公開日 2013/05/27 10:54
パイオニア「VSA-1123」レビュー − DSD再生など先進機能搭載のエントリーAVアンプ
パイオニアから新AVアンプ「VSA-1123」が5月下旬に登場する。88,000円(税込)という入門機の価格帯ながら、DSD再生や4Kアップスケーリングといった先進機能を搭載。iOS/Android端末内の音楽をAVアンプで再生できる「プッシュプレーヤー」機能を備えるなど進化した操作アプリ「iControlAV2013」による直感的操作が可能なのも特徴だ。本機を山之内正がレビューする。
●製品プロフィール
新しい挑戦に取り組み続け
大きな成果を上げた意欲作
エントリークラスの上位に位置する本機は、チャンネル当たり180Wという大出力を実現しつつ、機能面でも他社に先駆けて新しい挑戦に取り組み続け、大きな成果を上げた意欲的な製品である。USBメモリーを介したDSDファイルの再生やネットワーク再生機能の充実など、これからのAVアンプに求められる機能を先取りしていることに加え、操作アプリでも一歩先を行く進化を遂げている。エントリークラスに組み込むべき価格の製品ながら、特に機能面では上位機種をも脅かす存在といえそうだ。
内蔵するアンプ回路は上位機種とは異なり、アナログ方式の「ダイレクトエナジーデザインアンプ」を搭載。全チャンネルディスクリート構成のパワーアンプをコンパクトなブロックにまとめ、筐体手前側に配置している。今回は電流の最適化やグランドの安定化など本質的な性能改善を図っており、スピーカーの駆動能力を高めている。
DSD再生は2.8MHzのDSF、DSDIFF各ファイルの再生をサポートする。
●BD(映画・音楽)の音質
大きさと密度感を両立した
完成度の高い空間再現性
『ホビット』はスクリーンをはみ出すほどの広大な音場が広がり、画面に見合うサイズか、それ以上に大きな空間が目の前に広がる。その広大なスケール感の再現は下位モデルのVSA-823に比べると明らかに空間サイズがひとまわり大きくなり、そのなかで動きまわる音の起伏にも余裕が出る印象だ。
森のなかに響き渡る鳥の鳴き声など、効果音自体も音数が増えたように感じ、動と静の対比にも雄弁さを実感できる。僅かな音からも大体の距離感をつかみやすいのは、空間情報を忠実に引き出していることに理由がありそうだ。同社のフラグシップ機と比較してしまうと超低域への伸びや空気感の表現には限界があるが、8万円台のアンプでここまでのサウンドを引き出す実力は高く評価すべきだろう。
7.1ch再生時の空間密度の高さはディスクリート再生ならではのもので、空間の大きさと密度感が両立したバランスの良さも見事というしかない。この完成度の高い空間再現性は本機を選ぶうえで大きなアドバンテージになりそうだ。
動と静の対比のうまさは『007 スカイフォール』からも聴き取ることができた。上海でパトリスを追い詰める場面、テンションの高い静寂が張り詰めた空気感を引き出し、息を呑むような展開を音からも盛り上げていく。金属質の衝撃音やガラスが砕ける音など硬質なタッチのサウンドから、音楽や風の音に代表される空気をたっぷり含んだ柔らかい音まで、音色を表現するパレットに十分な余裕があり、それぞれの効果音の特徴を素直に引き出すことにも感心した。音楽は楽器の質感を保ちつつディテールを克明に描き出し、ここでも音数の多さを強く印象付ける。
マーラーの《復活》は前方中心に密度の高い音場が広がり、コンサート会場で体験するような立体的なパースペクティブが目の前に広がる。第5楽章は編成が大きく音数が多い曲なのだが、本機とエラック240シリーズの組み合わせからは、その全容をクリアに聴き取ることができた。セパレーションが優れているため、他の楽器に旋律がマスクされることがなく、低音まで実在感を失わないため、コントラファゴットが繰り出す超低音にもしっかりとエネルギーが乗っている。
●CDの音質
明瞭で引き締まった低域
質感の生々しさも高い
筐体の剛性強化が功を奏しているのか、低音は輪郭が明瞭でよく引き締まり、しかもしっかりとした芯のある音を再現する。オルガンの足鍵盤の音域まで澄んだ響きを引き出し、もやもやとした混濁感とは縁がない。高弦は明るくシャープな音色を引き出しつつ、低弦が加わったときの柔らかい響きも忠実に再現している。
