公開日 2022/11/18 12:10
ボイスコミック『アイアムアヒーロー』で生身の限界に挑戦? 今井麻美さん特別インタビュー
原作読者としての熱い想いも
音声が付いた電子コミック、「ボイスコミック」作品として、『アイアムアヒーロー』の配信が決定した。数々の漫画賞にランクインし、実写映画化もされた人気作品だが、ボイスコミック化は今回が初となる。
ボイスコミック版『アイアムアヒーロー』配信に際して、ファイルウェブでは、原作者の花沢健吾さんと、主人公の鈴木英雄を演じる関智一さんによる対談の模様をお届けしたが、続く今回は同作の展開を引き立てる主人公・英雄の彼女、黒川徹子(てっこ)を演じる今井麻美さんにインタビュー。
かねてより原作のいち読者であったという今井さんの作品に対する想いや、アフレコ秘話、電子書籍ならではの「新しい表現」を得たボイスコミック版『アイアムアヒーロー』の魅力を存分に語っていただいた。
───本日はよろしくお願いします! 今回のボイスコミックは、動画にした漫画をコマ送りで眺めるタイプではなく、 “サウンドつきの漫画を読み進める” といった形式のコンテンツになりますが、参加されてみていかがでしょうか?
今井麻美さん(以下:今井) 私自身は小さいころから漫画を読んでいて、普通に読むだけでは飽き足らず、声に出して読んでいたような人間なので、そういう意味ではすごく自分の性に合っていますし、やっていてすごく楽しい仕事でした。
漫画を集めるのも紙から電子書籍に切り替えはしましたが、「漫画を読むときは声に出す」というのは今でもしています。
───昔の体験が今のお仕事と結びついているのはすごい話です! 漫画のコレクションは完全に電子に切り替えられたのですか?
今井 本当に好きな漫画とかは、捨てずに取っていて…それでも全盛期の1/10の量になっちゃって、本で残っている漫画は大体200冊くらいになってしまいました。昔はベッドの周りが漫画本だったので、母親に「あなたはいつか、漫画本に押しつぶされて死んでしまうのよ」なんて言われたことがあるくらいには、漫画にどっぷり浸かって生きてきました(笑)。
電子書籍が出てきたときは、新しいモノへの警戒心といいますか、「私は紙で!」と思っていましたが、気づけばその便利さに慣れてしまいましたね。
───つい頷きたくなるエピソードをありがとうございます。ボイスコミックは電子書籍ならではの「新しい表現」の一つかと思いますが、たとえばアニメへのアフレコなどと比べて難しく感じたポイントはありましたでしょうか?
今井 私達が声を吹き込んだものが音声素材として、再生順にファイリングされるところまでは想像がつきますが、今回のボイスコミックがどういった仕上がりになるのかまではわからなかったんですよね。
それなので、私は演技する上で、台本ではなく漫画をそのまま見ながら収録をしていて、あくまで私のペースで読み進めていましたけど、いざそれが作品化した時に「どれぐらいの間を取られるのか?」とか、他の方のお芝居とどういった噛み合わせになるのかというのは、製作の方にお任せするしかなかった感じですね。
でも、完成したものを聴かせていただいたら、自分が思っている以上にセリフの間とかが本当になめらかで、繋ぎもストレスフリーでびっくりしちゃいました!
───確かに今回のボイスコミックも「まず漫画である」わけですから、セリフの間についても考えさせられるものがありますね。お話のなかで気になったのですが、今回はアフレコ台本が用意されていたわけではなく、漫画をそのまま持ち込んで収録に臨まれたということなのでしょうか・・・?
今井 今回はなんと台本が2冊用意されていたんですよ! 1つは漫画を拡大コピーしていただいて、そのまま漫画のように読み進めていく台本。もう1つは、それを文章に起こして台本化されたものなんです。
わざわざ文章を起こして下さっているということは、CDドラマのように文字ベースの台本で進行するのかな? と最初は思っていたんですけど、「収録は漫画の方でやります」という付箋が貼ってあったんです。音声の収録順やト書きまでしっかり書かれた台本と照らし合わせることで、特有のコマ割りがある漫画台本での収録がしやすくなっていて、「凄い手間を掛けて下さっている!」と思わず感動してしまいました。
───実際に、文章のみの台本と漫画台本では、演技への熱の入り方が違ったりしますか?
