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公開日 2005/05/26 18:37
放送の未来は技術が創る−「NHK技研公開2005」会場レポート
NHK 放送技術研究所の公開展示が、本日26日(木)から29日(日)まで、世田谷区砧の同研究所で行われている。会場からのレポートをお届けしよう。
■NHK技研75年の研究成果が一望できる
NHK技研は今年で創立75周年を迎えた。これにちなみ、各時代を代表する研究成果が一同に展示されている。
会場に入って一番最初に展示されているのは、「イ」の字を表示したことで有名な日本初のテレビ。これは1926年に高柳健次郎博士が製作したもので、同博士はのちにNHK技研に迎えられ、テレビ開発に尽力した。
このほか、1938年に製作された全電子式撮像時代の幕開けとなった「アイコノスコープ」、1973年に開発された7インチPDPなど、現在の放送技術やAV機器の先駆けとなった研究を見ることができる。ちなみに、この7インチPDPの解像度は120×90ピクセル、輝度は90cd/m2、コントラスト比は47:1。現在のプラズマテレビと比べるとまさに隔世の感がある。
■最先端のデバイス、技術が勢揃い
会場を進むと、うってかわって、現在NHK技研が取り組んでいる最先端のデバイス技術が展示されている。まずは、昨年比で感度が10倍に向上したという冷陰極HARP撮像板。月明かり程度の明るさでも鮮明な映像が得られる撮像板で、災害取材などでの活躍が期待されている。現在は試作段階なので映像はモノクロで画素数も低いが、実用化に向けてカラー化、高画素化も進んでいるという。
また、折り曲げ可能なフレキシブル有機ELディスプレイ、フレキシブル液晶ディスプレイも、昨年からさらに性能を向上させた。フレキシブル液晶はA4サイズで、画素数は96×64。低電圧動作のフィルム液晶を、ポリマーのナノ構造技術で実現したという。ただし試作機は画素欠けが非常に多く、実用化には製造技術のブレークスルーが必要になりそうだ。
ワイヤレス通信を放送現場に活かす試みも多く見られたが、中でも実用的だと思われたのが、撮影した映像をアドホックネットワークで伝送する技術。自律的に動作する中継端末により映像をリレーし、安定した伝送を可能にしている。試作機はIEEE802.11gを使用しているが、「実用化の段階ではミリ波などさらに高い周波数帯域を使用し、高品位な映像を転送できるようにしたい」と担当者は語っていた。
■テレビの楽しみ方を変えるサーバー型放送
昨年に引き続き、サーバー型放送に関する研究成果も数多く披露されていた。サーバー型放送とは、映像を家庭内、あるいはネットワーク上のサーバーに蓄積し、いつでも見たいときに放送を視聴可能にする放送サービス。今回の展示には「規格化が今秋終了し、2007年頃スタートする」と明示されていた。
今回のデモでは、日立製の家庭内サーバーに、NHKのリアルタイム映像を常時取り込み、最近の番組をいつでも視聴可能にするとともに、ネットワークを通じてNHKアーカイブスに接続すると、VOD(ビデオ・オン・デマンド)で過去の番組(デモでは「N響アワー」)が閲覧できる、というソリューションを実現していた。
VODサービスについては有料となるが、「NHKは放送法の制約で課金サービスが行えないため、関連会社と協調してサービス展開を図ることになる」とのこと。
このほか、WOWOWのサーバー型放送デモも展示されていた。これは家庭内サーバーに蓄積されたコンテンツを視聴しようとすると、外部ネットワークに接続してユーザー認証と代金決済を行い、コンテンツの鍵を解除して視聴が可能になるというもの。外部サーバーからストリーム転送を行うわけではないので技術的なハードルは低そうだ。
サーバー型放送では、膨大なコンテンツから自分が見たいものを探し出す必要があるため、コンテンツに何が記録されているか、という情報を記した「メタデータ」が非常に重要になる。たとえば松井秀喜が映っているシーンに「松井秀喜」というメタデータを入力しておけば、あとで松井秀喜が映っているシーンだけをまとめて視聴することができる。
メタデータの質や量によって、コンテンツの検索性は大きく変わるが、詳細なメタデータを手動で入力するには相当のマンパワーが必要になる。NHKではこれを自動化する試みも行っており、映像をリアルタイムで分析し、メタデータを自動生成する技術を開発している。デモではサッカーの試合が使われ、得点シーンだけを切り出したり、コーナーキックだけを閲覧したりする展示が行われていた。ちなみに、昨年は野球中継がデモに使われていた。サッカーの方が画面上に一度に現れる選手の数が多いため、システムにかかる負荷も増えると思われる。その意味で、野球がサッカーに変わったのも技術の進化を現すものと言えるだろう。
