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公開日 2016/06/09 19:37
ドルビービジョン説明会が開催。ドルビービジョン対応UHD-BDも近々登場か
国内での制作環境も次第に充実
新たな高画質技術として注目を集めている「HDR」技術のうちのひとつ「ドルビービジョン」。5月27日にはLGから4K/HDR対応有機ELテレビ「OLED E6P/C6P」(関連ニュース)が発売になり、視聴環境もだんだんと整いつつある。
これをうけ、ドルビージャパンは「ドルビービジョン」について改めて紹介する説明会を開催した。すでに折原氏のレポート(前編)/(後編)で非常に詳しく解説しているので、本稿では基本的なおさらいをまとめるとともに、新たに明らかにされた情報についてレポートしたい。
■輝度と色域を増やして画質向上を図る「ドルビービジョン」
まず、そもそもHDR技術とは何かということについておさらいしよう。HDRとは、ざっくり言うと「映像の持つ色の輝度幅(ダイナミックレンジ)を拡大する技術」のことだ。これまで映像フォーマットの革新においては解像度やフレームレートの向上に注力されていたが、輝度についてはNTSCの時代からずっと変わらず100nitsのままだった。しかしドルビーは、輝度コントラストと色域も増やさないと本質的向上はできない、と考えた。そこで10年以上を費やし開発されたのが「ドルビービジョン」というわけだ。
ドルビービジョンは単にテレビなど表示時に適用されるだけにとどまらない。撮影から視聴までの全チェーンにわたって適用され、高画質を実現するというものなのだ。そのため映像制作者にとっては制作〜視聴までトータルで画質保証ができること、表現できる範囲が広がるので制限の少ない制作ができることがメリットとなる。「カラーリストからも『カラーパレットが大きいのでグレーディングが楽になった』という声をもらっている」(真野氏)という。
なお、真の実力を味わうには「ドルビービジョン対応コンテンツ」「対応プレーヤー/レコーダー」「対応テレビ」の3点セットが必要だ。表示デバイスとしては、テレビはもちろん、今後はスマホやタブレットなどもターゲットにしているという。ドルビービジョンに対応する機器/コンテンツにはロゴマークを付与し、品質保証を行う予定とのこと。そして詳しい時期は明かされなかったが、近々ドルビービジョン対応BDも登場予定だという。
■人間の目で見た風景と近い映像を再現するには?
ふだん我々が目にしている自然界の風景では、光のレンジは非常に広い。そして人間の目は、動画に対して0.001nits〜20,000nits以上、露出換算では24段階の光を瞬時に識別できる性能を持っている。
しかしその風景を撮影してBD規格に収めると、0.01〜100nits、露出換算10段階の範囲にまで圧縮されてしまう。これでは人が見ている映像よりもプアなものしか再現できない。
そこでドルビービジョンはまず、人間の目に近い映像を確保するために何段階、最大何nitsまでのレンジが求められるのか検討を行った。独自に検証用ディスプレイを作り、数多くの被験者でテスト。暗部表現はどうか、雪山が雪山らしく、金属が金属らしく見えるかなどを検証した結果、「0.005〜10,000nits、19段階」という結果がまとまり、これをもとに規格化した。
そしてこのレンジのデータを量子化し、映像制作時や再生機器の伝送で一般的である12bitの階調に収めるために、同社は「Perceptual Quantization Curve(パーセプチュアル・クォンタリゼーション・カーブ)」=「PQ」を開発した。これは人間の知覚特性を現すBarten Ramp曲線に沿って量子化することで、知覚できない部分にはビットを付与しないという方式。ちなみにPQは「ST.2084」として標準化されており、Ultra HD Blu-rayにおける標準のHDR収録方式としても制定されている。真野氏は「PQはいちばん効率がよく、人間の目から見て効果的な量子化フォーマット」だと語る。
■「ドルビービジョンは決してギラギラした映像ではない」理由
輝度が上がるとまぶしい、ギラギラした映像になってしまうのでは? と思う方もいらっしゃるだろう。しかし真野氏はそれを否定する。理由として挙げられたのは、PQ値の設定を10,000nits/2,000nits/1,000nits/500nitsにして処理した場合の輝度レンジ割合だ。理想的とされる10,000nitsの場合でも、7割近くがPQ500nitsの場合と同じレンジに収まっている。そのため「平均輝度はこれまでの映像とほぼ変わらない。その上に、ほんの少しキラキラしたものが乗るようなイメージ」と語った。