今井 絶対に漫画台本の方がいいですね! 漫画を声に出して読むことが私の声優人生の原点でもあるので、より気持ちがすんなり入ってくるというか・・・。実際、漫画原作の作品のオーディションの現場でも、漫画の一部をコピーして「この部分を読んでください」と渡されることもあります。
同じように文章の台本と漫画台本の両方を用意してくださるオーディションの現場などでは、一応両方をチェックして、選ぶことができたら漫画を手にとることが多いです。絵コンテが描いてある物のほうが、演じる上でのイメージも広がりますし、リアリティが増したりするじゃないですか。そういった意味でも今回の収録手法は性に合っているなと思いました。
───今井さんの声優人生の原点が感じられる作品、ぜひともファンの皆様にも聴いていただきたいですね。ここで原作のお話をさせていただきたいのですが、今井さんが『アイアムアヒーロー』で演じられる黒川徹子(てっこ)は、比較的実在感のあるキャラクターかと思いますが、アフレコに臨む際に意識したこと、演じる上で苦戦した点などあれば教えてください。
今井 私が初めてこの漫画を読んだのは既に5巻くらいまで刊行されていたときでした。はじめは主人公の英雄の性格描写から、当時流行っていたようなオタクとオシャレの狭間を行く人間模様を描いたコメディかな・・・と思わせてからの! 超絶ファンタジーゾンビ漫画だったということに「ええーっ!」と驚きました(笑)。
日常の描写に物凄く力が入って描かれていたので、「絶対これ登場人物にモデル居るだろう!」 なんてことも読みながら思ってました(笑)。ひょっとしたら自分が演じたてっこにもそういう方が居るのかな・・・?って。
ちなみに漫画を読む時は職業柄「自分が演じるならどのキャラがいいか」と考えながら作品を手にとることが多いんですけれども、『アイアムアヒーロー』で言ったら見た瞬間に「てっこだな」となりましたね!
───今回の配役はまさに願ったり叶ったりといったところですね! ちなみに「てっこを演じたい」と思った理由は?
今井 一番の理由はほくろの位置ですね(笑)。てっこの象徴的な口の上のほくろ、私は逆側なんですけど同じ位置にあって、そういうところでもつい「花沢先生の周りにモデルになった方が居るのかな」とか考えちゃいます。でも、英雄とてっことの関係性を考えると、確実にご自身の体験を描いているとしか思えないほどのリアリティを感じますね。
───日常を描いた冒頭のパートの登場人物は、漫画的なキャラ付けもありはするものの、何処かに “居そう” と思わされます。
今井 『アイアムアヒーロー』の連載が始まったころって、今ほどオタク文化といわれるものが世間で認知されていなかった時代な訳じゃないですか? 英雄のキャラとその周りには、そんな理解が深まっていない時代故の鬱憤と葛藤がこれでもか! というくらい表れていますよね。
実は、そういう日常感がこの漫画で一番好きなパートだったりもするのですが、そこで重要なポジションにいる、てっこみたいなリアルな女性像を演じられたのは本当に嬉しいです。同じような生活を送っていたわけではないですけど、考え方も近しいなと思っていた部分もあったので、そういう意味では演じやすかったですね。
───セリフの書体も非常に不気味な「ZQN化(ゾンビ化)したてっこ」ですが、それを声で表現するにあたり工夫した点はありますか?
