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公開日 2024/12/20 12:30

【インタビュー】さらなる高みを極めたこだわりのものづくりで、新たなステップを踏み出すアキュフェーズ

AEX2025受賞:アキュフェーズ 鈴木雅臣氏
PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
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オーディオ銘機賞2025
受賞インタビュー:アキュフェーズ


国内オーディオマーケットに展開される数々の製品の中で、卓越した性能、革新的な内容を持ち、かつオーディオマインドに溢れる “真の銘機” を選定するアワード「オーディオ銘機賞2025」において、アキュフェーズのプリメインアンプ「E-800S」が金賞を受賞した。今回で19年連続での金賞受賞を成し遂げたE-800Sに見られるアキュフェーズのこだわりのものづくりをはじめ、昨今の取り組みとこれからについて、同社社長の鈴木雅臣氏が語ってくれた。

アキュフェーズ株式会社 代表取締役社長 鈴木雅臣氏

■50周年記念モデルの後継、外観も中身もすべてブラッシュアップしたE-800S



オーディオ銘機賞2025の金賞受賞、アキュフェーズのプリメインアンプ「E-800S」

―― オーディオ銘機賞2025において、御社のプリメインアンプE-800Sが金賞を獲得しました。今回をもって19年連続での金賞受賞となりましたが、その手応えと思いのほどをお聞かせくださいますか。

鈴木 誠にありがとうございます。社員を代表して心から御礼申し上げます。私どもは創業以来、オーディオファン、音楽ファンの皆様が長期間にわたって安心して音楽を楽しめる製品を作ってまいりましたが、これが19年間連続してのご評価に繋がっているものと確信しています。今後も長期にわたってお客様のオーディオライフ、音楽ライフを豊かにする製品を提供して参ります。

オーディオ銘機賞は、機器の音質や性能だけでなく、安心して長年使用できること、ご販売店様が自信をもってお客様にお勧めできること、そしてメーカーが商品をしっかりと生産し提供できることを評価してくださいます。このような賞は世界的に見てもたいへん稀有で、受賞できたことを大いに誇りに思っています。

―― 金賞受賞のE-800Sにつきまして、製品のポイントをお聞かせいただけますか。

鈴木 ハイファイアンプには、プリとパワーを分けたセパレート型アンプと、それらが一体となったプリメインアンプがあり、プリメインアンプのメリットのひとつはスペースファクターのよさです。規模をあまり大きくせずピュアオーディオを追及したいというお客様のニーズにお応えするため、最高峰の純A級プリメインアンプとして2019年に「E-800」を製品化しました。今回のE-800SはこのE-800の後継機で、末尾にSが付いただけのモデル名ですのでマイナーチェンジと思われる方もいらっしゃいますが、アッセンブリの構成から回路まですべてを見直してフルモデルチェンジを行った製品です。

まずE-800については、アキュフェーズの50周年を記念する一連の製品群の中で最初にリリースしたモデルで、私どもにとっても大きな存在です。記念モデルとして注力し、まったくのゼロから開発したのですが、素晴らしいモデルに仕上がったと自負しています。純A級で50ワットの定格出力を実現するために、筐体の奥行きと高さを既存のモデルより大きくせざるを得なかったことに少し懸念もありましたが、高額にも関わらずおかげさまで販売も大変好調でした。

その後継機としてE-800Sを制作するにあたっては、いかにE-800を超えるかが課題になります。従来機同様の大きさで同じく純A級としましたが、安全規格を満たすとなると定格出力も同様の50Wが限界です。そこで質をさらに上げるための工夫を凝らしました。パネルのデザインでは、さらにバランスをよくするためにデザインの重心を下げました。メーターの窓も大きくなっていますし、サブパネルの開閉機構も新たに作り直したため、開く時に洗練されたゆったりした動きになっています。

アキュフェーズの50周年記念モデル、プリメインアンプ「E-800」

パワーアンプの電源となる電源トランス、電解コンデンサーも従来機よりも容量を大きくし、すべて新規に設計しました。アセンブリーの配置と回路の割り振りも、配線を少なくして安全性をさらに向上させるために見直しました。そしてさらに雑音を低減させるために、回路構成や使用するトランジスタ、ICの品種を見直しましたし、当社オリジナルのボリューム回路バランスドAAVAに、雑音とひずみを打ち消す回路ANCCを搭載し、結果的に雑音を10%低減させることができました。

■全社でものづくりに向き合い、小さな前進を重ねて製品にもたらされた大きな進化



―― 雑音とひずみを打ち消すとはどういったことなのでしょうか。

鈴木 バランスドAAVAの雑音を減らすことを考えてみますと、内部に使うトランジスタやICに低雑音の素子を使えばよいのですが、こうするとひずみが悪くなったり、消費電力が大きくなったりといったトレードオフが生じます。

そこでANCCなのですが、どういうものかというと、出力に発生しているひずみと雑音の波形を取り出し、プラスマイナスを逆にして出力波形にぶつけてキャンセルするしくみで、いわばノイズキャンセル・ヘッドホンのような原理です。フィードバックではなく、どちらかというとフィードフォワードのようなしくみです。これによって、トレードオフが生じることなく、雑音とひずみを低減することができます。ANCCは2017年に発売したCDプレーヤー「DP-430」で最初に搭載したもので、アキュフェーズのオリジナル技術として特許を取得しています。