そのほか、サーバー型放送では認証技術、電子透かし技術などの要素技術、また学校内での応用展開など、様々な展示を見ることができた。
■いよいよ動き出すケータイ向け地上デジタル放送
地上デジタル放送は家庭用テレビ向けだけでなく、移動体や携帯電話向けにも行われることが決まっている。携帯電話向けの放送は2006年春のスタートが予定されており、いよいよ放送開始に向け時間が少なくなってきた。
今回の展示では、実際の携帯電話で、H.264/AVCでエンコードした映像を表示するデモを見ることができた。H.264のビットレートは128kbpsで、Pentium4 3GHz程度のPCでソフトウェアエンコードしたもの。人間の視覚特性に合わせるなどの工夫をエンコードのアルゴリズムに盛り込むことにより、128kbpsという低いビットレートでも自然で鮮明な映像を実現することに成功した。なお、まだ正式決定ではないが、「本放送でも128kbpsが使われることになりそう」だという。フレームレートは15fps、画素数は320×180ピクセルになりそうだ。
■走査線4000本!スーパーハイビジョンを「大相撲」でアピール
ハイビジョンの16倍の解像度を持つ「スーパーハイビジョン」は、今年も特設の映写室でデモ映像を体験することができた。
「スーパーハイビジョン」の解像度は、実に7680×4320ピクセルに達する。フレームレートは60Hz。音響面も超ハイクオリティを実現しており、22.2チャンネルのサラウンドが楽しめる。
今回は大相撲がデモ映像に使われ、力士たちの肌の質感、ぶつかり合ったときに飛び散る汗までも克明に再現する圧倒的な描写力に、訪れた人々の多くが感嘆の声を上げていた。
技研では、スーパーハイビジョンを今後の映像・音響技術の中核として位置づけ、幅広い応用を想定した研究開発を行うという。伝送では21GHz帯の無線を活用する案が有力としているが、21GHz帯では降雨減衰が強くなるため、この対策を進める考えだ。
【イベント概要】
●イベント名:NHK技研公開2005
●日時:5月26日(木)〜29日(日)
午前10:00〜午後5:00
(入場は午後4:30まで)
●会場:NHK 放送技術研究所
東京都世田谷区砧1-10-11(地図はこちら)
(Phile-web編集部)
■NHK技研75年の研究成果が一望できる
NHK技研は今年で創立75周年を迎えた。これにちなみ、各時代を代表する研究成果が一同に展示されている。
会場に入って一番最初に展示されているのは、「イ」の字を表示したことで有名な日本初のテレビ。これは1926年に高柳健次郎博士が製作したもので、同博士はのちにNHK技研に迎えられ、テレビ開発に尽力した。
このほか、1938年に製作された全電子式撮像時代の幕開けとなった「アイコノスコープ」、1973年に開発された7インチPDPなど、現在の放送技術やAV機器の先駆けとなった研究を見ることができる。ちなみに、この7インチPDPの解像度は120×90ピクセル、輝度は90cd/m2、コントラスト比は47:1。現在のプラズマテレビと比べるとまさに隔世の感がある。
■最先端のデバイス、技術が勢揃い
会場を進むと、うってかわって、現在NHK技研が取り組んでいる最先端のデバイス技術が展示されている。まずは、昨年比で感度が10倍に向上したという冷陰極HARP撮像板。月明かり程度の明るさでも鮮明な映像が得られる撮像板で、災害取材などでの活躍が期待されている。現在は試作段階なので映像はモノクロで画素数も低いが、実用化に向けてカラー化、高画素化も進んでいるという。
また、折り曲げ可能なフレキシブル有機ELディスプレイ、フレキシブル液晶ディスプレイも、昨年からさらに性能を向上させた。フレキシブル液晶はA4サイズで、画素数は96×64。低電圧動作のフィルム液晶を、ポリマーのナノ構造技術で実現したという。ただし試作機は画素欠けが非常に多く、実用化には製造技術のブレークスルーが必要になりそうだ。
ワイヤレス通信を放送現場に活かす試みも多く見られたが、中でも実用的だと思われたのが、撮影した映像をアドホックネットワークで伝送する技術。自律的に動作する中継端末により映像をリレーし、安定した伝送を可能にしている。試作機はIEEE802.11gを使用しているが、「実用化の段階ではミリ波などさらに高い周波数帯域を使用し、高品位な映像を転送できるようにしたい」と担当者は語っていた。