今井 “てっこが写っているけどセリフがないシーン” とかでも「ZQNの声を入れてほしい」というオーダーがあったんですよ。ですので、想像以上に唸っているシーンがありましたね。ディレクターさんが収録後に削る分は簡単なので、とにかく入れられるものは全部入れようという気持ちでやらせていただきました。
私自身は生身の人間でこれまでゾンビになったことがないですし、『アイアムアヒーロー』の世界観の中でのゾンビ、ZQNと言われているものは皆が思うゾンビなのか、作品によってもゾンビの解釈が違うので、唸り声一つ取ってもリアルな唸り声なのか、ちょっと人間っぽいのかなど色々考えました。ある種人智を超えたものの声を出すとなったら、機械を通して編集したほうが良いと思うんですけど、「生身から出てくる音でゾンビを演じて欲しい」という要望にも応えられるように、収録の場ではできる限りの色々な音を出しました!
───リアルな女性像からゾンビまで、てっこは確かに演じる上で色々考えることの多いキャラだと思います。
今井 胸を掴まれるくらい象徴的だったのが、てっこが英雄を噛んでZQN化させないために、自らの歯を折っていたというシーン。「ここで終わっておけばよかったものを・・・」と、つい思うほどに、3巻までで言ったら一番人間愛を感じるシーンだと思います。
ただ、そこに声を当てる自分は今歯が生えています。かと言って、役に近づくために歯が砕けるほどに力を込めて何か硬い物を噛み続けたら、私の歯も無くなっちゃうので・・・(笑)。それでも、てっこが何かを咥えながら唸っているのと、そうじゃない時の差というのは絶対にあるので、自分の手や、噛んでもいいような硬いものをブースに持ち込んで、それを噛みながら演じたりしました。
そして最後、英雄がてっこの口にティッシュを詰めてくれるシーンがあるんですけれども、そこは自分でもティッシュを口に詰めてみたり、リアルに出た音として表現できればいいな、と演技させていただきました。もし音声収録しているところが動画で出たりしたら、私はもう居た堪れなくなります(笑)。
───熱量が痛いほどに伝わるエピソードだと思います! 原作に関連した質問ですが、作品内で描かれる“英雄の異様な怖がり”について、作者の花沢慎吾先生の「そのまま」を反映したと事前の取材で仰っていましたが、今井さんは怖がりな方でしょうか? また、「一番怖いと感じるもの」などあれば教えてください。
今井 やっぱりそうですよね!? 読んでいた当時から絶対にそうだってずーっと思っていました! 英雄の性格って先生の自己投影がありますよね、10数年越しにスッキリしました! ありがとうございます!
ちなみに私もめちゃくちゃ怖がりな方で、特に音系に敏感です。怖がりな割にホラー映画とか観るんですが、いろいろな怖がらせ方があるじゃないですか? 特に突然音が鳴るみたいな演出に凄い弱くて、元々声量のある方なんですけど、驚いた時にとんでもない声を出しちゃうんですよね(笑)。
───だとすると、『アイアムアヒーロー』を読み進めるのは凄く怖かったのでは?
今井 いやー、怖かったです。私は特に、英雄が色々なものと戦い始めてからが怖かったですね。「一体どうなるんだ〜!」「どういう結末にするんですか!」という風に、毎度想像を超えてくるので。でも、怖いと面白いは表裏一体の要素なのかなって思いますし、それだけ引き込まれました。
───ちなみに、先程のお話の中で映画館の音という話題が出てきましたが、今井さんは普段、どういった音響機器をお使いでしょうか?
今井 今日は移動中、小岩井ことりさんにもらった黒いイヤホンを使っていました! 低音が凄くはっきり聴こえて、音楽聞く時にすごくよいので、自分の曲をチェックするときにも使っていたのが段々普段使い用になっていったという感じですね。他にもいくつかイヤホンを持っているので、その日の気分によって使い分けています。今日使ってる鞄の雰囲気だったらこっこちゃん(小岩井さん)がプレゼントしてくれた物が似合うかな、みたいに。
───他に使われているものについておわかりになる範囲で教えていただけますか?