ボーカルはハスキーなタッチの声の魅力を生々しく再現し、リズム楽器との対比にも無理がない。伸び伸びとした声の質感を歪みなく引き出すのはアンプにとって難易度の高い課題なのだが、本機はその点でも不安はない。アコースティックギターはセパレーションの高さとテンポの推進力が聴きどころだ。
●操作系写真レポート
●製品プロフィール
新しい挑戦に取り組み続け
大きな成果を上げた意欲作
エントリークラスの上位に位置する本機は、チャンネル当たり180Wという大出力を実現しつつ、機能面でも他社に先駆けて新しい挑戦に取り組み続け、大きな成果を上げた意欲的な製品である。USBメモリーを介したDSDファイルの再生やネットワーク再生機能の充実など、これからのAVアンプに求められる機能を先取りしていることに加え、操作アプリでも一歩先を行く進化を遂げている。エントリークラスに組み込むべき価格の製品ながら、特に機能面では上位機種をも脅かす存在といえそうだ。
内蔵するアンプ回路は上位機種とは異なり、アナログ方式の「ダイレクトエナジーデザインアンプ」を搭載。全チャンネルディスクリート構成のパワーアンプをコンパクトなブロックにまとめ、筐体手前側に配置している。今回は電流の最適化やグランドの安定化など本質的な性能改善を図っており、スピーカーの駆動能力を高めている。
DSD再生は2.8MHzのDSF、DSDIFF各ファイルの再生をサポートする。
●BD(映画・音楽)の音質
大きさと密度感を両立した
完成度の高い空間再現性
『ホビット』はスクリーンをはみ出すほどの広大な音場が広がり、画面に見合うサイズか、それ以上に大きな空間が目の前に広がる。その広大なスケール感の再現は下位モデルのVSA-823に比べると明らかに空間サイズがひとまわり大きくなり、そのなかで動きまわる音の起伏にも余裕が出る印象だ。
森のなかに響き渡る鳥の鳴き声など、効果音自体も音数が増えたように感じ、動と静の対比にも雄弁さを実感できる。僅かな音からも大体の距離感をつかみやすいのは、空間情報を忠実に引き出していることに理由がありそうだ。同社のフラグシップ機と比較してしまうと超低域への伸びや空気感の表現には限界があるが、8万円台のアンプでここまでのサウンドを引き出す実力は高く評価すべきだろう。
7.1ch再生時の空間密度の高さはディスクリート再生ならではのもので、空間の大きさと密度感が両立したバランスの良さも見事というしかない。この完成度の高い空間再現性は本機を選ぶうえで大きなアドバンテージになりそうだ。
動と静の対比のうまさは『007 スカイフォール』からも聴き取ることができた。上海でパトリスを追い詰める場面、テンションの高い静寂が張り詰めた空気感を引き出し、息を呑むような展開を音からも盛り上げていく。金属質の衝撃音やガラスが砕ける音など硬質なタッチのサウンドから、音楽や風の音に代表される空気をたっぷり含んだ柔らかい音まで、音色を表現するパレットに十分な余裕があり、それぞれの効果音の特徴を素直に引き出すことにも感心した。音楽は楽器の質感を保ちつつディテールを克明に描き出し、ここでも音数の多さを強く印象付ける。
マーラーの《復活》は前方中心に密度の高い音場が広がり、コンサート会場で体験するような立体的なパースペクティブが目の前に広がる。第5楽章は編成が大きく音数が多い曲なのだが、本機とエラック240シリーズの組み合わせからは、その全容をクリアに聴き取ることができた。セパレーションが優れているため、他の楽器に旋律がマスクされることがなく、低音まで実在感を失わないため、コントラファゴットが繰り出す超低音にもしっかりとエネルギーが乗っている。
●CDの音質
明瞭で引き締まった低域
質感の生々しさも高い
筐体の剛性強化が功を奏しているのか、低音は輪郭が明瞭でよく引き締まり、しかもしっかりとした芯のある音を再現する。オルガンの足鍵盤の音域まで澄んだ響きを引き出し、もやもやとした混濁感とは縁がない。高弦は明るくシャープな音色を引き出しつつ、低弦が加わったときの柔らかい響きも忠実に再現している。
ボーカルはハスキーなタッチの声の魅力を生々しく再現し、リズム楽器との対比にも無理がない。伸び伸びとした声の質感を歪みなく引き出すのはアンプにとって難易度の高い課題なのだが、本機はその点でも不安はない。アコースティックギターはセパレーションの高さとテンポの推進力が聴きどころだ。
●操作系写真レポート