公開日 2020/04/27 10:04
【特別連載 第1回】Ritek Pro“CG”/「音楽業界のプロが絶賛」
プロ御用達「That's」を彷彿、オーディオファン垂涎の高音質・高信頼性ディスクがRitekから誕生
PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
2015年12月、光ディスクメディア事業から撤退した太陽誘電。圧倒的な品質と信頼性から揺るぎない存在だった「That's」ブランドが姿を消し、音楽業界をはじめとするBtoB市場は窮地に立たされた。これという解決策も見いだせず思案投げ首というところへ今年、台湾の老舗 光ディスクメーカー「Ritek」(ライテック)から、「That's」ブランドに迫る高音質と高信頼性を実現した商品が救世主のごとく現れた。モデル名は「Ritek Professional with“CG”Technology(略称 Ritek Pro“CG”)」。本年末には民生用市場への展開も視野に入れるという。
幾多のハードルを乗り越え商品化を実現したRitek Pro“CG”の誕生の全貌を、商品開発アドバイザーとして眼を光らせた、音楽専門のCD-Rデュプリケートサービス事業で業界トップの実績を誇るディーアンドエーミュージック 代表取締役の白川幸宏氏、そして、That'sブランドの販売会社であった株式会社スタート・ラボで代表取締役社長 兼CEOを務めた揚伯裕氏という、二人のキーパーソンの証言から明らかにしていく。
■「That's」ブランド亡き後、路頭に迷う業務市場
光ディスクメディア市場、とりわけ、高い信頼性が問われる業務用市場において圧倒的な信頼を得ていた太陽誘電の「That's」。2015年12月末に惜しまれつつも光ディスクメディア事業から撤退し、「That's」ブランドは市場から姿を消した。
音楽専門のCD-Rデュプリケートサービス事業で約30年の実績を誇る、業界のトップ企業ディーアンドエーミュージックで代表取締役を務める白川幸宏氏は「最初は皆国産だった光ディスクメディアも、海外へのOEM化が進むことで品質は徐々に落ちていきました。その中で国産を守り抜いていたのが太陽誘電の『That's』ブランドです。音質の違いはまさに一“聴”瞭然で、私たち音楽を扱う業務用市場では、各業者がこぞってThat'sブランドの製品を使用していました」。しかし、全幅の信頼を寄せていたThat'sブランドが手に入らなくなる。「本当に何を使えばいいのか。音楽業界はもちろん、ハイスペックなレベルを求めるメーカーや業者は困惑しました」。
光ディスクメディアには、製造に関わる手順書ともいえる「code」がある。ドライブメーカーは、ドライブにそれをメディア情報として登録することで、個々のメディアに最適な状態での読み取りや書き込みを可能とする。なかでも太陽誘電「That's」の「TY code」は、品質の安定性の高さからすべてのドライブメーカーに承認され、ディーアンドエーミュージックのようにTY codeに最適化したドライブを特注でメーカーに発注するケースも見られたほどだ。
That's 亡き後、このTYコードを複数のメーカーが引き継いで製造を行った。同一コードなので、That'sブランドを使用する各社では、ドライブを同じ設定のままで使用することができる。しかし、レベルの違いは歴然だった。「同一コードとは言え、作っている機械や材料も違う、空気や水など環境も異なります。当然と言えば当然ですが、同品質にはならないのです。しかも、ロットごとのバラつきは大きいし、ロット内での個別のバラつきも見られました。That'sでは考えられなかったことです」と“That's後継品”の商品化は暗礁に乗り上げる。
それでも何かしら手を打ち、問題を解決しなければ立ち行かなくなる。白川氏はあるメーカーに依頼し、特別に生産ラインを指定して製造してもらい、その中から品質の安定しているロット、さらにまたその中からバラつきの少ないものを出荷してもらうことで、何とか急場をしのいだ。