今井 以前はWestoneさんの20数万円くらいのライブ用のイヤモニを使って町中を歩き回っていました(笑)。つい最近までよく使っていたのが、j-phonicさんのモデルで、10数年前はこれをライブでリアルに使っていました! 実際ステージだけでなく、日常でも使えるみたいな売られ方をしていたと思います。
ただこのイヤホン今年の4月に失くしてしまって、同じシリーズの新しいモデルを買い直したんですね。音もいいし、見た目も可愛いしでテンションが上がりました! ただ、私結構な頻度で物をなくしがちな人なので、AppleのAirTagを利用して、イヤホンを忘れるとiPhoneに「イヤホンと離れました」という通知が来るようにしています(笑)。
───イヤホンの紛失を防ぐために忘れ物防止タグを利用するとは、最近のガジェットに精通されていて驚きます。ワイヤレスのモデルはどうでしょうか?
今井 ワイヤレスイヤホンは今は使っていないですね! 理由としては2つあって、先程のお話のとおりすぐ失くしてしまいそうというのと、あとは使いたい時に100%充電を切らしていそうというところです。物が悪いのでは無く、主に私の性格に由来する理由なんです。
実際こっこちゃんに「おすすめのワイヤレスイヤホンない?」と聞いて、いくつかのオススメを教えてもらったなかで、見た目が可愛かったモデルを自分で買ってしばらく使っていたんですけど、やっぱり充電のタイミングが噛み合わなくて、「今すぐ音声チェックしたい!」というシチュエーションで電池が無いなんてことも何度かありまして・・・。
───バッテリーが長持ちするようになった分、いざというときに充電し忘れというのは “ワイヤレスイヤホンあるある” だと思います。では、ボイスコミックのような音声作品をより良い音で体験するとどんな楽しさが生まれると思いますか?
今井 ボイスコミックは沢山のセリフ分量がありながら、読み進める上でのラグの無さと、音声の劣化がほとんどないことを両立されているのに驚かされました。
私の声は中域が少なくて上下の幅が多いタイプで、昔は機械を通して上下の帯域がカットされてしまうため、声優向けの声質ではなかったそうなんですよ。実際に20代前半のころは録音した声と作品に載った声とのギャップに悩むこともあったのですが、その後制度や機材などの状況が変わってきて、自分の声が劣化しなくなったんですよね。
そういう体験をしている分、どれくらい自分の本当の声と違うのかなって気にするようになっているんですが、ボイスコミックのてっこの声は「本当の私の声だな」という印象が強かったです。より良い機材を使って聴いていただければ、生の声と遜色ないものが楽しめると思います!
───それでは最後に、本インタビューを読まれている方にメッセージをお願いします!
今井 十数年前は一読者だった『アイアムアヒーロー』の、それも「演じるならてっこが良いな」と思っていたてっこの役を、時が巡って私に演じる機会を与えてくださって本当に嬉しかったです! そういう縁もあり、今回全身全霊を込めてZQNを演じたので、ぜひそこに注目していただいて読んで聴いて欲しいです。
今回のボイスコミックというフォーマットがもっと皆様にとって当たり前の存在になれば、漫画を声に出して読んでいた世代の私としては非常に嬉しく思うので、今後ともぜひ注目していただければ嬉しいです!
───本日はありがとうございました!
◇
『アイアムアヒーロー』
原作 :花沢健吾
作品形式 :ボイスコミック
声の出演 :関智一、今井麻美、和氣あず未ほか
<あらすじ>
主人公・鈴木英雄 は、35歳の漫画家アシスタント。
現実への不満や将来への不安を抱え、恋人の黒川徹子に対しても苛立ちを募らせる。
ある日、英雄が徹子のアパートを訪ねると、変わり果てた姿の彼女と対峙することに。
謎の感染症により生きる屍となった徹子は、ドアを噛み千切り、狼狽する英雄に襲い掛かる。そして、街へ飛び出した英雄の目の前には衝撃の光景が ……!
散弾銃を手に首都圏から逃れた英雄は、富士の樹海で制服姿の女子高生・ 早狩比呂美 と出会う。未曽有のパンデミックに見舞われる中、英雄はヒーローになれるのか!?
