[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第132回】高橋敦の“オーディオ金属”大全 − 音と密接に関わる「金属」を知る
■金属素材でポイントになる主な特性
具体的な種類を挙げて説明していく前に、まずは金属をオーディオ機器に利用する場合にポイントになる特性の主なところを考えておこう。
●強度全般
木材の時と同じく「強度"全般"」というぼんやりとした表現にしておく。その理由も同じく、「強度」と一口に言っても色々な意味での強度があるからだ。
例えば「硬さ」と「粘り」ではその強さ丈夫さの種類が違う。一般に、硬い金属は硬いのでもちろん丈夫で磨耗もしにくかったりするが、限度を超えた力が加わると折れたり砕けたりしやすい。粘りのある金属は硬さでは劣っても折れにくかったり曲がりにくかったり弾性での復元力があったりする。日本刀の「折れず曲がらずよく斬れる」の理由のひとつが芯は粘りのある鋼で外側は硬い鋼という複合構造であることことはよく知られているところだ。
ということでオーディオにおいても様々な面での強度を考慮しての適材適所が求められる。後述の「加工性」「比重」等々との兼ね合いも含めてだ。何にせよ特に筐体、ケースやシャーシにおいてその第一の役割は内部回路を外部の衝撃等から守護ることであるので、金属全般の強度の高さには大きな意義があり、多用されている。
●加工性
加工性の低い金属だと、できあがる部品の価格が引き上げられてしまったり量産が難しくなったりする。例えば「硬いが脆い」タイプの金属で細かな形を削り出そうとすると角の部分が欠けたりしやすいし、硬い金属を削り出すとなると削り出す側の工具の消耗も激しくなり、そちらのメンテナンス費用もかさむ。
さて、いまは「切削」の場合の話をしたが、金属成型には他にも「鋳造」「鍛造」「プレス成型」など様々な手法がある。いまや金属3Dプリンタだってあるくらいだ。そして金属の種類ごとにそれらの加工方法それぞれとの相性というのもある。例えば粘り強い鉄鋼は強力な力で押し曲げたりするプレス加工にも強い。頑強さと削りやすさのバランスがよいアルミ合金は、切削で様々な形に削り出すのに向いている。
●比重
同一体積での重さ軽さは金属においても種類によって幅広い。身近なところだと例えば、一円硬貨の軽さは日頃から実感していることだろう。一円硬貨は比重の軽い金属の代表格である純アルミニウム製だ。
比重もやはり適材適所。例えばポータブル機器の筐体に軽い割には丈夫なアルミ合金がよく利用されるのは実に適材適所。また例えばイヤホンの筐体にはアルミ合金がよく利用されるが、その内部の制振パーツには真鍮(黄銅)が利用されていたりする。制振効果を狙うなら適度な比重で振動を受け止められる真鍮の方が適していることもその理由だろう。
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