公開日 2022/04/21 06:30
楽天と「Uber Eats」が連携。フードデリバリーにとどまらない“真の狙い”とは
【連載】佐野正弘のITインサイト 第3回
■急速に人気を高める、即配サービス「クイックコマース」
新型コロナウイルスの感染拡大によって、外出自粛が求められて以降急速に人気を高めてきた、スマホなどから食事などを注文し、短時間で届けてくれる「クイックコマース」と呼ばれるサービス。日本では元々クイックコマースの利用が少なかったのに加え、コロナ禍での利用をきっかけにして継続的に利用する人が増えていることから、まだ大きな成長が見込める分野でもあります。
そうしたことからクイックコマースを巡っては、コロナ禍前後に非常に大きな動きが相次いで起きていました。「DoorDash」「Wolt」「DiDi Food」といった外資系の事業者がこぞって参入してきたのに加え、国内でもヤフーを有するZホールディングスが、LINEと経営統合したのを機としてLINE傘下「出前館」の強化に動いているほか、KDDIも新興の「menu」に出資して関与を強めるなどの動きを見せています。
そうした中にあって、この分野であまり積極的な動きを見せていなかったのが、国内インターネットサービス大手の楽天グループです。実は楽天グループも、傘下のぐるなびにフードデリバリーやテイクアウト事業を承継し「楽天ぐるなびデリバリー」を展開してはいるのですが、事業拡大に積極的に動く様子はあまり見せていませんでした。
実際、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏も、現在はスーパーマーケット大手の西友とネットスーパー事業の強化に力を入れていることもあって、フードデリバリー事業を自社で直接展開するのは難しいと話していました。
■今年4月、楽天グループが「Uber Eats」とのサービス連携を発表
ですがその楽天グループが2022年4月18日、クイックコマースを巡って大きな動きを見せました。それはクイックコマースでは大手となる米Uber Technologiesの日本法人、Uber Eats Japanと連携すると発表したことです。
両社の連携で、今後「Uber Eats」で「楽天ID」を用いたログインが可能になるほか、決済にも楽天グループが提供する「楽天ペイ(オンライン決済)」が使えるようになるとのこと。楽天ペイの利用で、Uber Eatsでも楽天ポイントを貯めたり使ったりすることが可能になることから、いわゆる「楽天経済圏」の住人にとって、Uber Eatsの魅力が大きく高まることは間違いないでしょう。
しかも両社の連携はそれだけにとどまらないそうで、タクシー配車サービス「Uber」においても、楽天IDや楽天ペイの導入が検討されているとのこと。さらにUber TechnologiesのCEOであるダラ・コスロシャヒ氏は、国内だけでなく海外でも楽天グループと連携していくと話しており、両社の連携はUber Eatsだけにとどまらないようです。
Uber Eats Japan側からしてみれば、楽天グループのサービスと連携することで、その顧客をUber Eatsに取り込めるメリットがあるでしょうし、楽天グループ側にとっては同社サービスにおける「穴」となっていたクイックコマースの領域をカバーできるメリットがあるのは確かです。とはいえ、今回両社が連携するうえで、いくつかの疑問も浮んできます。
■両社の連携によって浮上する、いくつかの疑問点
1つは先にも触れた通り、楽天グループ自身が傘下企業経由で「楽天ぐるなびデリバリー」を提供していること。クイックコマース国内大手であるUber Eatsと本格連携するとなると、シェアが大きいとは言えない楽天ぐるなびデリバリーの今後が気になるところです。
この点について、楽天グループの上級執行役員・コマースカンパニー・ヴァイスプレジデントの松村亮氏は、デリバリーサービス自体が拡大期にあることから、「まずは一度体験しただき、使ってもらうフェーズにある」と回答。まだ市場を大きくしていく段階にあることから、1つのサービスにこだわらず、連携するサービスを増やして市場を大きくすることに力を入れていきたい考えのようです。
そしてもう1つは、Uber Technologiesの大株主がソフトバンクグループであることです。ソフトバンクグループは、楽天グループと直接競合しているソフトバンクやZホールディングスの親会社でもあるだけに、その出資先企業が競合と連携することには疑問が湧くところです。
この点について、Uber Eats Japanの日本代表である武藤友木子氏は、「今回の連携は楽天グループと双方にメリットがあるもの」と回答。株主にとってメリットとなる連携となるため、株主との衝突が起きているわけではないと捉えているようです。
