公開日 2012/10/24 10:30
デノンAVアンプ最高峰機の「ネットオーディオ再生力」を試す ー 「AVR-4520」総力レポート【Part.2】
【特別企画】専用プレーヤーを凌ぐ高音質・高機能
BD、CD、SACD、ネットオーディオ、USBオーディオ、全てのソースを「貪欲に」、そして「高品位に」取り込むデノンの最高峰モデル「AVR-4520」がいよいよデビューした。AVアンプとしてのベーシックな側面の練り上げを図るとともに、高品位な4Kアップコンバート機能を有した「映像送り出し機器」としての側面も持った、デノン・新フラグシップの「総合力」を2回に渡ってお届けする。第二回目のレビューとして、山之内正氏による「ネットワークオーディオ」にターゲットを絞った視聴インプレッション、ハンドリングレポートをお届けする。
デノンAVアンプ最高峰モデルの「ネットオーディオ再生力」を試す
ネットワークオーディオは専用機以外にも急速な広がりを見せ、特にAVアンプではいまや必須の機能になった感がある。そんな状況のなか、対応ファイル形式やサンプリング周波数など数値で比べられる指標が注目を集めがちだが、ネットワークオーディオを使いこなすうえで重要なカギを握るのは、やはり音質と使い勝手に尽きる。専用機に迫るクオリティと使いやすさをそなえたAVアンプは果たして存在するのだろうか。
そんな視点からこの秋に登場する各社の製品群を見渡したとき、有力な候補として浮上するのがデノンの「AVR-4520」だ。アンプとしての基本性能の高さに加え、ネットワークオーディオ機能にも手抜きがなく、専用機をしのぐ部分もある。その実力を検証することがここでのテーマだ。
本機の電源を入れると最初にネットワーク接続を促す画面が表示され、接続診断などサポート機能が従来機以上に充実していることがわかる。LAN接続時に設定の手間がなく、スムーズにつながるので、ネットオーディオ導入時の障壁はほとんど存在しない。
接続がスムーズなのにはもう一つ理由があり、それは本機がハブ機能を内蔵していることに関係がある。NASやパソコンなどのストレージがルーターを経由せずに直接本機につなぐことができ、音質と設置性の両面でメリットがあるのだ。また、テレビやBDレコーダーなどネットワーク接続機能を持つAV機器と本機を直接つなぐこともでき、LANを集中管理できるアドバンテージも大きい。ネットワーク機器を3台つなぐことができるので、NAS、テレビ、BDレコーダーを接続してみたが、いずれもAVアンプの近くに設置する機器なので、配線が短距離ですっきりまとまり、とても具合がいい。経路を短くシンプルにすることは、ラインノイズなどの増加を防ぐメリットもある。
パソコンはWi-Fiを介して接続しておけばAirPlayを利用して本機に音を飛ばすことができるし、もちろんiPhoneやiPadなどのiOS端末も同機能を使えば簡単につながり、非常に便利だ。ネットワークの存在を意識する必要がなく、聴きたい曲を選ぶだけですぐに音が出てくるので、音楽に集中できるメリットが大きい。
メインメニューからメディアサーバーを選ぶと、すぐにNASのアルバム一覧が画面に表示され、目的の曲にたどり着くまでの操作に引っかかる部分はまったくない。上下のスクロールや画面の切り替えは高速で、事実上待ち時間が存在しないと言っていい。その快適な動きは、iOS端末などでリモコンアプリ「Denon Remote App」を動かしたときにもまったく変わらず、サクサクと画面が切り替わっていく。
AVアンプのネットワーク機能は操作にもたつきがあるケースが多かったが、本機についてはその心配はまったく不要だ。本体のディスプレイのみ日本語表示に非対応だが、映像出力につないだテレビ画面やタブレットの画面上には滑らかなフォントで日本語が表示されるので、選曲操作に困ることはないはずだ。また、操作アプリとテレビ出力の表示画面はレイアウトがほぼ共通で、操作に一貫性がある。毎日使う機能なので、これはとても重要なポイントだ。
ネットワーク再生は専用プレーヤーをも凌ぐ高音質・高機能
