[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第184回】この素晴らしい吐息に祝福を!Just ear「Goddess Bless You」で “ブレスだけ” を聴きまくる
ブレスは歌の表現として欠かせない。しかし表現だけを考えていれば大丈夫という要素ではない。人はどこかで呼吸しなければ歌い続けることはできないのだ。おかしな言い回しだが、人としての限界は女神でさえも超えられない。しかしそれを踏まえてなお、その限界の中で最善の選択をし、最高のブレスを生み出す。それがブレスの女神たちだ。
ここまで述べてきたことは、ご本人でもなければボーカリストでさえもない僕の推測に過ぎない。ご本人がどれほど意図しているのか、ほとんど意図せず身体感覚でそうしているのか、それはわからない。だがやくしまるえつこという歌い手のブレスは、こんな推測をしたくなってしまうほどに多くのことを表現している。それは厳然たる事実だ。
相対性理論の曲にも冒頭のブレスから始まる曲は少なくない。冒頭のブレスがお好きな方々にも相対性理論はおすすめだ。そしてそれらがライブで披露されるとき、やくしまるえつこのその一呼吸は、まるで振り下ろされる指揮棒のようにバンドの音を導き出す。
■この素晴らしい吐息に祝福を!
最後に今回のリスニングパートナー、Just ear「Goddess Bless You」について改めて、感謝の意を込めつつ簡単に補足させていただく。「女神の吐息を耳元で感じたい、そんな思いでチューニングを行いました」というその意図と想いが全てではあるが、僕の印象としてもう少し具体的にお伝えしておこう。
ここまでに紹介してきた曲を中心に同社のプリセットチューニングモデル「XJE-MH2 Monitor」と聴き比べてみたのだが、女性ボーカルの吐息そのものの音は、実はそれほど変えてはいないのではないかと感じた。
しかし吐息の見え方、届き方はGoddess Bless Youの方が明瞭だ。実際の事は僕にはわからないが、声や息の帯域を強めるのではなくその周囲の帯域を整理することで相対的に声や息を浮かび上がらせているように感じさせられる。
またこの企画では、ブレスに集中してのリスニングを長時間に渡って続けたが、聴き疲れたという感覚は起きなかった。吐息の鋭さの帯域を強調することでそこを目立たせるような安易なチューニングではないと、その事からもわかる。「女神の祝福があらんことを」その名に相応しい、美しいチューニングだ。
このモデル自体はすでに販売されていない限定アイテムだが、音作りのプロによる「女神の吐息を耳元で感じたい」チューニングとはどういったものなのか?という点は、イヤホン選び全般の参考にもなるだろう。
またこのモデルは、同社テーラーメイドチューニングイヤホン「XJE-MH1」のチューニングバリエーションの一つ。「MH1ならこういうチューニングにまで対応できますよ」というサンプルでもあるわけだ。この記事で興味が湧いた方はJust earについてもさらにリサーチしてみてほしい。
ということで今回は、女性シンガーたちの“ブレス”だけに耳を傾けて、その意味、それが何をどのように表現しているのかについて考えてみた。音楽においては、編曲でも演奏でも録音でも再生でもバランスが大切だ。しかし時には何かに一点集中してみるのも良いだろう。
機会があれば皆様も、ご自身にとってのここだというポイントに意識を絞り込んで音楽を聴いてみてはいかがだろうか。何か新しい発見があるかもしれない。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら