公開日 2021/05/31 12:02
パナソニック・津村氏が語る。「クリエイターと共に新たな感動を届けるLUMIX。活力に満ちた行動力でコロナ禍の淀んだ空気を払拭」
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞インタビュー
Sシリーズのひとつの集大成とも言える「LUMIX DC-S5」がデジタルカメラグランプリで二期連続の総合金賞に輝いた。LUMIXでは光学スペックを一新した交換レンズ群も高い評価を獲得、映像制作に特化したボックススタイルのミラーレスカメラ「LUMIX DC-BGH1」など新展開も目を見張る。プロフェッショナルなクリエイト体験ができる新拠点「LUMIX BASE TOKYO」をオープンするなど、写真・映像文化の担い手であるクリエイターの想いに寄り添い、その発展に力強く前進するLUMIX。パナソニック・津村敏行氏に話を聞く。
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞一覧はこちら
パナソニック株式会社 アプライアンス社
スマートライフネットワーク事業部 イメージングBU
総括 (兼) 商品企画部 部長
津村敏行氏
つむらとしゆき Toshiyuki Tsumura
プロフィール/1968年11月12日生まれ、神奈川県出身。1991年4月 松下電器産業(株)入社。ポケットベル、携帯電話、スマートフォンなどの通信機器の設計開発・商品企画に携わり、2014年発売の「LUMIX-CM1」の開発を機にイメージング事業に深く関わり現在に至る。好きな言葉は「日に新た」。趣味は写真/動画撮影、映画鑑賞、ランニングなど。
■新時代への扉を開く「LUMIX DC-S5」
―― コロナ禍で今年の「CP+」はオンラインでの単独開催となりました。
津村 カメラ業界はコロナの影響を大きく受け、昨年度はビジネス面でも苦戦を強いられました。イベントや旅行が中止になればカメラを使う機会も極端に減ります。人の流れが回復してくると、撮影機会も復活してくる。特に日本の市場はそれがカメラの需要動向に敏感に表れており、日本人の誠実な国民性を実感しました。
今年のCP+2021では、そのような状況下で、私たちがどうすればクリエイターや写真ファンの方と一緒にオンラインで盛り上がることができるのかを、マーケティング部門が考えに考え抜いた結果、「Creators Live! with LUMIX」と銘打ったオンラインイベントを、三日間にわたり連日夜9時10時まで全力を挙げてライブで発信しました。初日はスチルを中心にした「写真を極める」、二日目は「動画を始める」、三日目は「動画を極める」の3ステップで、まさにスチルを楽しまれていた方が徐々に動画を楽しみはじめている今の時代の流れを捉えたテーマを設定し、視聴された多くの方から「凄く良かったです」とご好評いただくことができました。
今回は敢えて製品説明を中心に据えずに、写真家やクリエイターの方に語ってもらう生の声を前面に打ち出してみたところ、狙い通りに親近感あるイベントとなり、閉塞感のあるコロナ禍に「写真や映像をつくるのは楽しいぞ」と共感を呼ぶことができました。
5月30日には東京・南青山に新たな発信拠点「LUMIX BASE TOKYO」をオープンしました。「写真、映像を含めたクリエイターの方たちと共に歩んでいく」というブランドポリシーのもと、タッチ&トライ用のモデルがあり、プロカメラマンのギャラリーが展示されている従来のショウルームのスタイルとは一線を画し、本格的なスタジオ環境を用意し、プロフェッショナルなクリエイト体験ができるスペースで、ライブ配信も行うことができます。このような場を提供することで、クリエイターの方の気づきや「映像を撮ってみよう」「写真を楽しんでみよう」という動機を喚起する起爆剤になってくれればと願っています。
これからお客様にどう正対していくかを考えたとき、オンラインやデジタルならではの良さを活かすと同時に、カメラなどを実際に触れて確かめることができるリアルの場は絶対に欠かせません。そこで、「クリエイターと共に歩む」というストーリーに則り、デジタルからリアルの接点にまで寄り添い、商品や機材を堪能いただける場所にしたいと考えました。ここからいろいろな新しい可能性が生まれてくるのではないかと期待しています。
