[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第100回】“ハイレゾとは何なのか?”− 楽曲制作プロセスからみるハイレゾ考察
▼補間処理を伴うアップサンプリング&ビット拡張
録音 | 編集 | マスタリング | ハイレゾリマスタリング→配信 | ||||
A | 非ハイレゾPCM | → | 非ハイレゾのままエディットやミックス | → | 非ハイレゾのままマスタリング | → | 補間処理を伴うアップサンプリング&ビット拡張技術で処理してリマスタリングして完成 |
一覧表の頭にある「パターンA」だ。非ハイレゾ、多くはCDフォーマット=44.1kHz/16bitのマスター音源を「補間処理を伴う」アップサンプリング&ビット拡張によってハイレゾフォーマットに変換し、ハイレゾ配信用のリマスター音源を作成する。
実際の使用例としてはビクタースタジオの独自技術「K2HD」がよく知られている。というかよく知られているのはほぼそれのみ。他には使われていないのか、類似技術を使っているがそれを公表はしていない場合も多くあるのか、それは僕にはわからない。K2HDの場合はそれによって制作された音源にはそのことが明記されているので、気になる方は気に留めておいてほしい。
さてポイントはもちろん「補間処理」だ。つまり「単なるアップサンプリング&ビット拡張”ではない”」ことが特徴。そのあたりの詳細は本連載の以下の記事を参照してほしい。
【第73回】K2HDのハイレゾは本当にハイレゾか?
http://www.phileweb.com/interview/article/201401/24/218.html
ざっくりいうと、非ハイレゾのマスターに含まれている音声データから、独自のアルゴリズムにて「本来そこに含まれていたであろう倍音成分やダイナミクスを推測してそれを補間」しつつアップサンプリング&ビット拡張を行う。言い換えれば「もしもその録音をハイレゾで行っていたならば?を推測して再現」しようとする。それがK2HD技術だ。
しかし「何であれ当時のマスターに含まれていない音が付加されているなら、それはもう、当時そのときに完成されたマスター音源とは別物」という見識も理解できる。だがそれを言い出すとハイレゾに限らず、リマスター音源全般を否定することにもつながる。まあ実際、強い「これじゃない感」を漂わせるリマスターも多々あるのだが、リマスターには成功例もやはり多々あるので、一概には否定できない。…難しいところだ。
さて何にせよ、もちろん非ハイレゾ録音されている作品の場合、そのあとで何をどうしたところで「ハイレゾ”録音”作品」にはできない。これは動かせない事実だ。しかし最終的なフォーマットはハイレゾであることもまた事実。というわけでここでもまた「ニセレゾ」の疑念を持つ方がいるだろうが、それについてはまとめて後述する。
なおこの技術の主な用途は「CDフォーマットのマスターしか存在しない作品のハイレゾフォーマットでの高音質化」だ。例えば1980年代から2000年代初頭あたりまでに制作された作品だと、当時の機材の制限で非ハイレゾでデジタル録音され、同じく非ハイレゾデジタルマスターしか残っていない場合も多々ある。
具体的には当時は、PCM-3348というマルチトラックデジタルテープレコーダーでの録音、PCM-1630とU-Maticを組み合わせたテープデジタルマスター作成というプロセスが一般的だった。それらは両方ともCDフォーマットの44.1kHz/16bitの制作環境だ。もちろんそれは当時最高水準のデジタル制作環境だったのだが、現在の基準から見れば「非ハイレゾ」ということになってしまう。他にマスターの形式としてはPMCDとかDDPとかもあったとのことだが、いずれにしてもハイレゾなメディアやフォーマットではない。
というわけでそれを「もしもハイレゾで制作されていたらどうなっただろう?」と推測してその音に近付ける。それがK2HDによるハイレゾ化の主な狙いと言える。…といっても実は、今年2014年発売の新作でもCDフォーマット、44.1kHz/16bitのマスターからK2HDでハイレゾ化されている例もあるのだが。
また例が少ないので表には入れていないが、ハイレゾマスターをさらに上位のハイレゾフォーマットに拡張して配信する例もある。例えばくるり「THE PIER」は44.1kHz/24bitマスター音源をK2HDで96kHz/24bitにしたバージョン“も”販売。面白いのはこの作品、K2HDによる96kHz/24bitバージョンだけではなく、44.1kHz/24bitマスター音源そのもの”も”販売している。お値段はどちらも一緒だ。
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