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公開日 2007/09/18 16:16
高音質の新しい楽しみ方 − VAIOとPS3によるDSD再生の実力を岩井喬がチェック!
ソニーが持つPCブランド「VAIO」は、デザインの良さ、オーディオ&ビジュアルに特化した機能性など、PCにおけるメーカー間の平均化が進む現在の市場の中では、根強い人気を誇るブランドである。DSD信号の記録再生にも対応しており、109.8dBもの高SN比を誇る専用音声チップ“Sound Reality”の搭載や、高度なエフェクト処理も可能な音声編集ソフト「Sonic Stage Mastering Studio」(以下、SSMS)のバンドルなど、これまであまり大きく取り上げられることがなかったが、オーディオに対しての機能性も大変優れている。
本年5月に発表された2007年夏モデルにおいて、インテルCore 2 Duoプロセッサ2GHz搭載モデルにバンドルされることが決まった「DSD Direct Player」は、これまでPCMからDSDへの変換処理を実時間の倍以上かけて行っていたもの(「DSD Direct」機能)を、リアルタイム処理で変換し、PCM信号のCDをSACD相当となる1bit/2.8MHz・DSD信号で楽しむことができるという画期的な機能である。ピュアオーディオの製品でも相当高級なモデルに搭載されている機能を、汎用型の一般的なPCで可能としたことは大変興味深いことでもあり、DSDの良さを身近に体感することができる素晴らしいソフトであると思う。なお、その処理は大変高度かつCPU負荷の大きいものであり、「DSD Direct Player」起動時は他のソフトウェアは使用できないと考えた方が良い。
■「DSD Direct Player」でリアルタイムにDSD再生
今回「DSD Direct Player」がバンドルされたtypeL(19型ワイド)を用い、その実力を確認してみた。当モデルのアナログ音声出力はヘッドホン出力のみとなっており、ステレオミニ→RCAピンプラグケーブルでアンプ(デノン「AVC-3890」。スピーカーはB&W「CM1」)に接続し、試聴を行った。“Sound Reality”によってヘッドホン出力でも十分SNは良いのだが、今後高音質なアナログラインアウト端子を搭載した普及帯モデルの登場が望まれるところだ。
まず、一般のCDを「Windows Media Player」でWAVファイルでリッピング。PCM信号で試聴した後に「DSD Direct Player」を起動し、DSD信号に変換した状態で改めて試聴した。今回用意した音源は『TOTO/TAMBU』(SRCS7818)である。「DSD Direct Player」での音質の優位性は明らかで、「Windows Media Player」での再生に較べて個々の楽器のリアリティが向上し、よりダイナミクス・抑揚感が分かるようになる。DSD方式特有の空間再現性の高さがこの場合でもしっかり確認でき、特に低域方向の見通しが格段に向上する。「The Road Goes On 」では多少奥まった配置でミキシングしているスティーブ・ルカサーのギタープレイにおいて、あまり前に出てこないプレイニュアンスであっても、定位・位相感は維持したままで細かい部分までもが見通せるほどであった。
■「Sonic Stage Mastering Studio」でDSDディスクを作成
次にSSMSを活用し、リッピングしたCDの音声をVAIO独自規格である「DSDディスク」フォーマットでDSD化させてDVD-RWに記録。このDSDディスクをプレイステーション3(以下、PS3。DSDディスクを読み込みできるのはシステムソフトウェアVer.1.60以上)で再生させ、元のCDと音質比較も行ってみた。VAIOでの自己録再確認も可能であるが、今回はDSD再生環境の裾野ともいえるゲーム機、PS3での再生クオリティの確認を優先したいと思う。SSMS上ではリッピングした音声ファイルを開き、エフェクト処理設定などは一切行わず、そのままディスク焼き込み工程に進む。そしてDSDディスクを作成するタブを選択するだけで作業手順は終了するという、いたって簡単な操作だけである。ちなみにPS3はシステムソフトウェアVer.1.90より音楽CDのアップサンプリング再生が可能となっており、最大176.4kHzでの出力に対応するようになった。今回の試聴においては光デジタルでアンプと接続。176.4kHzのアップサンプリングを適応した。