■「低価格テレビから映画館まで高画質映像を実現できる」理由
また真野氏がドルビービジョンのアドバンテージのひとつとして紹介するのが、いちどマスターを作ってしまえば、映画館用から家庭用テレビまで、それぞれに最適なかたちの映像にあわせて生成できること。たとえばドルビービジョンで作っておけば、それをもとにHDR10映像を作ることも容易だ。それを実現するのが「CMU(Content Mapping Unit)」という機器で、「95%くらいは自動生成できる」(真野氏)という。SDR映像にも配慮しており、ドルビービジョン映像を作りながら、SDR映像もリアルタイムで制作できるという。
ドルビービジョンでは「ベースレイヤー」と「エンハンスメントレイヤー」の2つを用意している。ベースレイヤーはSDR映像で、エンハンスメントレイヤーはHDRとSDRの差分データとなる。この2本の映像を束ねてデコードし、メタデータをもとにテレビの明るさに応じてダウンマッピングして表示する。
テレビの明るさに応じてダウンマッピングできるのは、シーンごと/フレームごとにダイナミックなメタデータを埋め込んでいるためだ。これまでの映像は0〜100nitsの範囲で作っていたため、コントラストが変化してもテレビ側でコントロールすることができた。しかし映像自体の輝度が上がると、コントラストの変化幅も大きくなるためテレビ側で対応ができなくなる。そのため、メタデータを埋め込んでおけば、それをもとに適切なダウンマッピングを行えるというわけだ。
また真野氏は、ドルビービジョンのメリットとして、400nitsくらいの低価格帯テレビであっても、1,000nits相当の体験を実現できるという。また逆に、将来的に1,500nitsや2,000nitsなど、より高い輝度を表示できるテレビが発売された際も、それに合わせた映像再現が可能で、いわゆる「フューチャープルーフ」という観点からも安心と説明した。
なおドルビービジョンは2つのレイヤーを用意している特性上、放送などライブ伝送での実用化はまだ準備中。ただしシングルレイヤーで、メタデータを元に12bit信号を10bitに再量子化することで、限りなく12bit映像に近いものを伝送するという実験は既に成功しているという。
■国内のドルビービジョン対応コンテンツ制作環境も整備中
なお、ドルビービジョン対応のUltra HD Blu-rayプレーヤーや、ドルビービジョン対応Ultra HD Blu-rayソフトも準備中であることが明かされた。
「ドルビービジョンでは2つのレイヤーを同時デコードしないとならず、4K/60p映像の場合、HEVCデコーダーが2つ必要になる。規格上60pまでサポートすることになっているので、デコーダーを2基搭載せねばならないのが開発のコスト面での負担になる。しかし映画の場合はほとんどが24pなので、デコーダー1基でも2レイヤーを時分割で再生できる。動画配信サイトが先行してドルビービジョン対応できたのはそのためだ。ただ最終的にはメーカーが決めることで、製品がどういうかたちになるかは我々がコメントする立場にない」(真野氏)とした、なお、「ドルビービジョン対応プレーヤーが出ると同時にコンテンツも出るはず」とも語られた。
これまで国内でドルビービジョンのコンテンツ制作はできなかったが、現在イマジカには前述のCMUが既に配備されており、カラーグレーディングサービスを準備中。ソニーPCLもグレーディング環境の準備を進めている。「今後国内コンテンツのドルビービジョン対応も始まるのでは」(真野氏)とのことだ。
「いまは多くのベンダーさんから協力をいただいて対応コンテンツを作っているところ。Netflixは150時間分のコンテンツを年内に用意予定で、ひかりTVも今夏、Amazonも近いうちに国内に対応コンテンツを投入予定」と語る真野氏。ドルビーアトモスと合わせて映画館への導入も推進。シアターに入る前に映画の内容に合わせた映像を表示させるなど、トータルでの体験クオリティを上げる試みを行う。
実際に会場でいくつかドルビービジョン対応コンテンツを視聴することができた。Netflixで配信中のオリジナルドラマ「マルコ・ポーロ」では、人物が身につけている金属のアクセサリーの質感や、服に刺繍された錦糸のきらめきなどがリアル。物の立体感や画面の奥行きが際立つ。