●配信先
マンガアプリ『comipo』
APP Store https://apps.apple.com/jp/app/comipo/id1591548181
Google Play https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.vivion.comipo
WEBサービス『DLsite comipo』
https://www.dlsite.com/comic/
ボイスコミック版『アイアムアヒーロー』配信に際して、ファイルウェブでは、原作者の花沢健吾さんと、主人公の鈴木英雄を演じる関智一さんによる対談の模様をお届けしたが、続く今回は同作の展開を引き立てる主人公・英雄の彼女、黒川徹子(てっこ)を演じる今井麻美さんにインタビュー。
かねてより原作のいち読者であったという今井さんの作品に対する想いや、アフレコ秘話、電子書籍ならではの「新しい表現」を得たボイスコミック版『アイアムアヒーロー』の魅力を存分に語っていただいた。
小さい頃の原体験をそのままにした「ボイスコミック」収録秘話
───本日はよろしくお願いします! 今回のボイスコミックは、動画にした漫画をコマ送りで眺めるタイプではなく、 “サウンドつきの漫画を読み進める” といった形式のコンテンツになりますが、参加されてみていかがでしょうか?
今井麻美さん(以下:今井) 私自身は小さいころから漫画を読んでいて、普通に読むだけでは飽き足らず、声に出して読んでいたような人間なので、そういう意味ではすごく自分の性に合っていますし、やっていてすごく楽しい仕事でした。
漫画を集めるのも紙から電子書籍に切り替えはしましたが、「漫画を読むときは声に出す」というのは今でもしています。
───昔の体験が今のお仕事と結びついているのはすごい話です! 漫画のコレクションは完全に電子に切り替えられたのですか?
今井 本当に好きな漫画とかは、捨てずに取っていて…それでも全盛期の1/10の量になっちゃって、本で残っている漫画は大体200冊くらいになってしまいました。昔はベッドの周りが漫画本だったので、母親に「あなたはいつか、漫画本に押しつぶされて死んでしまうのよ」なんて言われたことがあるくらいには、漫画にどっぷり浸かって生きてきました(笑)。
電子書籍が出てきたときは、新しいモノへの警戒心といいますか、「私は紙で!」と思っていましたが、気づけばその便利さに慣れてしまいましたね。
───つい頷きたくなるエピソードをありがとうございます。ボイスコミックは電子書籍ならではの「新しい表現」の一つかと思いますが、たとえばアニメへのアフレコなどと比べて難しく感じたポイントはありましたでしょうか?
今井 私達が声を吹き込んだものが音声素材として、再生順にファイリングされるところまでは想像がつきますが、今回のボイスコミックがどういった仕上がりになるのかまではわからなかったんですよね。
それなので、私は演技する上で、台本ではなく漫画をそのまま見ながら収録をしていて、あくまで私のペースで読み進めていましたけど、いざそれが作品化した時に「どれぐらいの間を取られるのか?」とか、他の方のお芝居とどういった噛み合わせになるのかというのは、製作の方にお任せするしかなかった感じですね。
でも、完成したものを聴かせていただいたら、自分が思っている以上にセリフの間とかが本当になめらかで、繋ぎもストレスフリーでびっくりしちゃいました!
───確かに今回のボイスコミックも「まず漫画である」わけですから、セリフの間についても考えさせられるものがありますね。お話のなかで気になったのですが、今回はアフレコ台本が用意されていたわけではなく、漫画をそのまま持ち込んで収録に臨まれたということなのでしょうか・・・?
今井 今回はなんと台本が2冊用意されていたんですよ! 1つは漫画を拡大コピーしていただいて、そのまま漫画のように読み進めていく台本。もう1つは、それを文章に起こして台本化されたものなんです。
わざわざ文章を起こして下さっているということは、CDドラマのように文字ベースの台本で進行するのかな? と最初は思っていたんですけど、「収録は漫画の方でやります」という付箋が貼ってあったんです。音声の収録順やト書きまでしっかり書かれた台本と照らし合わせることで、特有のコマ割りがある漫画台本での収録がしやすくなっていて、「凄い手間を掛けて下さっている!」と思わず感動してしまいました。
───実際に、文章のみの台本と漫画台本では、演技への熱の入り方が違ったりしますか?