「それでもThat'sを100点とすればまだ70点。50点以下だったものに比べればよいですが、何とかして80点以上のものができないかとあれこれ試行錯誤しました」。しかし、試作ベースでは80点を付けられる製品ができあがったとしても、量産ベースに移すと必ずどこかがおかしくなり、量産することができなかったという。そのようなタイミングに、That'sブランドの販売会社であるスタート・ラボで社長を務めていた揚伯裕氏から「RitekがBtoB市場への本格展開を考えている」と相談を受けることになる。
■ポテンシャルを最大限に活かす真摯な姿勢
太陽誘電の光ディスクメディア事業撤退に伴い、That'sブランドの販売会社であるスタート・ラボも清算の手続きがとられたが、揚氏は「取り引き先の全国の大手家電店様はじめ、官公庁、企業、さらには業界関係者や個人ユーザーなど、本当に多くの方々から事業の継続を懇願されたことが今でも思い出されます。また、BtoB市場関係者からはその後、残念ながらThat'sブランドを代替する商品がなく困っているとの話もよく耳にしていました」とまさに後ろ髪を引かれる思いだったと当時を振り返る。
そんな揚氏が2018年末、Ritek関係者と会食することになった。日本のBtoB市場開拓を目指す同社から、コンサルティング業務を依頼されたのだ。「Ritekとはスタート・ラボ時代にOEMでの取引経験がありました。商品品質を重視する経営方針から、同社製の商品で製造責任による市場クレームが出ることは皆無でした。そうした信頼感もあり、業界へ恩返しする意味からも、依頼をお受けすることにしたのです」。
スタート・ラボ時代にお世話になったお客様への訪問を開始する揚氏。その中のひとりが、妥協を許さない品質管理で有名なディーアンドエーミュージックの白川氏だった。Ritekとは以前より情報交換は行っていた白川氏だが、揚氏からBtoB市場参戦の話を聞かされると、「これはどうやら本気らしい。一か八か取り組んでみるに十分値しそうだ」と協力を決断する。商品開発アドバイザーとして、厳しい顧客目線による白川氏からの貴重なアドバイスの数々を糧に、商品開発プロジェクトはいよいよ本格スタートを切る。
しかし、白川氏にはひとつの不安要素があった。「高い技術力があり、頭脳明晰で、自ら試行錯誤しながらどんどん進化していきます。しかし、日本とは考え方において決定的な違いがあるのです。それは、日本にはコストを度外視してでも品質の優れたものを追求するという考え方がある。ピラミッドの頂点(業務用)にフラグシップモデルを配し、そこから裾野へ向け(民生用に)商品を広げていきます。それに対して、何よりまず重視するのはコストパフォーマンスなのです。高い技術力を駆使して徹底的にコストパフォーマンスを追求していく。その価値観の違いを埋めることは容易ではないと思いました」と高いハードルに覚悟を決めた。
しかし、そこには想像を超えるRitekの姿があった。現地・台湾本社に揚氏と共に赴いた白川氏は「会社としてまずしっかりしていること。さらに、レコードのアナログ盤のプレスからスタートした生い立ちから、カッティングマシーンや古いレコードスタジオまで持っている。そうしたベースは他の海外メーカーには見られなかったものです」と期待を膨らませた。さらに、「こちらが出すリクエストをまじめに聞いてくれるのです。私がもっとも要望したかったのは“初心に戻ってまじめに丁寧につくってほしい”ということ。これまでの海外メーカーはそれができませんでした。また、これまでRitekはBtoCを主戦場としており、BtoBに対する余計な知識を持っていなかったことも幸いしたのかもしれません」。
技術力は折り紙付きだ。Ritekの創業者・葉進泰氏は、1988年12月にRitek Corporationを設立した。社名は“Right(正義・正確)”と“Technology(科学技術・工業技術)”を融合した造語。文字通り、正確な技術に妥協しない社風を作り上げた。現在は光ディスクから派生して、有機ELディスプレイや医療用のバイオディスクまで手掛ける。医療用のバイオディスクは軍事用に次ぐ高い技術力が求められ、オーディオ用よりははるか上のレベルをいく。オーディオ用の電源として“ホスピタルグレード”が評価されていることは日本のオーディオファンもよく知るところだ。