単に画面が明るくなる、色表現が豊かになるということに留まらず、映像全体のリアリティが増すという印象を受けた。今後の更なるコンテンツ/対応機器の登場に期待したい。
これをうけ、ドルビージャパンは「ドルビービジョン」について改めて紹介する説明会を開催した。すでに折原氏のレポート(前編)/(後編)で非常に詳しく解説しているので、本稿では基本的なおさらいをまとめるとともに、新たに明らかにされた情報についてレポートしたい。
■輝度と色域を増やして画質向上を図る「ドルビービジョン」
まず、そもそもHDR技術とは何かということについておさらいしよう。HDRとは、ざっくり言うと「映像の持つ色の輝度幅(ダイナミックレンジ)を拡大する技術」のことだ。これまで映像フォーマットの革新においては解像度やフレームレートの向上に注力されていたが、輝度についてはNTSCの時代からずっと変わらず100nitsのままだった。しかしドルビーは、輝度コントラストと色域も増やさないと本質的向上はできない、と考えた。そこで10年以上を費やし開発されたのが「ドルビービジョン」というわけだ。
ドルビービジョンは単にテレビなど表示時に適用されるだけにとどまらない。撮影から視聴までの全チェーンにわたって適用され、高画質を実現するというものなのだ。そのため映像制作者にとっては制作〜視聴までトータルで画質保証ができること、表現できる範囲が広がるので制限の少ない制作ができることがメリットとなる。「カラーリストからも『カラーパレットが大きいのでグレーディングが楽になった』という声をもらっている」(真野氏)という。
なお、真の実力を味わうには「ドルビービジョン対応コンテンツ」「対応プレーヤー/レコーダー」「対応テレビ」の3点セットが必要だ。表示デバイスとしては、テレビはもちろん、今後はスマホやタブレットなどもターゲットにしているという。ドルビービジョンに対応する機器/コンテンツにはロゴマークを付与し、品質保証を行う予定とのこと。そして詳しい時期は明かされなかったが、近々ドルビービジョン対応BDも登場予定だという。
■人間の目で見た風景と近い映像を再現するには?
ふだん我々が目にしている自然界の風景では、光のレンジは非常に広い。そして人間の目は、動画に対して0.001nits〜20,000nits以上、露出換算では24段階の光を瞬時に識別できる性能を持っている。
しかしその風景を撮影してBD規格に収めると、0.01〜100nits、露出換算10段階の範囲にまで圧縮されてしまう。これでは人が見ている映像よりもプアなものしか再現できない。
そこでドルビービジョンはまず、人間の目に近い映像を確保するために何段階、最大何nitsまでのレンジが求められるのか検討を行った。独自に検証用ディスプレイを作り、数多くの被験者でテスト。暗部表現はどうか、雪山が雪山らしく、金属が金属らしく見えるかなどを検証した結果、「0.005〜10,000nits、19段階」という結果がまとまり、これをもとに規格化した。
そしてこのレンジのデータを量子化し、映像制作時や再生機器の伝送で一般的である12bitの階調に収めるために、同社は「Perceptual Quantization Curve(パーセプチュアル・クォンタリゼーション・カーブ)」=「PQ」を開発した。これは人間の知覚特性を現すBarten Ramp曲線に沿って量子化することで、知覚できない部分にはビットを付与しないという方式。ちなみにPQは「ST.2084」として標準化されており、Ultra HD Blu-rayにおける標準のHDR収録方式としても制定されている。真野氏は「PQはいちばん効率がよく、人間の目から見て効果的な量子化フォーマット」だと語る。
■「ドルビービジョンは決してギラギラした映像ではない」理由
輝度が上がるとまぶしい、ギラギラした映像になってしまうのでは? と思う方もいらっしゃるだろう。しかし真野氏はそれを否定する。理由として挙げられたのは、PQ値の設定を10,000nits/2,000nits/1,000nits/500nitsにして処理した場合の輝度レンジ割合だ。理想的とされる10,000nitsの場合でも、7割近くがPQ500nitsの場合と同じレンジに収まっている。そのため「平均輝度はこれまでの映像とほぼ変わらない。その上に、ほんの少しキラキラしたものが乗るようなイメージ」と語った。