■テレビの楽しみ方を変えるサーバー型放送
昨年に引き続き、サーバー型放送に関する研究成果も数多く披露されていた。サーバー型放送とは、映像を家庭内、あるいはネットワーク上のサーバーに蓄積し、いつでも見たいときに放送を視聴可能にする放送サービス。今回の展示には「規格化が今秋終了し、2007年頃スタートする」と明示されていた。
今回のデモでは、日立製の家庭内サーバーに、NHKのリアルタイム映像を常時取り込み、最近の番組をいつでも視聴可能にするとともに、ネットワークを通じてNHKアーカイブスに接続すると、VOD(ビデオ・オン・デマンド)で過去の番組(デモでは「N響アワー」)が閲覧できる、というソリューションを実現していた。
VODサービスについては有料となるが、「NHKは放送法の制約で課金サービスが行えないため、関連会社と協調してサービス展開を図ることになる」とのこと。
このほか、WOWOWのサーバー型放送デモも展示されていた。これは家庭内サーバーに蓄積されたコンテンツを視聴しようとすると、外部ネットワークに接続してユーザー認証と代金決済を行い、コンテンツの鍵を解除して視聴が可能になるというもの。外部サーバーからストリーム転送を行うわけではないので技術的なハードルは低そうだ。
サーバー型放送では、膨大なコンテンツから自分が見たいものを探し出す必要があるため、コンテンツに何が記録されているか、という情報を記した「メタデータ」が非常に重要になる。たとえば松井秀喜が映っているシーンに「松井秀喜」というメタデータを入力しておけば、あとで松井秀喜が映っているシーンだけをまとめて視聴することができる。
メタデータの質や量によって、コンテンツの検索性は大きく変わるが、詳細なメタデータを手動で入力するには相当のマンパワーが必要になる。NHKではこれを自動化する試みも行っており、映像をリアルタイムで分析し、メタデータを自動生成する技術を開発している。デモではサッカーの試合が使われ、得点シーンだけを切り出したり、コーナーキックだけを閲覧したりする展示が行われていた。ちなみに、昨年は野球中継がデモに使われていた。サッカーの方が画面上に一度に現れる選手の数が多いため、システムにかかる負荷も増えると思われる。その意味で、野球がサッカーに変わったのも技術の進化を現すものと言えるだろう。
そのほか、サーバー型放送では認証技術、電子透かし技術などの要素技術、また学校内での応用展開など、様々な展示を見ることができた。
■いよいよ動き出すケータイ向け地上デジタル放送
地上デジタル放送は家庭用テレビ向けだけでなく、移動体や携帯電話向けにも行われることが決まっている。携帯電話向けの放送は2006年春のスタートが予定されており、いよいよ放送開始に向け時間が少なくなってきた。
今回の展示では、実際の携帯電話で、H.264/AVCでエンコードした映像を表示するデモを見ることができた。H.264のビットレートは128kbpsで、Pentium4 3GHz程度のPCでソフトウェアエンコードしたもの。人間の視覚特性に合わせるなどの工夫をエンコードのアルゴリズムに盛り込むことにより、128kbpsという低いビットレートでも自然で鮮明な映像を実現することに成功した。なお、まだ正式決定ではないが、「本放送でも128kbpsが使われることになりそう」だという。フレームレートは15fps、画素数は320×180ピクセルになりそうだ。
■走査線4000本!スーパーハイビジョンを「大相撲」でアピール
ハイビジョンの16倍の解像度を持つ「スーパーハイビジョン」は、今年も特設の映写室でデモ映像を体験することができた。
「スーパーハイビジョン」の解像度は、実に7680×4320ピクセルに達する。フレームレートは60Hz。音響面も超ハイクオリティを実現しており、22.2チャンネルのサラウンドが楽しめる。
今回は大相撲がデモ映像に使われ、力士たちの肌の質感、ぶつかり合ったときに飛び散る汗までも克明に再現する圧倒的な描写力に、訪れた人々の多くが感嘆の声を上げていた。
技研では、スーパーハイビジョンを今後の映像・音響技術の中核として位置づけ、幅広い応用を想定した研究開発を行うという。伝送では21GHz帯の無線を活用する案が有力としているが、21GHz帯では降雨減衰が強くなるため、この対策を進める考えだ。
【イベント概要】
●イベント名:NHK技研公開2005
●日時:5月26日(木)〜29日(日)
午前10:00〜午後5:00
(入場は午後4:30まで)
●会場:NHK 放送技術研究所
東京都世田谷区砧1-10-11(地図はこちら)
(Phile-web編集部)