―― さまざまな積み重ねが組み合わされて製品に開花したのですね。開発にはどれくらいの時間がかかったのでしょうか。

鈴木 デザインのスタートから見ると3年ぐらいでしょうか。私どもでは製品を設計する際、その都度、技術部内にプロジェクトチームを立ち上げます。設計者は同じカテゴリーの製品を作り続けるのではなく、いろいろなカテゴリーの設計に携わります。E-800Sのプロジェクトチームの構成は、電気系の担当者が2人、機構の担当者が1人、合わせて3人です。3人のうち前モデルのE-800に携わったものは1人だけです。

―― 御社ではカテゴリーごとのご担当者が存在するのではなくて、皆さんがそれぞれ何でも作っていくのですね。

鈴木 設計者全員がなんでも設計できれば、手が空いている者が次の製品にとりかかれるので効率的です。それに、みんな技術屋ですから、何でも作れた方が面白いじゃないですか。ただ、どのようなカテゴリーの製品を設計しても、アキュフェーズとしての芯というべきものはぶれることがありません。

社内全体の製品づくりとしては、企画がスタートする段階から検討会が開かれ、あらゆる部署が参加して意見を出します。検討会で各部署から出た意見が集約され、まとめ上げられてかたちになっていくわけです。そんな中で設計者は日頃から、他のチームの開発を見て自分ならこうするといったおぼろげなイメージを持っています。ですから次の新製品に着手することになった時は、すでに持っているイメージを形にしていくということですね。

―― 音質はどのように決めていかれるのでしょうか。

音質を調整するのは設計担当者です。製品の音質は、電気的性能や使用する部品、回路構成、シャーシ構造など、いろいろな要素で決まります。それぞれの部品や回路には個別の音質がありますが、設計担当者は、部品や回路などの音質のイメージを持っていて、それらの膨大な組み合わせの中から目指す音質を作っていきます。設計担当者が作った音質は技術部内の音質をまとめる担当者が聴きます。OKとなれば、役員、営業部員が聴いて、これでよしとなれば製品が完成となります。

■ハイエンドオーディオに欠かせない顧客接点の場づくりを、国内でも海外でも強化




―― 昨今の国内ハイエンドオーディオ市場動向をどうご覧になりますか。

鈴木 日本のハイエンドオーディオ市場は、大変成熟した市場であると捉えていまして、今後も売れる製品のカテゴリーなどがドラスティックに変わることはないと思います。私どもでは今年の6月、マルチアンプシステム用のチャンネルデバイダー「DF-75」を発売したのですが、特殊な製品にもかかわらず想定以上に売れています。また、2018年に発売したFMステレオチューナー「T-1200」もコンスタントに売れています。ハイエンドオーディオの楽しみ方が多様化していて、成熟している一つのあかしだと思います。

昨今では、国内でオーディオの価格が高いとよく問題視されていますね。私どものものづくりは、メイドインジャパンのこだわりをもっていますが、できるだけ価格を抑えたい思いでおります。ただ部品不足やそれに伴う値上げも未だに落ち着いてはいませんので、ポイントのところで高価な部品も投入しながら、メリハリをつけて製作しております。

またハイエンドオーディオの販売においては、製品の再生音を聴いていただくのは必須です。販促活動につきましてはこれまで同様、販売店様の試聴会や各地で行われるイベントに積極的に参加していますし、そういった場でお客様と対面でお話しすることも重視しています。

―― 海外市場に対するご販売活動はいかがでしょうか。

鈴木 海外の販売は、アキュフェーズの企業ポリシーを理解していただける輸入代理店を国ごとに選定し、販売や販促の活動を一任しています。これをサポートするために連絡を密にするとともに、主要な輸入代理店や販売店には定期的に訪問しています。また、輸入代理店が出展しているオーディオショウで試聴イベントを行って、現地のお客様と対面でのコミュニケーションをはかっています。こうしたショウへの出展も輸入代理店の主導で行っていただいています。

―― 今後のお取り組みについてはいかがでしょうか。

鈴木 これまでは50周年記念モデルで培った技術で、さまざまなモデルを展開してきましたが、2025年は新しいステップを踏み出す年になります。ぜひご期待ください。これからもお客様に愛される製品を提供して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

―― すばらしい製品が誕生して、今後の展開も楽しみですね。有難うございました。


E-700
●オーディオ銘機賞2025の銀賞受賞、アキュフェーズのプリメインアンプ「E-700」
2017年発売の純A級プリメインアンプE-650の後継機。内部を大きく進化させ、プリアンプ部分のバランスドAAVAにANCCを搭載し従来機よりも雑音を10%改善。パワーアンプのA級動作範囲を35W/8Ω、出力素子のMOSFETを4並列駆動へ増やし、35WまではA級、それ以上はAB級となり最大出力は70W/8Ω以上に。ダンピングファクタ―も1000に向上。


A-48S
●オーディオ銘機賞2025の銀賞受賞、アキュフェーズのパワーアンプ「A-48S」
2019年に発売の純A級ステレオパワーアンプA-48の後継機。バランス入力アンプとパワーアンプが2段となるインスツルメンテーション構成を採用。バランス入力アンプの回路構成を一新して雑音特性を10%程度改善。パワーアンプ部はA級動作範囲を50W/8Ωに拡大。最大出力は100W/8Ω以上。出力アップに伴って、電源も強化しダンピングファクタ―も1000に向上。

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