■「低価格テレビから映画館まで高画質映像を実現できる」理由
また真野氏がドルビービジョンのアドバンテージのひとつとして紹介するのが、いちどマスターを作ってしまえば、映画館用から家庭用テレビまで、それぞれに最適なかたちの映像にあわせて生成できること。たとえばドルビービジョンで作っておけば、それをもとにHDR10映像を作ることも容易だ。それを実現するのが「CMU(Content Mapping Unit)」という機器で、「95%くらいは自動生成できる」(真野氏)という。SDR映像にも配慮しており、ドルビービジョン映像を作りながら、SDR映像もリアルタイムで制作できるという。
ドルビービジョンでは「ベースレイヤー」と「エンハンスメントレイヤー」の2つを用意している。ベースレイヤーはSDR映像で、エンハンスメントレイヤーはHDRとSDRの差分データとなる。この2本の映像を束ねてデコードし、メタデータをもとにテレビの明るさに応じてダウンマッピングして表示する。
テレビの明るさに応じてダウンマッピングできるのは、シーンごと/フレームごとにダイナミックなメタデータを埋め込んでいるためだ。これまでの映像は0〜100nitsの範囲で作っていたため、コントラストが変化してもテレビ側でコントロールすることができた。しかし映像自体の輝度が上がると、コントラストの変化幅も大きくなるためテレビ側で対応ができなくなる。そのため、メタデータを埋め込んでおけば、それをもとに適切なダウンマッピングを行えるというわけだ。
また真野氏は、ドルビービジョンのメリットとして、400nitsくらいの低価格帯テレビであっても、1,000nits相当の体験を実現できるという。また逆に、将来的に1,500nitsや2,000nitsなど、より高い輝度を表示できるテレビが発売された際も、それに合わせた映像再現が可能で、いわゆる「フューチャープルーフ」という観点からも安心と説明した。
なおドルビービジョンは2つのレイヤーを用意している特性上、放送などライブ伝送での実用化はまだ準備中。ただしシングルレイヤーで、メタデータを元に12bit信号を10bitに再量子化することで、限りなく12bit映像に近いものを伝送するという実験は既に成功しているという。
■国内のドルビービジョン対応コンテンツ制作環境も整備中
なお、ドルビービジョン対応のUltra HD Blu-rayプレーヤーや、ドルビービジョン対応Ultra HD Blu-rayソフトも準備中であることが明かされた。
「ドルビービジョンでは2つのレイヤーを同時デコードしないとならず、4K/60p映像の場合、HEVCデコーダーが2つ必要になる。規格上60pまでサポートすることになっているので、デコーダーを2基搭載せねばならないのが開発のコスト面での負担になる。しかし映画の場合はほとんどが24pなので、デコーダー1基でも2レイヤーを時分割で再生できる。動画配信サイトが先行してドルビービジョン対応できたのはそのためだ。ただ最終的にはメーカーが決めることで、製品がどういうかたちになるかは我々がコメントする立場にない」(真野氏)とした、なお、「ドルビービジョン対応プレーヤーが出ると同時にコンテンツも出るはず」とも語られた。
これまで国内でドルビービジョンのコンテンツ制作はできなかったが、現在イマジカには前述のCMUが既に配備されており、カラーグレーディングサービスを準備中。ソニーPCLもグレーディング環境の準備を進めている。「今後国内コンテンツのドルビービジョン対応も始まるのでは」(真野氏)とのことだ。
「いまは多くのベンダーさんから協力をいただいて対応コンテンツを作っているところ。Netflixは150時間分のコンテンツを年内に用意予定で、ひかりTVも今夏、Amazonも近いうちに国内に対応コンテンツを投入予定」と語る真野氏。ドルビーアトモスと合わせて映画館への導入も推進。シアターに入る前に映画の内容に合わせた映像を表示させるなど、トータルでの体験クオリティを上げる試みを行う。
実際に会場でいくつかドルビービジョン対応コンテンツを視聴することができた。Netflixで配信中のオリジナルドラマ「マルコ・ポーロ」では、人物が身につけている金属のアクセサリーの質感や、服に刺繍された錦糸のきらめきなどがリアル。物の立体感や画面の奥行きが際立つ。
単に画面が明るくなる、色表現が豊かになるということに留まらず、映像全体のリアリティが増すという印象を受けた。今後の更なるコンテンツ/対応機器の登場に期待したい。