NASに保存した192kHz/24bit、FLAC形式のデータを再生してみよう。まず、リンレコーズのサイトから最近ダウンロードしたウェーバーのクラリネット協奏曲を聴く。この録音はオーケストラと独奏楽器のバランスが自然で、両者の音色の幅が広いことに特徴がある。本機はそれぞれの楽器の鳴らし分けが得意で、変化に富んだ起伏のある音楽を活き活きと再現してみせた。特にクラリネットの音色は明るくなめらかで、音場の透明感の高さと立体的な遠近感とともに、ハイレゾ音源ならではの質感を見事に引き出している。澄んだ空間を再現する秘密は、デコードやD/A変換からアナログ段の増幅まで、本機1台に集約していることにありそうだ。信号を最短距離で伝送する利点をはっきり聴き取ることができる。
リンダ・ロンシュタットの「What's New」(96kHz/24bit、FLAC)は一番高い音までボーカルが澄み切った音色を失わず、爽快に伸び切っている。一音一音の発音がクリアなので声が遠くまで到達する感触を味わえるし、ストリングスやパーカッションが厚い音を出しても声がマスクされず、強い浸透力を保っているのだ。
大編成のオーケストラは低音楽器の力強い押し出し感とレスポンスの速さが聴きどころだ。コントラバスの立ち上がりがクイックで余分な重さがなく、前向きに軽快なテンポを刻む。その一方で音色が痩せることはなく、最低音域までしっかりとした芯がある。付帯音が少ないのはネットワークオーディオならではの長所だが、低域の反応の良さと力強さはデノンのアンプの持ち味でもある。その両者が適切なバランスで両立していることが、AVR-4520の強みと言っていいだろう。
Wi-Fiを介して聴くAirPlayの再生音からもレスポンスの良さと情報量の余裕を実感することができる。iPadに保存したロスレス音源(ALAC)を聴いたが、ダイナミックレンジの大きい曲を再生してもワイヤレス再生のデメリットをまったく感じさせない。ピアノやパーカッションの粒立ちがクリアで、リズムのテンションの高さがストレートに伝わってくる。
同じワイヤレスでもBluetoothでは音の立ち上がりが鈍って聞こえてくることがあるが、本機で聴くAirPlayのサウンドにはそうしたもどかしさがないので、アルバム1枚をまるごと聴いてもストレスを感じることがなく、安心して音楽に浸ることができる。本機はAAC音源からも予想以上に鮮度の高い音を引き出す力があり、曲によっては圧縮音源とは思えないスケール感を再現してみせる。iTunes Storeからダウンロードしたチャイコフスキーのピアノ協奏曲(独奏:アリス・紗良・オット)はその代表的な例で、ピアノの深い低音が重心の低いオーケストラと対峙し、アリス・紗良・オットのピアノから深々とした低音を引き出している。旋律の粒立ちも意外なほど鮮明で、強いタッチとなめらかなフレージングが共存する様子など、彼女の演奏の特徴をしっかり聴き取ることができた。
本機はDLNA再生やAirPlayなどネットワーク機能をフル装備していることに加え、スペック面でも最先端の仕様を満たしている。WAVとFLACの両形式で最大192kHz/24bitまで対応しているだけでなく、アップルロスレス(ALAC)のサポートやギャップレス再生の実現など、一部の専用機を上回る内容を盛り込んでいることにも注目したい。
ネットワークオーディオは利便性が強調されることが多いが、再生機器を吟味すれば、耳を疑うような鮮度の高い音を楽しむことができる。そのメリットを実感できるのは専用機だけと考えがちだが、AVアンプのネットワーク再生もけっして侮ることはできない。本機のように妥協のない設計を行えば、専用機に迫るクオリティを引き出すことも不可能ではないのだ。
【SPEC】DENON AVR-4520 ¥346,500(税込)
●定格出力:フロント150W+150W、センター150W、サラウンド150W+150W、サラウンドバック150W+150W、フロントワイド/ハイト150W+150W(負荷8Ω、20Hz〜20kHz、THD0.05%) ●実用最大出力:フロント220W+220W、センター220W、サラウンド220W+220W、サラウンドバック220W+220W、フロントワイド/ハイト220W+220W(負荷6Ω、1kHz、THD10%、JEITA) ●周波数特性:10Hz〜100kHz ●HDMI端子:入力7、出力3 ●映像入出力端子:コンポーネントビデオ入力×3、同出力×2、アナログ映像入力×4、同出力×3 ●音声入出力端子:アナログ音声入力×7、同出力×3、光デジタル入力×2、同軸デジタル入力×2、PHONO入力×1、11.2chプリアウト×1、7.1chEXT入力×1、ヘッドホン出力×1 ●外形寸法:434W×194.5H×422.7Dmm(フット、端子、つまみ含む) ●質量:16.5kg