2019年春、いよいよ商品開発が始められると、音質面での厳しい要求が白川氏から容赦なく突き付けられ、改善要求に応えた商品サンプル数は実に60を超えた。そしてついに、音質バランスに最も優れたサンプルの採用が確定する。揚氏は「Ritek Pro“CG”の商品化実現は、市場が求めるニーズとそこに向き合うRitekの真摯な姿勢がマッチした成果に他なりません。市場で何が必要とされているのか。それをきちんと理解してもらうためには、とにかく数多くの会話を重ねていくことが大事。これからもリピートし続けていきます」と気を引き締める。
幾多のハードルを乗り越え商品化を実現したRitek Pro“CG”の誕生の全貌を、商品開発アドバイザーとして眼を光らせた、音楽専門のCD-Rデュプリケートサービス事業で業界トップの実績を誇るディーアンドエーミュージック 代表取締役の白川幸宏氏、そして、That'sブランドの販売会社であった株式会社スタート・ラボで代表取締役社長 兼CEOを務めた揚伯裕氏という、二人のキーパーソンの証言から明らかにしていく。
■「That's」ブランド亡き後、路頭に迷う業務市場
光ディスクメディア市場、とりわけ、高い信頼性が問われる業務用市場において圧倒的な信頼を得ていた太陽誘電の「That's」。2015年12月末に惜しまれつつも光ディスクメディア事業から撤退し、「That's」ブランドは市場から姿を消した。
音楽専門のCD-Rデュプリケートサービス事業で約30年の実績を誇る、業界のトップ企業ディーアンドエーミュージックで代表取締役を務める白川幸宏氏は「最初は皆国産だった光ディスクメディアも、海外へのOEM化が進むことで品質は徐々に落ちていきました。その中で国産を守り抜いていたのが太陽誘電の『That's』ブランドです。音質の違いはまさに一“聴”瞭然で、私たち音楽を扱う業務用市場では、各業者がこぞってThat'sブランドの製品を使用していました」。しかし、全幅の信頼を寄せていたThat'sブランドが手に入らなくなる。「本当に何を使えばいいのか。音楽業界はもちろん、ハイスペックなレベルを求めるメーカーや業者は困惑しました」。
光ディスクメディアには、製造に関わる手順書ともいえる「code」がある。ドライブメーカーは、ドライブにそれをメディア情報として登録することで、個々のメディアに最適な状態での読み取りや書き込みを可能とする。なかでも太陽誘電「That's」の「TY code」は、品質の安定性の高さからすべてのドライブメーカーに承認され、ディーアンドエーミュージックのようにTY codeに最適化したドライブを特注でメーカーに発注するケースも見られたほどだ。
That's 亡き後、このTYコードを複数のメーカーが引き継いで製造を行った。同一コードなので、That'sブランドを使用する各社では、ドライブを同じ設定のままで使用することができる。しかし、レベルの違いは歴然だった。「同一コードとは言え、作っている機械や材料も違う、空気や水など環境も異なります。当然と言えば当然ですが、同品質にはならないのです。しかも、ロットごとのバラつきは大きいし、ロット内での個別のバラつきも見られました。That'sでは考えられなかったことです」と“That's後継品”の商品化は暗礁に乗り上げる。
それでも何かしら手を打ち、問題を解決しなければ立ち行かなくなる。白川氏はあるメーカーに依頼し、特別に生産ラインを指定して製造してもらい、その中から品質の安定しているロット、さらにまたその中からバラつきの少ないものを出荷してもらうことで、何とか急場をしのいだ。
「それでもThat'sを100点とすればまだ70点。50点以下だったものに比べればよいですが、何とかして80点以上のものができないかとあれこれ試行錯誤しました」。しかし、試作ベースでは80点を付けられる製品ができあがったとしても、量産ベースに移すと必ずどこかがおかしくなり、量産することができなかったという。そのようなタイミングに、That'sブランドの販売会社であるスタート・ラボで社長を務めていた揚伯裕氏から「RitekがBtoB市場への本格展開を考えている」と相談を受けることになる。
■ポテンシャルを最大限に活かす真摯な姿勢