まずはCDをPS3にセットし試聴を行う。VAIOで「Windows Media Player」を用いて試聴したときと較べ、輪郭が立ったメリハリの効いたサウンド傾向である。一旦アップサンプリング設定から通常の48kHzに切り替え、アップサンプリングの効果も確かめたのだが、176.4kHzの場合は各楽器の粒立ちが良くなり、質感も向上。よりリアリティがアップし、全体のざらつき感もなくなってくる。ここまで確認した段階でDSDディスクへと交換。元は同じ音源がどのように変化するのか試聴を進めていった。
DSDディスクを聴き始めた瞬間、そのとげとげしさのない音に驚いた。落ち着きと奥行き感のある、DSD特有の空間表現の巧みさもしっかり再現されており、全体的に高級感漂う音へと変貌を遂げていた。PCMの場合はいくらアップサンプリングの効果が大きいとはいえ、全体的に音像が圧縮され、平面な定位感であったのだが、DSDディスクでは圧縮された空間表現が一気に解けて自然に空間が広がっていくような印象である。何も説明していなければ同じ音源であることを悟られることがないほど、そのクオリティは高く、その差をきちんと描き分けたPS3の再生能力の高さにも驚いた。DSDの場合、PCMからの変換後、再生時にデジタルフィルターが一段省略される格好になるのだが、その優位性を実感できる体験であるといえよう。
■「SACD」と「DSD化したCD」を聴き比べてみた
PS3のオーディオ機器としての性能の高さを物語るもう一つの機能性として、SACD再生にも対応している点が挙げられる。ここでもう一つ実験試聴を行ってみようと思う。SACDのソフトにはCDとして再生できるハイブリッド構造となっているものが多い。そこで、SACDが再生できないVAIO上で“CD層を「DSD Direct Player」で再生”してDSD化されたものと、PS3でそのままSACDを試聴し、同じ“DSD”フォーマットの音質差が生まれるのかも比較してみた。
試聴に用いたのは『宮本笑里/smile』(SICC-10052)から、オーボエとバイオリン、そしてピアノの組み合わせが美しいカッチーニの「アヴェ・マリア」を聴いた。最終形態として同じDSD信号となるこの試聴であったが、ハードの音声出力部における音質差の方が目立ち、純粋な比較は難しいと判断せざるを得ないが、PS3によるSACD再生の方がエッジが立ち、微妙なニュアンス表現が強めに出る傾向であった。ピアノのリバーブ感、オーボエをおさえる指の動き、バイオリンの弦の輝きにおいて、その差が良くでているように思う。
■オーディオプレーヤーとしてのPS3の実力も再確認
さらに実験として、PS3には酷なことではあるが、高級マルチプレーヤーであるデノン「DVD-A1XV」との比較試聴も行った。純粋なSACDでの再生でどのくらい差が出るものなのか、個人的にも興味があったのだが、結論から言えばその価格差を感じさせないほどPS3がかなり健闘しているという印象を持った。安定度の高さ、楽器の質感や存在感の差は断然「DVD-A1XV」が優勢である。ひと回りもふた回りも空気感のリアリティが違うのだが、PS3から再生される音についてもゲーム機という概念を超えた次元の高さを感じることができた。活用の仕方によっては専用機にも負けない音作りができるのではないだろうか。
今回の試聴の中での大きな発見は、保有するCDをDSDディスクへと発展させることによって、まるで別世界ともいえるサウンドを手軽に楽しめてしまうという事実だ。そしてPS3そのもののオーディオプレーヤーとしての性能の高さを改めて実感したという点である。これらの発見を踏まえ、次回はVAIOとPS3を用いた高音質術のセカンド・ステップとして、SSMSを活用し、取り込んだCDなどの音声をEQやコンプレッサーなどのエフェクト処理により“自分だけのリマスター盤”を作成する方法について実験してみたいと思う。SSMS上でのエフェクト処理はPCM信号でしか行えないが、エフェクト効果を加えた後に、今回行ったDSDディスクへの変換は可能なので、“マイ・リマスター盤のDSD化”がどれほど高音質なものであるのかについても言及してみたいと思っている。