今井 絶対に漫画台本の方がいいですね! 漫画を声に出して読むことが私の声優人生の原点でもあるので、より気持ちがすんなり入ってくるというか・・・。実際、漫画原作の作品のオーディションの現場でも、漫画の一部をコピーして「この部分を読んでください」と渡されることもあります。
同じように文章の台本と漫画台本の両方を用意してくださるオーディションの現場などでは、一応両方をチェックして、選ぶことができたら漫画を手にとることが多いです。絵コンテが描いてある物のほうが、演じる上でのイメージも広がりますし、リアリティが増したりするじゃないですか。そういった意味でも今回の収録手法は性に合っているなと思いました。
「演じるなら黒川徹子(てっこ)役!」今井さんが語るその理由とは?
───今井さんの声優人生の原点が感じられる作品、ぜひともファンの皆様にも聴いていただきたいですね。ここで原作のお話をさせていただきたいのですが、今井さんが『アイアムアヒーロー』で演じられる黒川徹子(てっこ)は、比較的実在感のあるキャラクターかと思いますが、アフレコに臨む際に意識したこと、演じる上で苦戦した点などあれば教えてください。
今井 私が初めてこの漫画を読んだのは既に5巻くらいまで刊行されていたときでした。はじめは主人公の英雄の性格描写から、当時流行っていたようなオタクとオシャレの狭間を行く人間模様を描いたコメディかな・・・と思わせてからの! 超絶ファンタジーゾンビ漫画だったということに「ええーっ!」と驚きました(笑)。
日常の描写に物凄く力が入って描かれていたので、「絶対これ登場人物にモデル居るだろう!」 なんてことも読みながら思ってました(笑)。ひょっとしたら自分が演じたてっこにもそういう方が居るのかな・・・?って。
ちなみに漫画を読む時は職業柄「自分が演じるならどのキャラがいいか」と考えながら作品を手にとることが多いんですけれども、『アイアムアヒーロー』で言ったら見た瞬間に「てっこだな」となりましたね!
───今回の配役はまさに願ったり叶ったりといったところですね! ちなみに「てっこを演じたい」と思った理由は?
今井 一番の理由はほくろの位置ですね(笑)。てっこの象徴的な口の上のほくろ、私は逆側なんですけど同じ位置にあって、そういうところでもつい「花沢先生の周りにモデルになった方が居るのかな」とか考えちゃいます。でも、英雄とてっことの関係性を考えると、確実にご自身の体験を描いているとしか思えないほどのリアリティを感じますね。
───日常を描いた冒頭のパートの登場人物は、漫画的なキャラ付けもありはするものの、何処かに “居そう” と思わされます。
今井 『アイアムアヒーロー』の連載が始まったころって、今ほどオタク文化といわれるものが世間で認知されていなかった時代な訳じゃないですか? 英雄のキャラとその周りには、そんな理解が深まっていない時代故の鬱憤と葛藤がこれでもか! というくらい表れていますよね。
実は、そういう日常感がこの漫画で一番好きなパートだったりもするのですが、そこで重要なポジションにいる、てっこみたいなリアルな女性像を演じられたのは本当に嬉しいです。同じような生活を送っていたわけではないですけど、考え方も近しいなと思っていた部分もあったので、そういう意味では演じやすかったですね。
ZQN化てっこ、アフレコの裏側
───セリフの書体も非常に不気味な「ZQN化(ゾンビ化)したてっこ」ですが、それを声で表現するにあたり工夫した点はありますか?
