[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第100回】“ハイレゾとは何なのか?”− 楽曲制作プロセスからみるハイレゾ考察
▼PCM録音からアナログ経由でDSDマスタリング
録音 | 編集 | マスタリング | ハイレゾリマスタリング→配信 | ||||
D | 非ハイレゾPCM | → | 非ハイレゾのままエディットやミックス | → | アナログ出力して、アナログアウトボードの活用も含めてDSDでマスタリング | → | DSDからPCMのハイレゾに変換して完成 |
E | → | この場合この行程は不要で前段のDSDマスターで完成 | |||||
K | ハイレゾPCM | → | ハイレゾのままエディットやミックス | → | アナログ出力して、アナログアウトボードの活用も含めてDSDでマスタリング | → | DSDからPCMのハイレゾに変換して完成 |
L | → | この場合この行程は不要で前段のDSDマスターで完成 |
「パターンD」「パターンE」は非ハイレゾPCMから、「パターンK」「パターンL」はハイレゾPCMから、アナログに戻して出力してアナログのアウトボード等で処理してDSDレコーダーに録音してマスターを作成するというパターン。また表からは省略したが、マスタリングではなくミックスの段階でアナログを通してDSDにするパターンもある。
PCMで録音してからアナログで出してDSDに録音し直すというのは、最初から最後までPCMで進めれば最初の1回のA/D変換(アナログ音声信号からデジタル音声データへの変換)で済むところをわざわざ、PCMへのA/D変換→PCMからのD/A変換→DSDへのA/D変換としているわけで、これは前述した「損失の最小化」という観点からすればいかにも無駄が多い。
しかしもちろん、無駄が多いことをあえてやるということは、それによる損失を上回る何かを得られるとの考えが、その手法を採る制作者にはあるということだ。ここではその理由として僕が見聞きし、なるほどと思えた話に僕なりの解釈も加えて、以下のふたつを大きなものとして挙げておこう。
●DSDならではの音質を得るため
●アナログアウトボードとの相性
順に説明していこう。
●DSDならではの音質を得るため
同じ音声を同じマイクやマイクプリやコンプ/リミッター等を通してデジタル録音したとしても、PCMレコーダーで録音・再生した場合とDSDレコーダーで録音・再生した場合では、得られる音調というか感触の傾向が異なるというのは、よく聞く一般的な意見だ。
どちらが良いというわけではないが、どちらが好いと感じるかは人それぞれや作品との相性によって違いが出てくるだろう。よく言われるのは「PCMはクリアでDSDは滑らか」とか「DSDはいわゆるアナログ感が強い」といったような印象。作品にその「感触」がほしい場合には、それはDSDを使う大きな理由になる。極端に言えば、後述する「デジタル録音したものをアナログテープにマスタリングする」パターンと同じような狙いだ。
●アナログアウトボードとの相性
現在の音楽制作環境の主流は、その作業工程の大半をパソコンの中で完結させられる「DAW」システムだ。その代表が「ProTools」であることはいまや、オーディオファンにもよく知られているのではないかと思う。
もちろん、マスタリングに利用されるイコライザーやコンプレッサー等のエフェクト(音質調整ツール)プログラムもそこにあらかじめ内蔵、または後から追加する「プラグイン」として一体化されている。それらを使ってのマスタリングはそのシステムの中でPCMデジタルのままで行うことができるわけだ。
対して「アウトボード」というのは昔ながらの単体ハードウェアとしてのエフェクター。それらは現在も現役で利用されている。例えば、音楽の世界では楽器だけではなく録音機材にも、「ヴィンテージ」や「名機」と呼ばれる特定の機種や、それを復刻あるいは参考にした機種が存在する。前述のプラグインでもそれらヴィンテージをソフトウェアで模して再現した(モデリングとかシミュレートした)製品は多い。つまりそれだけ、現在においても人気があり需要があるのだ。また、ヴィンテージというほど古くなくてもというか普通に最近の製品でも、アナログにこだわって設計・製作されているアウトボードは存在する。
それらのアウトボードは当然アナログ回路で動作しており、アナログ入力しか備えない。それらの本物の音をマスタリングで使いたければ、一度アナログに戻して送り出すしかない。本物でなくてよければプラグインで済ませればよいし、本物でないからといって音が悪いわけではない。プラグインならではのオリジナルと言えるプラグインエフェクトだって存在する。どこにどれをどう使うかは、制作者それぞれの好みや考え方次第だ。
さて何にせよ「アナログのアウトボードを使うためにアナログに戻して出力した」としよう。するとそれをハイレゾ配信するには、また何かしらの形でのハイレゾデジタル化が必要だ。
ここで思い出してほしいのは、「PCMに比べてDSDはいわゆるアナログ感が強い」ということ。わざわざアナログのアウトボードを使うようなエンジニアだ。「じゃあマスタリングの録音メディアもDSDにしよう」と考えるのも自然な流れに思える。僕の想像にすぎないのだが、「PCM録音からアナログアウトボード経由でDSDマスタリング」というパターンが少なからず見られるのは、そういった流れによるものなのかもしれない。
次ページで実例を挙げておこう。といっても、こちらは実はハイレゾ配信は行われていないので、制作プロセスの参考として受け取ってほしい。
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