(岩井喬)
岩井喬プロフィール
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。
本年5月に発表された2007年夏モデルにおいて、インテルCore 2 Duoプロセッサ2GHz搭載モデルにバンドルされることが決まった「DSD Direct Player」は、これまでPCMからDSDへの変換処理を実時間の倍以上かけて行っていたもの(「DSD Direct」機能)を、リアルタイム処理で変換し、PCM信号のCDをSACD相当となる1bit/2.8MHz・DSD信号で楽しむことができるという画期的な機能である。ピュアオーディオの製品でも相当高級なモデルに搭載されている機能を、汎用型の一般的なPCで可能としたことは大変興味深いことでもあり、DSDの良さを身近に体感することができる素晴らしいソフトであると思う。なお、その処理は大変高度かつCPU負荷の大きいものであり、「DSD Direct Player」起動時は他のソフトウェアは使用できないと考えた方が良い。
■「DSD Direct Player」でリアルタイムにDSD再生
今回「DSD Direct Player」がバンドルされたtypeL(19型ワイド)を用い、その実力を確認してみた。当モデルのアナログ音声出力はヘッドホン出力のみとなっており、ステレオミニ→RCAピンプラグケーブルでアンプ(デノン「AVC-3890」。スピーカーはB&W「CM1」)に接続し、試聴を行った。“Sound Reality”によってヘッドホン出力でも十分SNは良いのだが、今後高音質なアナログラインアウト端子を搭載した普及帯モデルの登場が望まれるところだ。
まず、一般のCDを「Windows Media Player」でWAVファイルでリッピング。PCM信号で試聴した後に「DSD Direct Player」を起動し、DSD信号に変換した状態で改めて試聴した。今回用意した音源は『TOTO/TAMBU』(SRCS7818)である。「DSD Direct Player」での音質の優位性は明らかで、「Windows Media Player」での再生に較べて個々の楽器のリアリティが向上し、よりダイナミクス・抑揚感が分かるようになる。DSD方式特有の空間再現性の高さがこの場合でもしっかり確認でき、特に低域方向の見通しが格段に向上する。「The Road Goes On 」では多少奥まった配置でミキシングしているスティーブ・ルカサーのギタープレイにおいて、あまり前に出てこないプレイニュアンスであっても、定位・位相感は維持したままで細かい部分までもが見通せるほどであった。
■「Sonic Stage Mastering Studio」でDSDディスクを作成
次にSSMSを活用し、リッピングしたCDの音声をVAIO独自規格である「DSDディスク」フォーマットでDSD化させてDVD-RWに記録。このDSDディスクをプレイステーション3(以下、PS3。DSDディスクを読み込みできるのはシステムソフトウェアVer.1.60以上)で再生させ、元のCDと音質比較も行ってみた。VAIOでの自己録再確認も可能であるが、今回はDSD再生環境の裾野ともいえるゲーム機、PS3での再生クオリティの確認を優先したいと思う。SSMS上ではリッピングした音声ファイルを開き、エフェクト処理設定などは一切行わず、そのままディスク焼き込み工程に進む。そしてDSDディスクを作成するタブを選択するだけで作業手順は終了するという、いたって簡単な操作だけである。ちなみにPS3はシステムソフトウェアVer.1.90より音楽CDのアップサンプリング再生が可能となっており、最大176.4kHzでの出力に対応するようになった。今回の試聴においては光デジタルでアンプと接続。176.4kHzのアップサンプリングを適応した。