◆山之内正
出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
デノンAVアンプ最高峰モデルの「ネットオーディオ再生力」を試す
ネットワークオーディオは専用機以外にも急速な広がりを見せ、特にAVアンプではいまや必須の機能になった感がある。そんな状況のなか、対応ファイル形式やサンプリング周波数など数値で比べられる指標が注目を集めがちだが、ネットワークオーディオを使いこなすうえで重要なカギを握るのは、やはり音質と使い勝手に尽きる。専用機に迫るクオリティと使いやすさをそなえたAVアンプは果たして存在するのだろうか。
そんな視点からこの秋に登場する各社の製品群を見渡したとき、有力な候補として浮上するのがデノンの「AVR-4520」だ。アンプとしての基本性能の高さに加え、ネットワークオーディオ機能にも手抜きがなく、専用機をしのぐ部分もある。その実力を検証することがここでのテーマだ。
本機の電源を入れると最初にネットワーク接続を促す画面が表示され、接続診断などサポート機能が従来機以上に充実していることがわかる。LAN接続時に設定の手間がなく、スムーズにつながるので、ネットオーディオ導入時の障壁はほとんど存在しない。
接続がスムーズなのにはもう一つ理由があり、それは本機がハブ機能を内蔵していることに関係がある。NASやパソコンなどのストレージがルーターを経由せずに直接本機につなぐことができ、音質と設置性の両面でメリットがあるのだ。また、テレビやBDレコーダーなどネットワーク接続機能を持つAV機器と本機を直接つなぐこともでき、LANを集中管理できるアドバンテージも大きい。ネットワーク機器を3台つなぐことができるので、NAS、テレビ、BDレコーダーを接続してみたが、いずれもAVアンプの近くに設置する機器なので、配線が短距離ですっきりまとまり、とても具合がいい。経路を短くシンプルにすることは、ラインノイズなどの増加を防ぐメリットもある。
パソコンはWi-Fiを介して接続しておけばAirPlayを利用して本機に音を飛ばすことができるし、もちろんiPhoneやiPadなどのiOS端末も同機能を使えば簡単につながり、非常に便利だ。ネットワークの存在を意識する必要がなく、聴きたい曲を選ぶだけですぐに音が出てくるので、音楽に集中できるメリットが大きい。
メインメニューからメディアサーバーを選ぶと、すぐにNASのアルバム一覧が画面に表示され、目的の曲にたどり着くまでの操作に引っかかる部分はまったくない。上下のスクロールや画面の切り替えは高速で、事実上待ち時間が存在しないと言っていい。その快適な動きは、iOS端末などでリモコンアプリ「Denon Remote App」を動かしたときにもまったく変わらず、サクサクと画面が切り替わっていく。
AVアンプのネットワーク機能は操作にもたつきがあるケースが多かったが、本機についてはその心配はまったく不要だ。本体のディスプレイのみ日本語表示に非対応だが、映像出力につないだテレビ画面やタブレットの画面上には滑らかなフォントで日本語が表示されるので、選曲操作に困ることはないはずだ。また、操作アプリとテレビ出力の表示画面はレイアウトがほぼ共通で、操作に一貫性がある。毎日使う機能なので、これはとても重要なポイントだ。
ネットワーク再生は専用プレーヤーをも凌ぐ高音質・高機能
NASに保存した192kHz/24bit、FLAC形式のデータを再生してみよう。まず、リンレコーズのサイトから最近ダウンロードしたウェーバーのクラリネット協奏曲を聴く。この録音はオーケストラと独奏楽器のバランスが自然で、両者の音色の幅が広いことに特徴がある。本機はそれぞれの楽器の鳴らし分けが得意で、変化に富んだ起伏のある音楽を活き活きと再現してみせた。特にクラリネットの音色は明るくなめらかで、音場の透明感の高さと立体的な遠近感とともに、ハイレゾ音源ならではの質感を見事に引き出している。澄んだ空間を再現する秘密は、デコードやD/A変換からアナログ段の増幅まで、本機1台に集約していることにありそうだ。信号を最短距離で伝送する利点をはっきり聴き取ることができる。
リンダ・ロンシュタットの「What's New」(96kHz/24bit、FLAC)は一番高い音までボーカルが澄み切った音色を失わず、爽快に伸び切っている。一音一音の発音がクリアなので声が遠くまで到達する感触を味わえるし、ストリングスやパーカッションが厚い音を出しても声がマスクされず、強い浸透力を保っているのだ。
大編成のオーケストラは低音楽器の力強い押し出し感とレスポンスの速さが聴きどころだ。コントラバスの立ち上がりがクイックで余分な重さがなく、前向きに軽快なテンポを刻む。その一方で音色が痩せることはなく、最低音域までしっかりとした芯がある。付帯音が少ないのはネットワークオーディオならではの長所だが、低域の反応の良さと力強さはデノンのアンプの持ち味でもある。その両者が適切なバランスで両立していることが、AVR-4520の強みと言っていいだろう。
Wi-Fiを介して聴くAirPlayの再生音からもレスポンスの良さと情報量の余裕を実感することができる。iPadに保存したロスレス音源(ALAC)を聴いたが、ダイナミックレンジの大きい曲を再生してもワイヤレス再生のデメリットをまったく感じさせない。ピアノやパーカッションの粒立ちがクリアで、リズムのテンションの高さがストレートに伝わってくる。
同じワイヤレスでもBluetoothでは音の立ち上がりが鈍って聞こえてくることがあるが、本機で聴くAirPlayのサウンドにはそうしたもどかしさがないので、アルバム1枚をまるごと聴いてもストレスを感じることがなく、安心して音楽に浸ることができる。本機はAAC音源からも予想以上に鮮度の高い音を引き出す力があり、曲によっては圧縮音源とは思えないスケール感を再現してみせる。iTunes Storeからダウンロードしたチャイコフスキーのピアノ協奏曲(独奏:アリス・紗良・オット)はその代表的な例で、ピアノの深い低音が重心の低いオーケストラと対峙し、アリス・紗良・オットのピアノから深々とした低音を引き出している。旋律の粒立ちも意外なほど鮮明で、強いタッチとなめらかなフレージングが共存する様子など、彼女の演奏の特徴をしっかり聴き取ることができた。
本機はDLNA再生やAirPlayなどネットワーク機能をフル装備していることに加え、スペック面でも最先端の仕様を満たしている。WAVとFLACの両形式で最大192kHz/24bitまで対応しているだけでなく、アップルロスレス(ALAC)のサポートやギャップレス再生の実現など、一部の専用機を上回る内容を盛り込んでいることにも注目したい。
ネットワークオーディオは利便性が強調されることが多いが、再生機器を吟味すれば、耳を疑うような鮮度の高い音を楽しむことができる。そのメリットを実感できるのは専用機だけと考えがちだが、AVアンプのネットワーク再生もけっして侮ることはできない。本機のように妥協のない設計を行えば、専用機に迫るクオリティを引き出すことも不可能ではないのだ。
【SPEC】DENON AVR-4520 ¥346,500(税込)
●定格出力:フロント150W+150W、センター150W、サラウンド150W+150W、サラウンドバック150W+150W、フロントワイド/ハイト150W+150W(負荷8Ω、20Hz〜20kHz、THD0.05%) ●実用最大出力:フロント220W+220W、センター220W、サラウンド220W+220W、サラウンドバック220W+220W、フロントワイド/ハイト220W+220W(負荷6Ω、1kHz、THD10%、JEITA) ●周波数特性:10Hz〜100kHz ●HDMI端子:入力7、出力3 ●映像入出力端子:コンポーネントビデオ入力×3、同出力×2、アナログ映像入力×4、同出力×3 ●音声入出力端子:アナログ音声入力×7、同出力×3、光デジタル入力×2、同軸デジタル入力×2、PHONO入力×1、11.2chプリアウト×1、7.1chEXT入力×1、ヘッドホン出力×1 ●外形寸法:434W×194.5H×422.7Dmm(フット、端子、つまみ含む) ●質量:16.5kg
◆山之内正
出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。