公開日 2018/12/01 07:00
【特別企画】山之内正氏と同社代表が語り尽くす
<対談>DELAはネットワークオーディオをいかに変えたのか? 参入から「N10」登場までをふり返る
聞き手:山之内 正 構成:PHILE WEB編集部
“ネットワークオーディオ” が登場して早10年。この新しいカテゴリーの普及の過程では、特に黎明期に様々な課題がありユーザーも試行錯誤を避けられなかった。
DELAのミュージックライブラリー「N1Z/N1A」の登場は、こうした状況の転換点となったと言える。今年4周年を迎えたDELAは、オーディオ専用NASをいち早く手がけ、さらにはそれをミュージックライブラリーとして進化させていくことで、ネットワークオーディオをいかに変えたのか。黎明期からネットワークオーディオに取り組む第一人者である山之内正氏と、DELAブランドを手がけるメルコシンクレッツ(株)の代表取締役社長 荒木甲和氏がその足跡を辿った。
ユーザーも試行錯誤したネットワークオーディオ黎明期
■ネットワークプレーヤーの登場と、周辺機器をめぐるユーザーの試行錯誤
ーー 今回、DELA がネットワークオーディオの進化においてどのような役割を果たしたのか、お二人にお話いただきたいと思います。DELAが登場した意義を改めて考えるためにも、まずは黎明期のネットワークオーディオの状況について振り返っていただきたいと思います。
2007年11月にLINNが280万円というハイエンドクラスのネットワークプレーヤー「KLIMAXDS」を発売したことが、日本におけるネットワークオーディオの端緒のひとつになりました。山之内さんは発売間もなくこのKLIMAX DSを導入されました。
山之内 当時、LINN DSを導入した方のほとんどがそうだったと思いますが、増えすぎたCDを快適に楽しめる環境を構築することが最大の目的でした。ハイレゾ再生という目的もありましたが、膨大なCDをリッピングして、データとして一括管理しながら快適に試聴できるところにネットワークオーディオの魅力を感じました。
荒木 その際にKLIMAX DSと組み合わせるNASはどうされましたか。
山之内 パソコン専門店でバッファローのNASを買ったのですが、パソコン周辺機器のNASなのでファンはうるさいし、熱も持つしで試聴室にはとても置けず、隣の部屋においてLANケーブルを延ばして使っていました。ネットワークオーディオのために初めてNASを買ったという方は多かったでしょう。
荒木 バッファローは2003年頃からNASを販売していましたが、当時からNASはコアなパソコンユーザーを前提としたカテゴリーでした。用途もオフィスでのファイル共有がメインで、家庭でNASをホームサーバーとして使っていた方はわずかだったでしょう。デジタル放送のダビングに対応したNASも登場してはいましたが、あくまでテレビやレコーダーに付随するものでした。
■黎明期のネットワークオーディオの課題
山之内 その頃、ネットワークオーディオへの取り組みは試行錯誤の連続でした。NASをはじめ周辺機器について、ネットワークオーディオ向けの推奨の組み合わせやマニュアルはほぼなく、「これとこれを接続したら結果として上手くいった」という状況でした。私の場合、NASはいくつかのブランドを試しながら使っていくという状況が数年続きました。
荒木 比較的価格の安い国産ネットワークプレーヤーが登場した2010年くらいから、ネットワークオーディオに関する問い合わせが目立つようになりました。しかし当時は、NASの開発やサポートの担当者には、よもやNASがハイエンド*オーディオ用途で使われているとは想像もしていませんでした。
山之内 DLNAというネットワーク再生の枠組み自体は、当時すでにありましたよね。
荒木 はい。しかし、オーディオファンが困ったのは DLNA の範疇にはない細かなことでした。例えば、CDからリッピングした音源がトラック番号順ではなくアルファベット順に並んでしまうという問題がありました。IT的には楽曲が配信できるなら問題はないという認識だったのです。
山之内 操作アプリに表示されるカバーアートの解像度が低くなってしまう問題もありました。これには私自身もがっくりとさせられました。
荒木 スイッチを押すだけでは電源のオン/オフができないという仕様も、オーディオユーザーにとっては不可解なものだったでしょう。電源ボタンがどこにあるのかわからない、電源が落ちるまで時間がかかりすぎるといった声もありました。
山之内 その頃、私はネットワークプレーヤーを手がけるオーディオメーカーが、ストレージやサーバー、ハブ、ルーターといった周辺機器まで含めて手がけるべきだとさかんに提案していました。日本のメーカーにもそういった話をしてきましたが、どうやら難しいらしい。それで次に、バッファローのようなパソコン周辺機器を手がけるメーカーに、オーディオ向けのものを作れないのかと働きかけるようになりました。
荒木 私はデジタル放送録画の配信に対応したマルチメディアプレーヤーの担当でしたが、NASの部署とは近い位置にいたので、NASについてオーディオファンから様々な問い合わせが入っていること、それに対応できていない状況も認識していました。オーディオメーカーの協力を得て互換性の検証も始めましたが、それもあまり進んでいませんでした。
また、お客様がオーディオ店でNASやルーターの質問をすると「私たちの領域ではない」と言われ、それではとパソコン専門店に行ってネットワークオーディオの話をするとポカンとされてしまうという、お客様が “たらい回し” にされている状況もありました。そもそも、オーディオ専門店でNASが売っていないことが問題でした。
山之内 NASを扱っていなければ、オーディオ専門点もNASについての質問にも答える立場にないということになりますね。それから、熱心なオーディオファンの間ではNASによってネットワークプレーヤーの音質が変わるということも話題になっていたかと思います。一方で、オーディオ専用に音質を考慮した製品というのもほとんどありませんでした。
荒木 NASの音質については、後で触れますが、LS421におけるオーディオ販売店でデモを行う様になって直面することになりました。
山之内 こうした状況に対して、バッファローがネットワークオーディオに本格的に取り組むようになるきっかけは何だったのでしょうか。
DELAのミュージックライブラリー「N1Z/N1A」の登場は、こうした状況の転換点となったと言える。今年4周年を迎えたDELAは、オーディオ専用NASをいち早く手がけ、さらにはそれをミュージックライブラリーとして進化させていくことで、ネットワークオーディオをいかに変えたのか。黎明期からネットワークオーディオに取り組む第一人者である山之内正氏と、DELAブランドを手がけるメルコシンクレッツ(株)の代表取締役社長 荒木甲和氏がその足跡を辿った。
ユーザーも試行錯誤したネットワークオーディオ黎明期
■ネットワークプレーヤーの登場と、周辺機器をめぐるユーザーの試行錯誤
ーー 今回、DELA がネットワークオーディオの進化においてどのような役割を果たしたのか、お二人にお話いただきたいと思います。DELAが登場した意義を改めて考えるためにも、まずは黎明期のネットワークオーディオの状況について振り返っていただきたいと思います。
2007年11月にLINNが280万円というハイエンドクラスのネットワークプレーヤー「KLIMAXDS」を発売したことが、日本におけるネットワークオーディオの端緒のひとつになりました。山之内さんは発売間もなくこのKLIMAX DSを導入されました。
山之内 当時、LINN DSを導入した方のほとんどがそうだったと思いますが、増えすぎたCDを快適に楽しめる環境を構築することが最大の目的でした。ハイレゾ再生という目的もありましたが、膨大なCDをリッピングして、データとして一括管理しながら快適に試聴できるところにネットワークオーディオの魅力を感じました。
荒木 その際にKLIMAX DSと組み合わせるNASはどうされましたか。
山之内 パソコン専門店でバッファローのNASを買ったのですが、パソコン周辺機器のNASなのでファンはうるさいし、熱も持つしで試聴室にはとても置けず、隣の部屋においてLANケーブルを延ばして使っていました。ネットワークオーディオのために初めてNASを買ったという方は多かったでしょう。
荒木 バッファローは2003年頃からNASを販売していましたが、当時からNASはコアなパソコンユーザーを前提としたカテゴリーでした。用途もオフィスでのファイル共有がメインで、家庭でNASをホームサーバーとして使っていた方はわずかだったでしょう。デジタル放送のダビングに対応したNASも登場してはいましたが、あくまでテレビやレコーダーに付随するものでした。
■黎明期のネットワークオーディオの課題
山之内 その頃、ネットワークオーディオへの取り組みは試行錯誤の連続でした。NASをはじめ周辺機器について、ネットワークオーディオ向けの推奨の組み合わせやマニュアルはほぼなく、「これとこれを接続したら結果として上手くいった」という状況でした。私の場合、NASはいくつかのブランドを試しながら使っていくという状況が数年続きました。
荒木 比較的価格の安い国産ネットワークプレーヤーが登場した2010年くらいから、ネットワークオーディオに関する問い合わせが目立つようになりました。しかし当時は、NASの開発やサポートの担当者には、よもやNASがハイエンド*オーディオ用途で使われているとは想像もしていませんでした。
山之内 DLNAというネットワーク再生の枠組み自体は、当時すでにありましたよね。
荒木 はい。しかし、オーディオファンが困ったのは DLNA の範疇にはない細かなことでした。例えば、CDからリッピングした音源がトラック番号順ではなくアルファベット順に並んでしまうという問題がありました。IT的には楽曲が配信できるなら問題はないという認識だったのです。
山之内 操作アプリに表示されるカバーアートの解像度が低くなってしまう問題もありました。これには私自身もがっくりとさせられました。
荒木 スイッチを押すだけでは電源のオン/オフができないという仕様も、オーディオユーザーにとっては不可解なものだったでしょう。電源ボタンがどこにあるのかわからない、電源が落ちるまで時間がかかりすぎるといった声もありました。
山之内 その頃、私はネットワークプレーヤーを手がけるオーディオメーカーが、ストレージやサーバー、ハブ、ルーターといった周辺機器まで含めて手がけるべきだとさかんに提案していました。日本のメーカーにもそういった話をしてきましたが、どうやら難しいらしい。それで次に、バッファローのようなパソコン周辺機器を手がけるメーカーに、オーディオ向けのものを作れないのかと働きかけるようになりました。
荒木 私はデジタル放送録画の配信に対応したマルチメディアプレーヤーの担当でしたが、NASの部署とは近い位置にいたので、NASについてオーディオファンから様々な問い合わせが入っていること、それに対応できていない状況も認識していました。オーディオメーカーの協力を得て互換性の検証も始めましたが、それもあまり進んでいませんでした。
また、お客様がオーディオ店でNASやルーターの質問をすると「私たちの領域ではない」と言われ、それではとパソコン専門店に行ってネットワークオーディオの話をするとポカンとされてしまうという、お客様が “たらい回し” にされている状況もありました。そもそも、オーディオ専門店でNASが売っていないことが問題でした。
山之内 NASを扱っていなければ、オーディオ専門点もNASについての質問にも答える立場にないということになりますね。それから、熱心なオーディオファンの間ではNASによってネットワークプレーヤーの音質が変わるということも話題になっていたかと思います。一方で、オーディオ専用に音質を考慮した製品というのもほとんどありませんでした。
荒木 NASの音質については、後で触れますが、LS421におけるオーディオ販売店でデモを行う様になって直面することになりました。
山之内 こうした状況に対して、バッファローがネットワークオーディオに本格的に取り組むようになるきっかけは何だったのでしょうか。