[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第184回】この素晴らしい吐息に祝福を!Just ear「Goddess Bless You」で “ブレスだけ” を聴きまくる
こちらのお二人も声優さんでもあるわけだが、声優さんにとって息遣いや呼吸だけで何かを表現することは必須技術だろう。例えば台本に、「あまりの出来事に言葉を失う。『……』」と書かれていれば、その言葉にならない『……』を、声でも表情でも仕草でもなく、息遣いだけで表現しなければならない。それをやってみせてくれるのが声優さんだ。この曲このブレスには、息遣いだけで物語の始まりを表現する声優さんらしい表現力が凝縮されている(…もちろん僕の妄想だが)。
そういった「驚きのあまりつい」のような呼吸は、人の感情を強く表すものだ。またそもそも呼吸は人間らしさというか、呼吸する類の生物にとってその生命の象徴でもある。そういった観点から、呼吸の使い方が特に面白いと感じさせられた曲は、Perfume「Baby cruising Love」だ。
ご存知の通りPerfumeは、「Auto-Tune」という本来は音程補正用に開発されたエフェクトを極端な設定で利用した際に生まれる「アンドロイドボイス」、それを意図的に活用したボーカル処理をそのサウンドの特徴の一つとしている。人間の声を無機質に変化させ、それをサウンドに取り込んでいるわけだ。
ところがこの曲では、その無機質なサウンドの冒頭に生命の象徴である呼吸音が入れられている。さらにその呼吸音にもあのエフェクトが施されていて、呼吸音なのにデジタライズされた無機質さもあるのだ。
「恋の運命は、愛の証明は、二人の航海と何か似ているかもね」
「簡単な事って勘違いをしていたら判断誤って」
と、少しロマンチックながらもクールに分析する理性。
「ただ前を見ることは怖くてしょうがないね」
と、怯えてしまう感情。
この曲の切なさは、その二つが分かち難いということからも生まれていると思う。その矛盾する心を分かりやすく提示している一つが、冒頭の呼吸なのではないだろうか。この曲は最後も同じく呼吸によってエンディングとなる。そこに意味を見出してしまうのは無理からぬことだろう。それは光と闇の狭間にあったダース・ベイダーの呼吸音を思い起こさせる…というのはさすがに脱線だろうが。
その「Baby cruising Love」のブレスは、歌い手の解釈による曲の表現やそれを生かしたミックスの判断といった即興的なものではなく、曲の一部としてあらかじめ意図されていたパーツと思える。そのように曲の一部として意図的に組み込まれ、どのようなブレスを入れるのかの指示まで譜面に書き込まれていそうな、編曲の一部として欠かせないブレスというのもあるのだ。
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