商品においても、従来のように莫大な投資を毎年行って新製品を何機種も作るのではなく、ひとつひとつをより丁寧につくり上げ、お客様に長く使っていただきたいと考えています。「飽くなき表現力の追求」を指針としたファームアップも連続的に行っており、さまざまな欠点を改善し、どんどん磨きをかけています。厳しい中でも必要なものに対する投資はしっかりと行っていきます。LUMIXの熱狂的なファンとなっていただき、次に買い替えるときも「LUMIXを買いたい」と思っていただきたい。
―― そうした取り組みのひとつの集大成とも言える「LUMIX DC-S5」が二期連続でのデジタルカメラグランプリ総合金賞の受賞となりました。前回昨年末の受賞インタビューでは発売後まもなく、しかも品薄の状況でしたが、あれから約半年を経て市場での反響はいかがですか。
津村 私たちが想像していた通りに、スチル写真を楽しまれる方からも、ビデオを楽しまれる方からも、幅広い支持を獲得しています。想定外だったのは、他社ユーザーからの乗り替えが約6割を占めていること。このこともすなわち、S5を高くご評価いただけた証しと言えます。また、新しい時代の標準レンズを目指したキットレンズ「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」に対しても数多くのプロフェッショナル・ユーザーから高い評価の声をいただいています。S5の中心ユーザーはハイアマチュアですが、本格的なプロの仕事のアウトプットとしても十分に使えると評価いただけたことは本当にうれしく思います。パナソニックでは品質に対し、「過剰品質ではないか」と言われるほど非常に高いレベルで担保する思想を貫徹してきましたが、特にプロの世界ではその点にも高い支持をいただき、真面目にやってきて本当によかったです(笑)。
―― 審査会では「撮って出しの映像が凄くキレイで、グレーディングなしでもそのまま使える」との声も聞かれました。
津村 Sシリーズは「生命力・生命美」をコンセプトに、色のグラデーションの美しさや繊細さを追求しています。感覚的には掴みづらいところがありますが、例えば評価画像を追い込む段階では「海辺の空」など厳しい条件のもと、ディテールに至るまで違和感がない、生命力を感じる表現を目指しています。S1Hで本当に苦労して仕上げたダイナミックレンジの広さを、S5ではシステム的な制約がありながらもほぼ同じ性能で再現するなど、動画性能においては「S1Hに匹敵するレベルだ」とのお褒めの声もいただいています。
撮って出しですぐにシネマライクな絵作りを可能とする「シネライクD2」「シネライクV2」というフォトスタイルも提供していて、シネマライクな映像に最適なダイナミックレンジ、コントラストを重視したガンマカーブ効果をそれぞれ得ることができます。ここにきてビデオ用のベースのフォトスタイルも少しずつ浸透してきていると実感しています。また、「L.モノクロームS」や「L.クラシックネオ」など新しいフォトスタイルも好評いただいています。社内には有識者による組織「絵作り推進委員会」があり、「どんなフォトスタイルが今、求められているのか」「本当にこのアウトプットでいいのか」と日々意見を交わしています。「撮って出しで作品に使えるレベル」と言っていただけることは、私たち画質に携わるエンジニアにとっては、もうこれ以上ない誉め言葉です。
しかし、まだまだ欠点が「ゼロ」というわけではありません。画質面ではかなりいいレベルまで来たのではないかと強い自信はありますが、今に満足していたらこれ以上の成長はありません。常に「欠点を探すんだ!」「もっと表現を高める方法を考え続けるんだ!」と、皆、自分を鼓舞して取り組んでいます。
■画期的な望遠マクロ撮影を実現した小型軽量望遠ズーム
―― レンズでは今回、新製品の「LUMIX S 70-300o F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」が金賞を受賞しました。審査会では最近発売されるLUMIXのレンズはどれも素晴らしく、思想まで含めたものづくりの姿勢を高く評価する声が聞かれました。
津村 うれしいですね。「LUMIX S 70-300o F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」は、S5のキットレンズとしても販売している「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」に続き、S5のボディのフォルム感や重量サイズに合わせて作り込んだレンズとなります。Sシリーズの交換レンズには、プロフェッショナルの方のアウトプットの画質を重視した「S PROレンズ」と、機動性や小型軽量化で普段使いの幅を広げる「Sレンズ」の2つのラインがあります。受賞モデルはもちろん後者になります。