今井 “てっこが写っているけどセリフがないシーン” とかでも「ZQNの声を入れてほしい」というオーダーがあったんですよ。ですので、想像以上に唸っているシーンがありましたね。ディレクターさんが収録後に削る分は簡単なので、とにかく入れられるものは全部入れようという気持ちでやらせていただきました。
私自身は生身の人間でこれまでゾンビになったことがないですし、『アイアムアヒーロー』の世界観の中でのゾンビ、ZQNと言われているものは皆が思うゾンビなのか、作品によってもゾンビの解釈が違うので、唸り声一つ取ってもリアルな唸り声なのか、ちょっと人間っぽいのかなど色々考えました。ある種人智を超えたものの声を出すとなったら、機械を通して編集したほうが良いと思うんですけど、「生身から出てくる音でゾンビを演じて欲しい」という要望にも応えられるように、収録の場ではできる限りの色々な音を出しました!
───リアルな女性像からゾンビまで、てっこは確かに演じる上で色々考えることの多いキャラだと思います。
今井 胸を掴まれるくらい象徴的だったのが、てっこが英雄を噛んでZQN化させないために、自らの歯を折っていたというシーン。「ここで終わっておけばよかったものを・・・」と、つい思うほどに、3巻までで言ったら一番人間愛を感じるシーンだと思います。
ただ、そこに声を当てる自分は今歯が生えています。かと言って、役に近づくために歯が砕けるほどに力を込めて何か硬い物を噛み続けたら、私の歯も無くなっちゃうので・・・(笑)。それでも、てっこが何かを咥えながら唸っているのと、そうじゃない時の差というのは絶対にあるので、自分の手や、噛んでもいいような硬いものをブースに持ち込んで、それを噛みながら演じたりしました。
そして最後、英雄がてっこの口にティッシュを詰めてくれるシーンがあるんですけれども、そこは自分でもティッシュを口に詰めてみたり、リアルに出た音として表現できればいいな、と演技させていただきました。もし音声収録しているところが動画で出たりしたら、私はもう居た堪れなくなります(笑)。
───熱量が痛いほどに伝わるエピソードだと思います! 原作に関連した質問ですが、作品内で描かれる“英雄の異様な怖がり”について、作者の花沢慎吾先生の「そのまま」を反映したと事前の取材で仰っていましたが、今井さんは怖がりな方でしょうか? また、「一番怖いと感じるもの」などあれば教えてください。
今井 やっぱりそうですよね!? 読んでいた当時から絶対にそうだってずーっと思っていました! 英雄の性格って先生の自己投影がありますよね、10数年越しにスッキリしました! ありがとうございます!
ちなみに私もめちゃくちゃ怖がりな方で、特に音系に敏感です。怖がりな割にホラー映画とか観るんですが、いろいろな怖がらせ方があるじゃないですか? 特に突然音が鳴るみたいな演出に凄い弱くて、元々声量のある方なんですけど、驚いた時にとんでもない声を出しちゃうんですよね(笑)。
───だとすると、『アイアムアヒーロー』を読み進めるのは凄く怖かったのでは?
今井 いやー、怖かったです。私は特に、英雄が色々なものと戦い始めてからが怖かったですね。「一体どうなるんだ〜!」「どういう結末にするんですか!」という風に、毎度想像を超えてくるので。でも、怖いと面白いは表裏一体の要素なのかなって思いますし、それだけ引き込まれました。
気分によって使い分け! 今井さんの使用機材に注目
───ちなみに、先程のお話の中で映画館の音という話題が出てきましたが、今井さんは普段、どういった音響機器をお使いでしょうか?
今井 今日は移動中、小岩井ことりさんにもらった黒いイヤホンを使っていました! 低音が凄くはっきり聴こえて、音楽聞く時にすごくよいので、自分の曲をチェックするときにも使っていたのが段々普段使い用になっていったという感じですね。他にもいくつかイヤホンを持っているので、その日の気分によって使い分けています。今日使ってる鞄の雰囲気だったらこっこちゃん(小岩井さん)がプレゼントしてくれた物が似合うかな、みたいに。
───他に使われているものについておわかりになる範囲で教えていただけますか?
