[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第132回】高橋敦の“オーディオ金属”大全 − 音と密接に関わる「金属」を知る
■オーディオで使われている主な金属
ではいよいよ、オーディオで実際に利用されている主な金属とその用途を紹介していこう。
●銅
まずはやはり「銅」から紹介するべきだろう。オーディオにおいてその最大の特性と言えるのは導電性の高さ。常温において銅は純金属の中で二番目に高い導電性を持っている。一番目は銀なのだが、銀は貴金属なのでおいそれとは使えない。なので導電素材としてはオーディオに限らずあらゆる分野で銅こそが標準で基準となっている。なお「常温において」という条件設定の意味合いは「超電導は考慮しない」ということだ。これは以降での他の金属の解説でも前提とする。
さてその銅であるが、オーディオのケーブル等の素材としてはその純度が重視されることでも知られる。純度が高い=導電性が高い=より忠実な信号伝送を期待できるということでだ。なので様々な手法で純度を高めた銅が重用される。
一方で、オーディオに限らずだが電気的な話ではなくて物理的な話になると、純度の高い銅は強度は高くはないのでそのままでは使いにくい場合も多い。そこでそちらでは様々な銅合金が活用されている。
用途としては前述のケーブルを代表に導体として、配線材や基板上の配線、端子というのがいちばん。また非磁性体であることを生かして鉄の代わりにアンプ等のシャーシやネジに用いられることもある。他、スピーカーのドライバーユニットのチューニングパーツの銅キャップとして利用される例もある。
●純銅・無酸素銅(OFC=Oxygen-Free Copper)
不純物となる酸化物を含まない高純度の銅のこと。数値でいうと純度99.95%以上というのが目安だ。純度の「9/Nine」の数によって例えば純度99.99995%=6N銅のように呼ばれたりもする。もちろんNが多いほど高純度で、そしてその精製コストが反映されて高価格。一時期は純度競争も激しかったようだ。
オーディオケーブルでそれなりのお値段のものはだいたい普通にこの無酸素銅が使われている。「PCOCC」も「PC-Triple C」も無酸素銅のバリエーションだ。
導電性で言えばケーブル類だけではなく端子類の素材としても魅力的なのだが、端子類に求められる頑強さや製造時の加工のしやすさを満たすことが簡単ではなく、端子類への採用例は多くはない。
●黄銅=真鍮
亜鉛と合わせた「黄銅」やスズと合わせた「青銅」は一般的な銅合金だ。オーディオにおいては「黄銅」が、その別名である「真鍮」の方の名称でよく知られている。銅が65%で亜鉛が35%前後というのを基本に、その割合の調整で特性も調整できる。オーディオに用いられる際には「金管楽器にも用いられている音楽的な素材」というような売り文句が付くことも多いが、それよりも誰にでも身近なのは五円硬貨だろう。ちなみにインシュレーターに流用する技でもおなじみの十円硬貨は銅と錫(すず)の合金、青銅製。
真鍮は強度も十分にはありそして加工性が高く価格にも無理がないというフレンドリーな合金だ。なので様々な箇所に普通に用いられている。中でもこのところで目立って活躍している部分としては、ヘッドホンやイヤホンの内部に制振材としてリング型の真鍮が仕込まれているパターン。金属らしい適度な重さ、そして楽器にも使われるほどなので響きに嫌な癖はない。そういった特性が評価されての起用だろう。
また前述のように純銅は強度等の問題で端子類に使いにくいので端子類には、純銅には及ばないが十分な導電性は維持しているこの真鍮が多く使われている。
●亜鉛/亜鉛合金
話に出たのでこの流れで軽く紹介。亜鉛は前述の真鍮など、合金の成分として利用されることが多い。そして亜鉛ベースの亜鉛合金や亜鉛を多く含む合金は熱で溶かしやすく、溶かして型に流し込むダイキャスト成型との相性がよいことが特長だ。原材料として比較的安価で生産性も良好ということで、オーディオに限らず幅広く用いられている。…のだが、普通に便利に使われまくっている素材なので、あえて「亜鉛合金を採用!」とか宣伝されたりすることは少ない。そういうわけで逆に存在感は薄い薄い金属かもしれない。
次ページまだまだ主な金属ラインナップは続く。純アルミニウムやアルミニウム合金など
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