「このレンズを使って作品づくりを楽しんでみたい」と思わせるポイントとして、テレ端300mmで最大撮影倍率0.5倍を実現するハーフマクロにこだわりエンジニアが作り込みました。11枚の絞り羽根というリッチな構成を取り入れながらも、小型・軽量化とともに、手頃な価格を実現しました。イルミネーションなどの光源のあるシーンにおける美しいボケ表現と印象的な光芒の描写を両立しています。
当初、設計上で考えていた数値を上回る解像性能に仕上げることができました。作例では航空写真家の方に撮影いただきましたが、コックピットにいるクルーの表情がわかってしまうくらいに非常に解像度が高く、飛行機のつなぎ目のボルトひとつひとつもはっきりと認識できるところまで写すことができるといった声をいただきました。また、光芒が大変キレイに写った伊丹空港の写真も大変印象に残りました。
プロの方にとっては「LUMIXってどうなんだろう」と正直手が出しにくい面もまだあるのではないかと思います。今回の新製品「LUMIX S 70-300o F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」は、レンズの特性上、航空写真に適しているため、先ほどお話したようにその道の第一人者の方に撮っていただいたのですが、「本当にびっくりしました。LUMIXがこんなに性能が高いことを知りませんでした」と仰っていただけました。DC-S5の登場を起点に、今後、プロカメラマンに対しても改めて、LUMIXの実力をご理解いただく機会を増やしていければと考えています。
カメラの購入を検討される一般の方でも、LUMIXが最初の選択肢の中に入っていない方がまだまだいらっしゃるはずです。先ほどご説明した「LUMIX BASE TOKYO」では、周辺には有名な明治神宮外苑の銀杏並木などもあり、自然の中で、また、照明をはじめとした本格的な機材を備えたスタジオで、LUMIXのカメラ、レンズの実力を存分に感じていただくことができます。大変重要な役割を担った拠点として位置づけています。
―― 是非一度手に取っていただきたいですね。
津村 レンズのクリーニングから商品の体験までワンストップで、レンタルや物販(販売機種に限定あり)も行っていますから、気に入ればその場ですぐに購入することもできます。「LUMIX BASE TOKYO」で本格的な体験をされた方が、後にクリエイターとしてご登場され、一緒にライブ配信などを行って「LUMIX BASE TOKYO」の価値を拡散いただく、そんな流れを創っていけたらうれしいですね。
CP+2021のイベントではS1Hでライブ配信を行いましたが、アウトプットの画質にもかなり反響がありました。動画のクオリティはライブ配信にも生きますから、「ハイクオリティなライブ配信をしたい!」という方は是非「LUMIX BASE TOKYO」に足を運んで体験してみてください。インスタなどのSNSやYouTubeでライブをしている方も凄く増えていますが、教育現場や医療現場、また、会社にスタジオまで設けてメッセージ発信するケースも珍しくなくなりました。
ライブ配信にはワークフローのむずかしさがあり、スイッチャーなどの周辺機材でどのようにしたら臨場感の高い演出ができるかなどノウハウも必要です。われわれもいろいろなトライアルを行っているところですが、スチル写真でいい作品を撮られる方は、構図の取り方や光の当てかたなど、ライブ配信でもそのセンスが光ります。そんなところからも、動画とスチルとの境がなくなってきたことを実感します。
■「BGH1」がライブ配信に新境地
―― 映像制作に目を向けると、昨年11月に発売されたボックススタイルの新製品「DC-BGH1」が話題を集めています。前回のインタビューでは「“サイコロカメラ”ですから、どう転んでも目(芽)がでます」(笑)とご紹介いただきましたが、導入後の市場での反響はいかがでしょう。
津村 すでにさまざまな芽が出てきていて、順調なスタートを切ることができました。事前調査で得られた要望に応える形で充実させたインターフェースの拡張性には高い評価をいただいています。特に好評なのは、LANケーブル1本で電源供給もリモートコントロールもすべて行えること。電源環境が脆弱な場面でも、PCからコントロールして操作することができます。また、従来はHDMIから変換アダプターを通じてパソコンにデータを取り込んでいましたが、BGH1とPCを直接LANケーブルでつなげば、IPのストリーミングで直接パソコンにデータを取りこむことができます。4Kによるストリーミングでも、これまでは高価なアダプターが必要だったのですが、BGH1では4KをダイレクトにPCに取り入れられ、ハイレベルな映像のストリーミングを容易に実現できます。