太陽誘電の光ディスクメディア事業撤退に伴い、That'sブランドの販売会社であるスタート・ラボも清算の手続きがとられたが、揚氏は「取り引き先の全国の大手家電店様はじめ、官公庁、企業、さらには業界関係者や個人ユーザーなど、本当に多くの方々から事業の継続を懇願されたことが今でも思い出されます。また、BtoB市場関係者からはその後、残念ながらThat'sブランドを代替する商品がなく困っているとの話もよく耳にしていました」とまさに後ろ髪を引かれる思いだったと当時を振り返る。
そんな揚氏が2018年末、Ritek関係者と会食することになった。日本のBtoB市場開拓を目指す同社から、コンサルティング業務を依頼されたのだ。「Ritekとはスタート・ラボ時代にOEMでの取引経験がありました。商品品質を重視する経営方針から、同社製の商品で製造責任による市場クレームが出ることは皆無でした。そうした信頼感もあり、業界へ恩返しする意味からも、依頼をお受けすることにしたのです」。
スタート・ラボ時代にお世話になったお客様への訪問を開始する揚氏。その中のひとりが、妥協を許さない品質管理で有名なディーアンドエーミュージックの白川氏だった。Ritekとは以前より情報交換は行っていた白川氏だが、揚氏からBtoB市場参戦の話を聞かされると、「これはどうやら本気らしい。一か八か取り組んでみるに十分値しそうだ」と協力を決断する。商品開発アドバイザーとして、厳しい顧客目線による白川氏からの貴重なアドバイスの数々を糧に、商品開発プロジェクトはいよいよ本格スタートを切る。
しかし、白川氏にはひとつの不安要素があった。「高い技術力があり、頭脳明晰で、自ら試行錯誤しながらどんどん進化していきます。しかし、日本とは考え方において決定的な違いがあるのです。それは、日本にはコストを度外視してでも品質の優れたものを追求するという考え方がある。ピラミッドの頂点(業務用)にフラグシップモデルを配し、そこから裾野へ向け(民生用に)商品を広げていきます。それに対して、何よりまず重視するのはコストパフォーマンスなのです。高い技術力を駆使して徹底的にコストパフォーマンスを追求していく。その価値観の違いを埋めることは容易ではないと思いました」と高いハードルに覚悟を決めた。
しかし、そこには想像を超えるRitekの姿があった。現地・台湾本社に揚氏と共に赴いた白川氏は「会社としてまずしっかりしていること。さらに、レコードのアナログ盤のプレスからスタートした生い立ちから、カッティングマシーンや古いレコードスタジオまで持っている。そうしたベースは他の海外メーカーには見られなかったものです」と期待を膨らませた。さらに、「こちらが出すリクエストをまじめに聞いてくれるのです。私がもっとも要望したかったのは“初心に戻ってまじめに丁寧につくってほしい”ということ。これまでの海外メーカーはそれができませんでした。また、これまでRitekはBtoCを主戦場としており、BtoBに対する余計な知識を持っていなかったことも幸いしたのかもしれません」。
技術力は折り紙付きだ。Ritekの創業者・葉進泰氏は、1988年12月にRitek Corporationを設立した。社名は“Right(正義・正確)”と“Technology(科学技術・工業技術)”を融合した造語。文字通り、正確な技術に妥協しない社風を作り上げた。現在は光ディスクから派生して、有機ELディスプレイや医療用のバイオディスクまで手掛ける。医療用のバイオディスクは軍事用に次ぐ高い技術力が求められ、オーディオ用よりははるか上のレベルをいく。オーディオ用の電源として“ホスピタルグレード”が評価されていることは日本のオーディオファンもよく知るところだ。
2019年春、いよいよ商品開発が始められると、音質面での厳しい要求が白川氏から容赦なく突き付けられ、改善要求に応えた商品サンプル数は実に60を超えた。そしてついに、音質バランスに最も優れたサンプルの採用が確定する。揚氏は「Ritek Pro“CG”の商品化実現は、市場が求めるニーズとそこに向き合うRitekの真摯な姿勢がマッチした成果に他なりません。市場で何が必要とされているのか。それをきちんと理解してもらうためには、とにかく数多くの会話を重ねていくことが大事。これからもリピートし続けていきます」と気を引き締める。