[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第132回】高橋敦の“オーディオ金属”大全 − 音と密接に関わる「金属」を知る
●耐食性
金属にはその種類によって錆、緑青、白錆等の様々な現象が起きるが、それらをまとめてここでは広義での「腐食」とする。金属が空気中や人の皮膚等からの酸素や水分等と化学反応を起こしてその部分が変化する現象、その化学反応で生成される物のことだ。いわゆる「酸化」という言い方でもよいかもしれない。で、その腐食が起きやすいか起きにくいかというのが「対食性」だ。
代表的なものとしてはやはり鉄の「錆(さび)」だろう。鉄の弱点は?と聞かれたら「錆びること」を思い起こす方も多いのではないだろうか。だからこそ錆びないことが売りのステンレス鋼が開発され重宝されたりもしているわけだし。
銅の「緑青(ろくしょう)」とアルミの「白錆(しろさび?)」も実は身近に見ることができる。古い十円硬貨や一円硬貨が輝きを失って変色しているのを見かけたことがないだろうか。あれだ。
さてそのような腐食だが実は、腐食したところで実害はあんまりない場合もある。腐食の多くは空気や皮膚等と触れる表面でのみ起きる現象で、そしてその表面が腐食すればその腐食し終えた層が腐食に対する保護層となって、それ以上の腐食は進まないことが多い。表面だけの変質なら見た目的だけの話で実際の強度とかにはさほど影響がないということも少なくない。とすると「なら別にいいや」的放置も可能なのだ。
ただ例えばネジ類が腐食すればネジ山が潰れやすくなったり錆が噛みついたりで回しにくくなり、端子等の接点が腐食すれば信号伝送に支障が出るなど、普通に実害が出る場合もやっぱり多い。また美観や使い心地の問題としては、やっぱりあんまり腐食してほしくない方が多いだろう。
なので腐食することで問題のある箇所には腐食しにくい金属を使うか、「メッキ」によって対食性を高めるといった対策を講じるわけだ。
●磁性
磁力からの影響の受けやすさ。簡単に言えば磁性が強い強磁性の金属は磁石にくっつき、磁性からの影響が無視できるほど低い非磁性金属は磁石にくっつかない。そして逆に磁性の強い金属は周囲の磁場にも影響を与える。
スピーカーやヘッドホンの一般的なドライバーは磁力と電磁力で駆動されているので、その内部や周囲の材料は磁性も考慮して選ぶ必要がある。これはわかりやすいだろう。その他だと例えば電源トランスも、こちらもコイルなので、周囲の磁性体の影響を受けやすいようだ。そして突き詰めればあらゆる信号経路はわずかにせよ磁性体の影響を受けるとの話もある。
ちなみにそのような悪影響を「磁界の歪み=マグネティック・ディストーション」と呼ぶのだそうで、気分が高まった方は「マグネティック・ディストーション!」と高らかに叫んでみるとかっこいいかもしれない。もちろん周りに人がいないことを確認してからだ。さてそれで問題となる「強磁性の金属」というのは何かだが、ずばり「鉄」とその鉄がベースの「鋼」一般が主。他の例えばアルミや銅は非磁性金属。
●価格(希少性)
ここまでに挙げてきた特性のみから適材適所にどの金属を使うかを選べれば嬉しいところだが、そうもいかないのがこの問題。希少性の高い金属は高価であり、それを使えば製品の価格も上がる。例えば金や銀となればそれは「貴金属」であり、それがどういうお値段なのかはご存知の通りだ。
金や銀ほどではないにせよ例えば銅はアルミより高いなど、素材ごとに価格や入手性の差がある。メーカーが製品として開発するのであればそういった要素も考慮しないわけにはいかないし、ユーザーだって「音だけ重視で作りました。なので500万円です」みたいな製品ばかり作られてもこまるだろう。
前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 次へ