まずはCDをPS3にセットし試聴を行う。VAIOで「Windows Media Player」を用いて試聴したときと較べ、輪郭が立ったメリハリの効いたサウンド傾向である。一旦アップサンプリング設定から通常の48kHzに切り替え、アップサンプリングの効果も確かめたのだが、176.4kHzの場合は各楽器の粒立ちが良くなり、質感も向上。よりリアリティがアップし、全体のざらつき感もなくなってくる。ここまで確認した段階でDSDディスクへと交換。元は同じ音源がどのように変化するのか試聴を進めていった。
DSDディスクを聴き始めた瞬間、そのとげとげしさのない音に驚いた。落ち着きと奥行き感のある、DSD特有の空間表現の巧みさもしっかり再現されており、全体的に高級感漂う音へと変貌を遂げていた。PCMの場合はいくらアップサンプリングの効果が大きいとはいえ、全体的に音像が圧縮され、平面な定位感であったのだが、DSDディスクでは圧縮された空間表現が一気に解けて自然に空間が広がっていくような印象である。何も説明していなければ同じ音源であることを悟られることがないほど、そのクオリティは高く、その差をきちんと描き分けたPS3の再生能力の高さにも驚いた。DSDの場合、PCMからの変換後、再生時にデジタルフィルターが一段省略される格好になるのだが、その優位性を実感できる体験であるといえよう。
■「SACD」と「DSD化したCD」を聴き比べてみた
PS3のオーディオ機器としての性能の高さを物語るもう一つの機能性として、SACD再生にも対応している点が挙げられる。ここでもう一つ実験試聴を行ってみようと思う。SACDのソフトにはCDとして再生できるハイブリッド構造となっているものが多い。そこで、SACDが再生できないVAIO上で“CD層を「DSD Direct Player」で再生”してDSD化されたものと、PS3でそのままSACDを試聴し、同じ“DSD”フォーマットの音質差が生まれるのかも比較してみた。
試聴に用いたのは『宮本笑里/smile』(SICC-10052)から、オーボエとバイオリン、そしてピアノの組み合わせが美しいカッチーニの「アヴェ・マリア」を聴いた。最終形態として同じDSD信号となるこの試聴であったが、ハードの音声出力部における音質差の方が目立ち、純粋な比較は難しいと判断せざるを得ないが、PS3によるSACD再生の方がエッジが立ち、微妙なニュアンス表現が強めに出る傾向であった。ピアノのリバーブ感、オーボエをおさえる指の動き、バイオリンの弦の輝きにおいて、その差が良くでているように思う。
■オーディオプレーヤーとしてのPS3の実力も再確認
さらに実験として、PS3には酷なことではあるが、高級マルチプレーヤーであるデノン「DVD-A1XV」との比較試聴も行った。純粋なSACDでの再生でどのくらい差が出るものなのか、個人的にも興味があったのだが、結論から言えばその価格差を感じさせないほどPS3がかなり健闘しているという印象を持った。安定度の高さ、楽器の質感や存在感の差は断然「DVD-A1XV」が優勢である。ひと回りもふた回りも空気感のリアリティが違うのだが、PS3から再生される音についてもゲーム機という概念を超えた次元の高さを感じることができた。活用の仕方によっては専用機にも負けない音作りができるのではないだろうか。
今回の試聴の中での大きな発見は、保有するCDをDSDディスクへと発展させることによって、まるで別世界ともいえるサウンドを手軽に楽しめてしまうという事実だ。そしてPS3そのもののオーディオプレーヤーとしての性能の高さを改めて実感したという点である。これらの発見を踏まえ、次回はVAIOとPS3を用いた高音質術のセカンド・ステップとして、SSMSを活用し、取り込んだCDなどの音声をEQやコンプレッサーなどのエフェクト処理により“自分だけのリマスター盤”を作成する方法について実験してみたいと思う。SSMS上でのエフェクト処理はPCM信号でしか行えないが、エフェクト効果を加えた後に、今回行ったDSDディスクへの変換は可能なので、“マイ・リマスター盤のDSD化”がどれほど高音質なものであるのかについても言及してみたいと思っている。
(岩井喬)
岩井喬プロフィール
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。