スポーツ映像を配信されているある会社では、多視点の映像にBGH1を使われていました。映像編集用にフレームのマッチングを可能にするタイムコード入力に加え、マルチカメラ撮影時に有効なGenlock入力にも対応しており、高精度に複数のカメラが同期して動ける仕組みを備えているため、多視点からでも遅延なくスイッチングで映像を切り替えて使用することができるのです。また、二百数十度の超広角レンズをつけてVRの撮影に使われている例もあり、私たちが想像を超えた新しい表現方法が生み出され、いろいろな現場で活躍しています。
―― もっといろいろな用途に拡大していきそうですね。
津村 BGH1はそもそもライブ配信などの新しい動画表現において、もっとマルチに新しい使い方を提供していきたい、そんな流れの中から誕生しました。“用途の広がり”というミッションは着実に果たしつつあります。また、画質にもこだわっていて、Netflixからはマイクロフォーサーズのシステムとして初めて、映像制作用のカメラとして認定されました。一般的なライブ配信用のカメラはビデオのカムコーダーから来ているため、BGH1のマイクロフォーサーズの画質はそれらに比較するとかなりハイレベルと言えます。4K60Pまで可能で、しかもポータビリティで価格も手頃。「ライブ配信の世界が変わるぞ」との声も聞こえてきます。
さきほどご紹介したように、多視点でも美しくスポーツ映像を配信することにも非常に向いていますから、コロナ禍で残念ながらスポーツの無観客開催も増えていますが、そのような状況下で、「スポーツ映像を臨場感いっぱいに楽しみたい」というニーズを叶える最適な機材と言うことができます。
―― 今は色々な意味から過渡期、次のステージへ挑むチャンスと前向きに捉えて臨みたいですね。カメラ市場創造への意気込みをお聞かせください。
津村 私たちが今最も心配しているのは、新型ウイルスの影響により、業界そのものが疲弊してしまうことです。パナソニックでは、新拠点「LUMIX BASE TOKYO」のオープンや今後構えている数々の新製品を発売していくとともに、「クリエイターと共に歩む」というブランドコンセプトのもと、クリエイターと一緒になって写真や映像をクリエイトし、写真や映像に携わる人が元気になれるような、活気あふれる活動を展開して参ります。それが業界を盛り上げることはもちろん、われわれの機材の存在感や価値への認識も高まっていくと考えています。今回いただきました受賞にも満足することなく、さらに次なる高みを目指して、新たなバリューを提供し続けます。パナソニック自身もさらにパワーを増して、業界を活性化して参ります。
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞一覧はこちら
スマートライフネットワーク事業部 イメージングBU
総括 (兼) 商品企画部 部長
津村敏行氏
つむらとしゆき Toshiyuki Tsumura
プロフィール/1968年11月12日生まれ、神奈川県出身。1991年4月 松下電器産業(株)入社。ポケットベル、携帯電話、スマートフォンなどの通信機器の設計開発・商品企画に携わり、2014年発売の「LUMIX-CM1」の開発を機にイメージング事業に深く関わり現在に至る。好きな言葉は「日に新た」。趣味は写真/動画撮影、映画鑑賞、ランニングなど。
■新時代への扉を開く「LUMIX DC-S5」
―― コロナ禍で今年の「CP+」はオンラインでの単独開催となりました。
津村 カメラ業界はコロナの影響を大きく受け、昨年度はビジネス面でも苦戦を強いられました。イベントや旅行が中止になればカメラを使う機会も極端に減ります。人の流れが回復してくると、撮影機会も復活してくる。特に日本の市場はそれがカメラの需要動向に敏感に表れており、日本人の誠実な国民性を実感しました。
今年のCP+2021では、そのような状況下で、私たちがどうすればクリエイターや写真ファンの方と一緒にオンラインで盛り上がることができるのかを、マーケティング部門が考えに考え抜いた結果、「Creators Live! with LUMIX」と銘打ったオンラインイベントを、三日間にわたり連日夜9時10時まで全力を挙げてライブで発信しました。初日はスチルを中心にした「写真を極める」、二日目は「動画を始める」、三日目は「動画を極める」の3ステップで、まさにスチルを楽しまれていた方が徐々に動画を楽しみはじめている今の時代の流れを捉えたテーマを設定し、視聴された多くの方から「凄く良かったです」とご好評いただくことができました。
