度高く再現し、弱音から強音まで、さらに巧みなテンポまで、この伝統的なスピーカーは、音楽の躍動を堪能させてくれた。これが、歴史あるタンノイが、音楽の深淵さや躍動を引き出す新しい音なのであろう。
伝統の同軸ユニットには強力なアルニコ磁石を採用
このスピーカーについて触れておこう。1961年に登場したモニターレッド期の銘機「IIILZ」の系譜を踏むスピーカーであり、Prestige Stirling/GRの特別エディションモデルだ。タンノイのモニターは、ピーター・ガブリエル、レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイド、ビートルズなど有名アーティストなどの音楽制作でも活躍した。ご存知のように、2ウェイ同軸型スピーカーユニットが伝統的な特徴だ。
まず、本機のエンクロージャーを見てみよう。伝統のオートミールクロスを使用したグリルも装備される。実に美しく、気品に満ちている。板材としては、ウォルナット無垢材と突き板を適所に使用し、内部のブレース(筋交状仕切り板)などに積層合板を使用し、異種素材により振動を低減させている。フロントの両側前方には、目立ちにくいスリット型の45度放射のバスレフポートも採用した。
美しいゴールドリング(フレーム)を備えた同軸型2ウェイユニットは1947年に開発されたが、さらに進化を遂げた。クルトミュラーのコーンを使用した低域振動板は、25cm径。ツインロールハードエッジが大振幅でも正確な振幅を維持する。
その中央には、美しいゴールド・ホーンを備えたコンプレーションHFドライバーを配置。そのホーンの奥には、19個の小口径の開口をもつスロートを配置し、振動板は高速高域伝播する52mmアルミマグネシウム振動板を採用した。エッジはマイラーフィルムだ。磁気回路には、磁束密度が高く、強力なアルニコマグネットALCOMAX-IIIを採用し、結果として93dBという高い能率を実現した。
このユニットサイズながら重量があるため、エンクロージャー全体も堅牢な構造とした。フロントのゴールドプレートには、上位モデルと同様、TREBLE ENERGY/TREBLE ROLLOFFの2種類のロックアップ式高域コントロールと低損失ネットワーク回路を搭載。
バイアンプ、バイワイヤリングに対応し、アンプとアース接続し、ボイスコイルをノイズからシールドするためのアース端子も装備する。デザインと設計開発、そして製作は、英国で、伝統の家具造りのように行われている。隅々まで高品位に美しく仕上げられており、専用のウッドワックスも付属されている。
音質は、冒頭のとおり。このスピーカーは、決して、再生ジャンルを問うわけではないが、クラシック音楽を愛好する方にとっては、かけがえのない存在となることであろう。
エソテリック試聴室Photo by 君嶋寛慶
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.191』からの転載です