今井 以前はWestoneさんの20数万円くらいのライブ用のイヤモニを使って町中を歩き回っていました(笑)。つい最近までよく使っていたのが、j-phonicさんのモデルで、10数年前はこれをライブでリアルに使っていました! 実際ステージだけでなく、日常でも使えるみたいな売られ方をしていたと思います。
ただこのイヤホン今年の4月に失くしてしまって、同じシリーズの新しいモデルを買い直したんですね。音もいいし、見た目も可愛いしでテンションが上がりました! ただ、私結構な頻度で物をなくしがちな人なので、AppleのAirTagを利用して、イヤホンを忘れるとiPhoneに「イヤホンと離れました」という通知が来るようにしています(笑)。
───イヤホンの紛失を防ぐために忘れ物防止タグを利用するとは、最近のガジェットに精通されていて驚きます。ワイヤレスのモデルはどうでしょうか?
今井 ワイヤレスイヤホンは今は使っていないですね! 理由としては2つあって、先程のお話のとおりすぐ失くしてしまいそうというのと、あとは使いたい時に100%充電を切らしていそうというところです。物が悪いのでは無く、主に私の性格に由来する理由なんです。
実際こっこちゃんに「おすすめのワイヤレスイヤホンない?」と聞いて、いくつかのオススメを教えてもらったなかで、見た目が可愛かったモデルを自分で買ってしばらく使っていたんですけど、やっぱり充電のタイミングが噛み合わなくて、「今すぐ音声チェックしたい!」というシチュエーションで電池が無いなんてことも何度かありまして・・・。
今作のてっこの声は「本当の私の声」。良い音でもっと楽しめるボイスコミック
───バッテリーが長持ちするようになった分、いざというときに充電し忘れというのは “ワイヤレスイヤホンあるある” だと思います。では、ボイスコミックのような音声作品をより良い音で体験するとどんな楽しさが生まれると思いますか?
今井 ボイスコミックは沢山のセリフ分量がありながら、読み進める上でのラグの無さと、音声の劣化がほとんどないことを両立されているのに驚かされました。
私の声は中域が少なくて上下の幅が多いタイプで、昔は機械を通して上下の帯域がカットされてしまうため、声優向けの声質ではなかったそうなんですよ。実際に20代前半のころは録音した声と作品に載った声とのギャップに悩むこともあったのですが、その後制度や機材などの状況が変わってきて、自分の声が劣化しなくなったんですよね。
そういう体験をしている分、どれくらい自分の本当の声と違うのかなって気にするようになっているんですが、ボイスコミックのてっこの声は「本当の私の声だな」という印象が強かったです。より良い機材を使って聴いていただければ、生の声と遜色ないものが楽しめると思います!
───それでは最後に、本インタビューを読まれている方にメッセージをお願いします!
今井 十数年前は一読者だった『アイアムアヒーロー』の、それも「演じるならてっこが良いな」と思っていたてっこの役を、時が巡って私に演じる機会を与えてくださって本当に嬉しかったです! そういう縁もあり、今回全身全霊を込めてZQNを演じたので、ぜひそこに注目していただいて読んで聴いて欲しいです。
今回のボイスコミックというフォーマットがもっと皆様にとって当たり前の存在になれば、漫画を声に出して読んでいた世代の私としては非常に嬉しく思うので、今後ともぜひ注目していただければ嬉しいです!
───本日はありがとうございました!
原作 :花沢健吾
作品形式 :ボイスコミック
声の出演 :関智一、今井麻美、和氣あず未ほか
<あらすじ>
主人公・鈴木英雄 は、35歳の漫画家アシスタント。
現実への不満や将来への不安を抱え、恋人の黒川徹子に対しても苛立ちを募らせる。
ある日、英雄が徹子のアパートを訪ねると、変わり果てた姿の彼女と対峙することに。
謎の感染症により生きる屍となった徹子は、ドアを噛み千切り、狼狽する英雄に襲い掛かる。そして、街へ飛び出した英雄の目の前には衝撃の光景が ……!
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●配信先
マンガアプリ『comipo』
APP Store https://apps.apple.com/jp/app/comipo/id1591548181
Google Play https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.vivion.comipo
WEBサービス『DLsite comipo』
https://www.dlsite.com/comic/
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