今回は敢えて製品説明を中心に据えずに、写真家やクリエイターの方に語ってもらう生の声を前面に打ち出してみたところ、狙い通りに親近感あるイベントとなり、閉塞感のあるコロナ禍に「写真や映像をつくるのは楽しいぞ」と共感を呼ぶことができました。
5月30日には東京・南青山に新たな発信拠点「LUMIX BASE TOKYO」をオープンしました。「写真、映像を含めたクリエイターの方たちと共に歩んでいく」というブランドポリシーのもと、タッチ&トライ用のモデルがあり、プロカメラマンのギャラリーが展示されている従来のショウルームのスタイルとは一線を画し、本格的なスタジオ環境を用意し、プロフェッショナルなクリエイト体験ができるスペースで、ライブ配信も行うことができます。このような場を提供することで、クリエイターの方の気づきや「映像を撮ってみよう」「写真を楽しんでみよう」という動機を喚起する起爆剤になってくれればと願っています。
これからお客様にどう正対していくかを考えたとき、オンラインやデジタルならではの良さを活かすと同時に、カメラなどを実際に触れて確かめることができるリアルの場は絶対に欠かせません。そこで、「クリエイターと共に歩む」というストーリーに則り、デジタルからリアルの接点にまで寄り添い、商品や機材を堪能いただける場所にしたいと考えました。ここからいろいろな新しい可能性が生まれてくるのではないかと期待しています。
商品においても、従来のように莫大な投資を毎年行って新製品を何機種も作るのではなく、ひとつひとつをより丁寧につくり上げ、お客様に長く使っていただきたいと考えています。「飽くなき表現力の追求」を指針としたファームアップも連続的に行っており、さまざまな欠点を改善し、どんどん磨きをかけています。厳しい中でも必要なものに対する投資はしっかりと行っていきます。LUMIXの熱狂的なファンとなっていただき、次に買い替えるときも「LUMIXを買いたい」と思っていただきたい。
―― そうした取り組みのひとつの集大成とも言える「LUMIX DC-S5」が二期連続でのデジタルカメラグランプリ総合金賞の受賞となりました。前回昨年末の受賞インタビューでは発売後まもなく、しかも品薄の状況でしたが、あれから約半年を経て市場での反響はいかがですか。
津村 私たちが想像していた通りに、スチル写真を楽しまれる方からも、ビデオを楽しまれる方からも、幅広い支持を獲得しています。想定外だったのは、他社ユーザーからの乗り替えが約6割を占めていること。このこともすなわち、S5を高くご評価いただけた証しと言えます。また、新しい時代の標準レンズを目指したキットレンズ「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」に対しても数多くのプロフェッショナル・ユーザーから高い評価の声をいただいています。S5の中心ユーザーはハイアマチュアですが、本格的なプロの仕事のアウトプットとしても十分に使えると評価いただけたことは本当にうれしく思います。パナソニックでは品質に対し、「過剰品質ではないか」と言われるほど非常に高いレベルで担保する思想を貫徹してきましたが、特にプロの世界ではその点にも高い支持をいただき、真面目にやってきて本当によかったです(笑)。
津村 Sシリーズは「生命力・生命美」をコンセプトに、色のグラデーションの美しさや繊細さを追求しています。感覚的には掴みづらいところがありますが、例えば評価画像を追い込む段階では「海辺の空」など厳しい条件のもと、ディテールに至るまで違和感がない、生命力を感じる表現を目指しています。S1Hで本当に苦労して仕上げたダイナミックレンジの広さを、S5ではシステム的な制約がありながらもほぼ同じ性能で再現するなど、動画性能においては「S1Hに匹敵するレベルだ」とのお褒めの声もいただいています。