確かに、ソフトバンクグループは国内進出しているクイックコマースサービスの多くに出資しており、実はUber TechnologiesだけでなくDoorDashや、DiDi Foodの親となる滴滴出行、そして間接的にではありますが、出前館にも出資しています。現状それらが国内で個々に事業を展開して、非常に激しい競争を繰り広げている様子を見るに、Uber Technologiesが競争に勝ち抜くため、株主とやや競合していても大きな基盤を持つ楽天グループと組むのは、不自然なことではないのかもしれません。
ただ今後の競争を考えると、重要になってくるのは顧客基盤の拡大だけではないように思えてきます。ここまであえて「フードデリバリー」ではなく「クイックコマース」と書いているように、この分野の競争は食事の配送にとどまらない広がりを見せており、最近では日用品を主体とした多様な商品を届けることが重視されるようになってきています。
それゆえZホールディングスは、出前館を軸としたクイックコマースの強化に乗り出しており、2022年1月には出前館とヤフー、アスクルといったグループ企業の総力を結集し、宅配専用の店舗「ダークストア」を用いて日用品などを配送するクイックコマースサービス「Yahoo!マート by ASKUL」の本格展開を開始しています。
Uber Eatsもこれまで、ローソンなどのコンビニエンスストアと手を組み、日用品などの配送を実施していますが、配送できるものはコンビニエンスストアにある商品に限られてしまいます。そのため専業のクイックコマースサービスと比べた場合、例えば大容量のトイレットペーパーや紙おむつなど、宅配での需要が大きい商品を揃えられないといった課題もあるのです。
それゆえ、Eコマースで実績を持つ楽天グループの流通と連携し、クイックコマースならではの品揃えをいかに強化できるかという点も、競争に勝ち抜く上では重要になってくるでしょう。2021年末から2022年初頭にかけては「foodpanda」が日本から撤退し、DoorDashが「Wolt」の買収を打ち出すなど業界再編も急速に進んでおり、シェアが大きいから安心できるという状況ではないだけに、両社にはより深い連携が早期に求められそうです。
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、外出自粛が求められて以降急速に人気を高めてきた、スマホなどから食事などを注文し、短時間で届けてくれる「クイックコマース」と呼ばれるサービス。日本では元々クイックコマースの利用が少なかったのに加え、コロナ禍での利用をきっかけにして継続的に利用する人が増えていることから、まだ大きな成長が見込める分野でもあります。
そうしたことからクイックコマースを巡っては、コロナ禍前後に非常に大きな動きが相次いで起きていました。「DoorDash」「Wolt」「DiDi Food」といった外資系の事業者がこぞって参入してきたのに加え、国内でもヤフーを有するZホールディングスが、LINEと経営統合したのを機としてLINE傘下「出前館」の強化に動いているほか、KDDIも新興の「menu」に出資して関与を強めるなどの動きを見せています。
そうした中にあって、この分野であまり積極的な動きを見せていなかったのが、国内インターネットサービス大手の楽天グループです。実は楽天グループも、傘下のぐるなびにフードデリバリーやテイクアウト事業を承継し「楽天ぐるなびデリバリー」を展開してはいるのですが、事業拡大に積極的に動く様子はあまり見せていませんでした。
実際、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏も、現在はスーパーマーケット大手の西友とネットスーパー事業の強化に力を入れていることもあって、フードデリバリー事業を自社で直接展開するのは難しいと話していました。
■今年4月、楽天グループが「Uber Eats」とのサービス連携を発表
ですがその楽天グループが2022年4月18日、クイックコマースを巡って大きな動きを見せました。それはクイックコマースでは大手となる米Uber Technologiesの日本法人、Uber Eats Japanと連携すると発表したことです。
両社の連携で、今後「Uber Eats」で「楽天ID」を用いたログインが可能になるほか、決済にも楽天グループが提供する「楽天ペイ(オンライン決済)」が使えるようになるとのこと。楽天ペイの利用で、Uber Eatsでも楽天ポイントを貯めたり使ったりすることが可能になることから、いわゆる「楽天経済圏」の住人にとって、Uber Eatsの魅力が大きく高まることは間違いないでしょう。
