公開日 2012/08/10 14:34
【海上忍のAV注目キーワード辞典】第7回:有機EL − なぜ高画質?大型化への展望は?
生産方式の違いなども徹底解説
【第7回:有機EL】
最近いろいろなデバイスに採用されている「有機ELパネル」。その発色のよさと応答性能の高さから動画再生に適しているとされ、海外メーカーでは大型テレビへの採用も開始された。今回は、その有機ELパネルの基本的なしくみと最近の動向を解説したい。
■有機ELパネルのメリット/デメリット
ポスト液晶の呼び声も高い「有機ELパネル」。すでにデジタル家電の分野では、2〜3インチ程度の小型表示装置に多数採用されているほか、スマートフォンやタブレットなど3〜7インチ程度の携帯端末にも採用されはじめた。今後はテレビなど大型パネルにも採用される可能性が高い、次世代に位置づけられる表示装置だ。なお、OLED(Organic light-Emitting Diode)もほぼ同義語として用いられている。
有機ELパネルは、ある種の有機物に電流を流すと発光するという性質を利用し、それをガラスやプラスチックなど透明な基板に定着させたものへ電圧をかけることで表示を得る。有機物みずからが発光するため明るく、液晶パネルに必須の背後の光源(バックライト)が必要ないため、視野角の問題も発生しない。応答性能にも優れ、残像感やいわゆる「動画ボケ」は人間の感知が難しいレベルにまで追いやれる。
他のパネルと比較して色の再現性が高いことも、有機ELの特徴と言っていいだろう。液晶パネルはバックライトの輝度を下げるに従い色再現範囲も狭まるが、流す電流により発光の強弱を画素ごとに制御する有機ELパネルの場合、色再現範囲に影響はなくコントラストの高い映像を再現できる。電流が流れない部分はリアルな黒に近づく、いわゆる「黒浮きしない」メリットもある。
デメリットがあるとすれば、現在のところ大型パネルの製造コストが高いことだ。液晶パネルに比べると寿命が短い点も、今後解決されるべき技術的課題だろう。それらの事情から、現在のところ小型機器向け表示装置としての利用が多いが、表示装置として多くの可能性を秘めていることは確かだ。
■いろいろある「方式」
大まかにはそのような特性を持つ有機ELパネルだが、生産にあたっては「方式」の違いによる区分が生じている。ここでは、「カラー化方式」と「生産方式」、「駆動方式」の違いついて述べてみよう。
まずはカラー化方式について。フルカラー実現にあたっては、なんらかの方法でRGBのサブピクセルを揃える必要があるが、「3色独立画素方式」(RGB方式)ではRGB各色の発光層を重ねることでこれを実現する。「色変換方式」では、青色層を発光させその一部を色変換層を通し赤/緑色を得る。そしてもうひとつが、白色発光層からカラーフィルタを通すことで赤/緑/青色を得る「カラーフィルター方式」だ。
生産方式にも種類がある。現在一般的なものとしては、有機材料を高温で気化させ、透明な基板に付着させて薄い膜をつくる「蒸着方式」と、インクジェットなどの印刷技術を使い有機材料を透明な基盤に付着させる「印刷方式」の2つが挙げられる。
駆動方式は、直交させた電極に電流を流しその交点にある画素を発光させる「パッシブ・マトリクス方式」と、各画素の表示/非表示を薄膜トランジスタで制御する「アクティブ・マトリクス方式」の2種類に大別できる。構造が単純な前者のほうが低コストだが寿命は短く、1画素の発光時間も短いことに対し、後者は比較的高コストだが長寿命で、1画素の発光時間が長いため画素数を増やしてもコントラスト比などの画像表示能力を保ちやすい。
どの方式を採用するかは、各メーカーともいまだ試行錯誤の段階と言っていい。しかし、目下の課題である「パネルの大型化」と「コストダウン」の両方を満たすには、どの方式を採用するかはある意味経営判断の部分もあるため、技術的なことだけでは有利/不利を判断しにくい。テレビへの採用についても、表示性能と薄型化が進みかつ低コスト化された液晶パネルとの比較は避けられず、スムースに有機ELパネルへ移行するとは考えにくい状況だ。
■国内メーカーの動向
現在のところ、テレビ向け大型パネルは韓国サムソン電子とLGの2社が先行している状態だ。国内勢では、2007年にソニーが11インチパネルの「XEL-1」を発売したことがあるが、2010年には生産を終了している(関連ニュース)。
しかし、それは有機ELパネルからの撤退を意味するわけではなく、実際2012年6月にひとつのニュースがもたらされた。それは、パナソニックとソニーの2社がテレビや大型ディスプレイ向けの有機ELパネルとモジュールを共同開発する契約を締結したこと(関連ニュース)。
この2社の協業は、印刷方式による独自の設備と生産技術に強みを持つパナソニックと、蒸着方式を用いる有機ELテレビ(XEL-1)を生産した実績を持つソニーが、互いの強みを持ち寄ることで開発効率を高めることが狙いだ。今後は2013年内の量産化開始を視野に、共同開発が進められる。
共同開発が進めば、すでにある技術と設備を活用可能なだけに、追加投資の抑制ひいては開発コスト削減のメリットを期待できる。今後の動向次第では、量産化段階での協業の可能性も検討するというから、しばらく目を離せそうにない。