撮って出しですぐにシネマライクな絵作りを可能とする「シネライクD2」「シネライクV2」というフォトスタイルも提供していて、シネマライクな映像に最適なダイナミックレンジ、コントラストを重視したガンマカーブ効果をそれぞれ得ることができます。ここにきてビデオ用のベースのフォトスタイルも少しずつ浸透してきていると実感しています。また、「L.モノクロームS」や「L.クラシックネオ」など新しいフォトスタイルも好評いただいています。社内には有識者による組織「絵作り推進委員会」があり、「どんなフォトスタイルが今、求められているのか」「本当にこのアウトプットでいいのか」と日々意見を交わしています。「撮って出しで作品に使えるレベル」と言っていただけることは、私たち画質に携わるエンジニアにとっては、もうこれ以上ない誉め言葉です。
しかし、まだまだ欠点が「ゼロ」というわけではありません。画質面ではかなりいいレベルまで来たのではないかと強い自信はありますが、今に満足していたらこれ以上の成長はありません。常に「欠点を探すんだ!」「もっと表現を高める方法を考え続けるんだ!」と、皆、自分を鼓舞して取り組んでいます。
■画期的な望遠マクロ撮影を実現した小型軽量望遠ズーム
―― レンズでは今回、新製品の「LUMIX S 70-300o F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」が金賞を受賞しました。審査会では最近発売されるLUMIXのレンズはどれも素晴らしく、思想まで含めたものづくりの姿勢を高く評価する声が聞かれました。
津村 うれしいですね。「LUMIX S 70-300o F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」は、S5のキットレンズとしても販売している「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」に続き、S5のボディのフォルム感や重量サイズに合わせて作り込んだレンズとなります。Sシリーズの交換レンズには、プロフェッショナルの方のアウトプットの画質を重視した「S PROレンズ」と、機動性や小型軽量化で普段使いの幅を広げる「Sレンズ」の2つのラインがあります。受賞モデルはもちろん後者になります。
「このレンズを使って作品づくりを楽しんでみたい」と思わせるポイントとして、テレ端300mmで最大撮影倍率0.5倍を実現するハーフマクロにこだわりエンジニアが作り込みました。11枚の絞り羽根というリッチな構成を取り入れながらも、小型・軽量化とともに、手頃な価格を実現しました。イルミネーションなどの光源のあるシーンにおける美しいボケ表現と印象的な光芒の描写を両立しています。
当初、設計上で考えていた数値を上回る解像性能に仕上げることができました。作例では航空写真家の方に撮影いただきましたが、コックピットにいるクルーの表情がわかってしまうくらいに非常に解像度が高く、飛行機のつなぎ目のボルトひとつひとつもはっきりと認識できるところまで写すことができるといった声をいただきました。また、光芒が大変キレイに写った伊丹空港の写真も大変印象に残りました。
プロの方にとっては「LUMIXってどうなんだろう」と正直手が出しにくい面もまだあるのではないかと思います。今回の新製品「LUMIX S 70-300o F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」は、レンズの特性上、航空写真に適しているため、先ほどお話したようにその道の第一人者の方に撮っていただいたのですが、「本当にびっくりしました。LUMIXがこんなに性能が高いことを知りませんでした」と仰っていただけました。DC-S5の登場を起点に、今後、プロカメラマンに対しても改めて、LUMIXの実力をご理解いただく機会を増やしていければと考えています。
カメラの購入を検討される一般の方でも、LUMIXが最初の選択肢の中に入っていない方がまだまだいらっしゃるはずです。先ほどご説明した「LUMIX BASE TOKYO」では、周辺には有名な明治神宮外苑の銀杏並木などもあり、自然の中で、また、照明をはじめとした本格的な機材を備えたスタジオで、LUMIXのカメラ、レンズの実力を存分に感じていただくことができます。大変重要な役割を担った拠点として位置づけています。
―― 是非一度手に取っていただきたいですね。
津村 レンズのクリーニングから商品の体験までワンストップで、レンタルや物販(販売機種に限定あり)も行っていますから、気に入ればその場ですぐに購入することもできます。「LUMIX BASE TOKYO」で本格的な体験をされた方が、後にクリエイターとしてご登場され、一緒にライブ配信などを行って「LUMIX BASE TOKYO」の価値を拡散いただく、そんな流れを創っていけたらうれしいですね。