しかも両社の連携はそれだけにとどまらないそうで、タクシー配車サービス「Uber」においても、楽天IDや楽天ペイの導入が検討されているとのこと。さらにUber TechnologiesのCEOであるダラ・コスロシャヒ氏は、国内だけでなく海外でも楽天グループと連携していくと話しており、両社の連携はUber Eatsだけにとどまらないようです。
Uber Eats Japan側からしてみれば、楽天グループのサービスと連携することで、その顧客をUber Eatsに取り込めるメリットがあるでしょうし、楽天グループ側にとっては同社サービスにおける「穴」となっていたクイックコマースの領域をカバーできるメリットがあるのは確かです。とはいえ、今回両社が連携するうえで、いくつかの疑問も浮んできます。
■両社の連携によって浮上する、いくつかの疑問点
1つは先にも触れた通り、楽天グループ自身が傘下企業経由で「楽天ぐるなびデリバリー」を提供していること。クイックコマース国内大手であるUber Eatsと本格連携するとなると、シェアが大きいとは言えない楽天ぐるなびデリバリーの今後が気になるところです。
この点について、楽天グループの上級執行役員・コマースカンパニー・ヴァイスプレジデントの松村亮氏は、デリバリーサービス自体が拡大期にあることから、「まずは一度体験しただき、使ってもらうフェーズにある」と回答。まだ市場を大きくしていく段階にあることから、1つのサービスにこだわらず、連携するサービスを増やして市場を大きくすることに力を入れていきたい考えのようです。
そしてもう1つは、Uber Technologiesの大株主がソフトバンクグループであることです。ソフトバンクグループは、楽天グループと直接競合しているソフトバンクやZホールディングスの親会社でもあるだけに、その出資先企業が競合と連携することには疑問が湧くところです。
この点について、Uber Eats Japanの日本代表である武藤友木子氏は、「今回の連携は楽天グループと双方にメリットがあるもの」と回答。株主にとってメリットとなる連携となるため、株主との衝突が起きているわけではないと捉えているようです。
確かに、ソフトバンクグループは国内進出しているクイックコマースサービスの多くに出資しており、実はUber TechnologiesだけでなくDoorDashや、DiDi Foodの親となる滴滴出行、そして間接的にではありますが、出前館にも出資しています。現状それらが国内で個々に事業を展開して、非常に激しい競争を繰り広げている様子を見るに、Uber Technologiesが競争に勝ち抜くため、株主とやや競合していても大きな基盤を持つ楽天グループと組むのは、不自然なことではないのかもしれません。
ただ今後の競争を考えると、重要になってくるのは顧客基盤の拡大だけではないように思えてきます。ここまであえて「フードデリバリー」ではなく「クイックコマース」と書いているように、この分野の競争は食事の配送にとどまらない広がりを見せており、最近では日用品を主体とした多様な商品を届けることが重視されるようになってきています。
それゆえZホールディングスは、出前館を軸としたクイックコマースの強化に乗り出しており、2022年1月には出前館とヤフー、アスクルといったグループ企業の総力を結集し、宅配専用の店舗「ダークストア」を用いて日用品などを配送するクイックコマースサービス「Yahoo!マート by ASKUL」の本格展開を開始しています。
Uber Eatsもこれまで、ローソンなどのコンビニエンスストアと手を組み、日用品などの配送を実施していますが、配送できるものはコンビニエンスストアにある商品に限られてしまいます。そのため専業のクイックコマースサービスと比べた場合、例えば大容量のトイレットペーパーや紙おむつなど、宅配での需要が大きい商品を揃えられないといった課題もあるのです。
それゆえ、Eコマースで実績を持つ楽天グループの流通と連携し、クイックコマースならではの品揃えをいかに強化できるかという点も、競争に勝ち抜く上では重要になってくるでしょう。2021年末から2022年初頭にかけては「foodpanda」が日本から撤退し、DoorDashが「Wolt」の買収を打ち出すなど業界再編も急速に進んでおり、シェアが大きいから安心できるという状況ではないだけに、両社にはより深い連携が早期に求められそうです。
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。