CP+2021のイベントではS1Hでライブ配信を行いましたが、アウトプットの画質にもかなり反響がありました。動画のクオリティはライブ配信にも生きますから、「ハイクオリティなライブ配信をしたい!」という方は是非「LUMIX BASE TOKYO」に足を運んで体験してみてください。インスタなどのSNSやYouTubeでライブをしている方も凄く増えていますが、教育現場や医療現場、また、会社にスタジオまで設けてメッセージ発信するケースも珍しくなくなりました。
ライブ配信にはワークフローのむずかしさがあり、スイッチャーなどの周辺機材でどのようにしたら臨場感の高い演出ができるかなどノウハウも必要です。われわれもいろいろなトライアルを行っているところですが、スチル写真でいい作品を撮られる方は、構図の取り方や光の当てかたなど、ライブ配信でもそのセンスが光ります。そんなところからも、動画とスチルとの境がなくなってきたことを実感します。
■「BGH1」がライブ配信に新境地
―― 映像制作に目を向けると、昨年11月に発売されたボックススタイルの新製品「DC-BGH1」が話題を集めています。前回のインタビューでは「“サイコロカメラ”ですから、どう転んでも目(芽)がでます」(笑)とご紹介いただきましたが、導入後の市場での反響はいかがでしょう。
津村 すでにさまざまな芽が出てきていて、順調なスタートを切ることができました。事前調査で得られた要望に応える形で充実させたインターフェースの拡張性には高い評価をいただいています。特に好評なのは、LANケーブル1本で電源供給もリモートコントロールもすべて行えること。電源環境が脆弱な場面でも、PCからコントロールして操作することができます。また、従来はHDMIから変換アダプターを通じてパソコンにデータを取り込んでいましたが、BGH1とPCを直接LANケーブルでつなげば、IPのストリーミングで直接パソコンにデータを取りこむことができます。4Kによるストリーミングでも、これまでは高価なアダプターが必要だったのですが、BGH1では4KをダイレクトにPCに取り入れられ、ハイレベルな映像のストリーミングを容易に実現できます。
スポーツ映像を配信されているある会社では、多視点の映像にBGH1を使われていました。映像編集用にフレームのマッチングを可能にするタイムコード入力に加え、マルチカメラ撮影時に有効なGenlock入力にも対応しており、高精度に複数のカメラが同期して動ける仕組みを備えているため、多視点からでも遅延なくスイッチングで映像を切り替えて使用することができるのです。また、二百数十度の超広角レンズをつけてVRの撮影に使われている例もあり、私たちが想像を超えた新しい表現方法が生み出され、いろいろな現場で活躍しています。
―― もっといろいろな用途に拡大していきそうですね。
津村 BGH1はそもそもライブ配信などの新しい動画表現において、もっとマルチに新しい使い方を提供していきたい、そんな流れの中から誕生しました。“用途の広がり”というミッションは着実に果たしつつあります。また、画質にもこだわっていて、Netflixからはマイクロフォーサーズのシステムとして初めて、映像制作用のカメラとして認定されました。一般的なライブ配信用のカメラはビデオのカムコーダーから来ているため、BGH1のマイクロフォーサーズの画質はそれらに比較するとかなりハイレベルと言えます。4K60Pまで可能で、しかもポータビリティで価格も手頃。「ライブ配信の世界が変わるぞ」との声も聞こえてきます。
―― 今は色々な意味から過渡期、次のステージへ挑むチャンスと前向きに捉えて臨みたいですね。カメラ市場創造への意気込みをお聞かせください。
津村 私たちが今最も心配しているのは、新型ウイルスの影響により、業界そのものが疲弊してしまうことです。パナソニックでは、新拠点「LUMIX BASE TOKYO」のオープンや今後構えている数々の新製品を発売していくとともに、「クリエイターと共に歩む」というブランドコンセプトのもと、クリエイターと一緒になって写真や映像をクリエイトし、写真や映像に携わる人が元気になれるような、活気あふれる活動を展開して参ります。それが業界を盛り上げることはもちろん、われわれの機材の存在感や価値への認識も高まっていくと考えています。今回いただきました受賞にも満足することなく、さらに次なる高みを目指して、新たなバリューを提供し続けます。パナソニック自身もさらにパワーを増して、業界を活性化して参ります。
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