【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
毎月連載のPhile-web特別企画「Sound Adventure(サウンド・アドベンチャー)」では、オーディオ・ビジュアルエンターテインメントの最前線で活躍される評論家の方々を「ナビゲーター」に迎え、いま最も注目を浴びるデジタルエンターテインメントのスタイルを徹底探求します。最新オーディオ・ビジュアル製品のレビューやハンドリングレポートも毎回紹介して行きます。
【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム

奥深いストーリーに、繊細な作画、そして大胆な演出など、日本のアニメーション作品のレベルの高さには世界中から注目が集まっている。日本のアニメーション作品の魅力を余すことなく味わいつくすなら“音”にも気を配るのが、最近のトレンドになりつつある。今回はリアスピーカーを使わなくても迫力のあるサラウンド再生を実現する、ボーズのフロントサラウンドシステム「3・2・1 GSX」を使って、“音”も楽しめる最新アニメーション作品『リーンの翼』を視聴する。本タイトルの製作スタッフとして、音響監督を勤める若林和弘音響監督と作品の魅力を知り尽くす河口佳高プロデュサーのお二人にその実力を吟味していただいた。果たして最新のフロントサラウンドシステムはプロの耳を満足させられるのだろうか?

若林和弘氏/『リーンの翼』音響監督
アニメーションの「音響」の演出・制作を手がける。(株)オムニバスプロモーションにて音響の演出を学び、その後フリーランスを経て平成16年5月7日より(有)フォニシアを設立。その経歴は『攻殻機動隊隊GOHST IN THE SHELL』(押井守監督作品)や『ハウルの動く城』(宮崎駿監督作品)などがあり、大作には欠かせない存在。愛知万博共同館の押井守演出作品『夢見る山』でも音響監督を担当した。AV機器専門店の販売員としての経験があり、ホームシアターを含むオーディオ機器への造詣も深い
河口佳高氏/『リーンの翼』プロデューサー
(株)サンライズに入社後、設定制作、制作デスクを経て、劇場版『∀(ターンエー)ガンダム』〜「I.地球光」「II.月光蝶」(2002)でプロデューサーに。以降、『オーバーマン キングゲイナー』(2002)、『プラネテス(2003)』など作品を経て、現在は『リーンの翼』(2005)を担当。TBS系列で放送中の『コードギアス 反逆のルルーシュ(http://www.geass.jp/index.html)』(2006)のプロデュースにも活躍する。
訊き手:鈴木桂水氏/オーディオ・ビジュアルライター
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ!ケースイのAV機器<極限>酷使生活」、徳間書店「GoodsPress」など、AV機器を使いこなすコラムを執筆中。

鈴木氏(以下:敬称略) 若林さんのお仕事である「音響監督」とは、作品づくりにおいてどの部分をご担当される役割なのでしょうか。

若林氏(以下:敬称略) 音響監督の仕事は人によって様々なスタイルがあるので、皆が同じとは限りません。ですから“私の場合は”ということでお話しします。音響監督は作品の音に関するすべてを管理する仕事です。キャスティング、声優の演出、効果音の選定、BGMの選曲などを監督やプロデューサーと相談しながら行います。

そのほかに次々と世の中に登場するサラウンドシステムを理解して、作品ごとに効果的な音の使い方を考えます。しかしながら、5.1chサラウンドを扱うノウハウが蓄積した頃には、もう7.1chが追いかけてきているのが現状です。その進化のスピードに追い越されないように技術的な部分を抑えるだけでも大変です。

鈴木 河口さんのプロデューサーというお仕事について伺わせてください。

河口氏(以下:敬称略) プロデューサーの仕事は作品の監督、音響監督をサポートして制作全体のとりまとめを行う立場です。企画の立ち上げから、キャスティング、アフレコなど直接作品に関わる作業から、プロモーションやDVDなどの販売戦略まで、作品が完成し巣立った後も見守るのが役目です。


〜〜アニメは実写の映画と違い、作品全体を見渡す「監督」と声優陣のアフレコやBGM、効果音などを管理、演出する「音響監督」が存在する。言わば音響監督は「音の全責任者」という立場。製作会社にもよるが、音響監督は録音スタジオの使用料などのコスト管理から、声優のキャスティング、演技指導、効果音の選定、BGMや挿入曲の決定などを、監督、プロデューサーとともに決定する重要な役割だ。実際の録音スタジオでは音響監督がリーダーとなり、アフレコを行うことが多く、監督やプロデューサーは立ち会う程度という場合も多い。

河口氏は、本作『リーンの翼』監督である富野由悠季氏と一緒に企画から参加し、制作費、スタッフの選定などから販売の責任まで関わる、いわば作品の「育ての親」とも言える存在。今回は自分たちが磨き上げた作品がボーズの「3・2・1 GSX」によって、どのように再生されるのかをお二人に厳しくチェックしていただくことにした。

 
『リーンの翼』というタイトルを耳にして「ピン」と来たアニメ好きの方もいるのではないだろうか。実は1983年に富野監督自身が書き下ろした同名の小説があった。前作の『聖戦士ダンバイン』の舞台にもなった、海と陸の狭間にあるという富野氏発案のファンタジー空間「バイストン・ウェル」にて、人の思念や生体エネルギーで動くオーラバトラー(戦闘用ロボット)や戦艦が縦横無尽に駆けめぐる。

小説版は第二次世界大戦当時が舞台となり、主人公である日本海軍の特攻隊員、迫水真次郎が異空間バイストン・ウェルへ召還され、混沌とした世界を自らの精神力とオーラ力(ちから)によって天下を取るという、言わば立身出世の戦記物のような話だ。その痛快なストーリーは、読む者の心を掴み離さなかったが、現在は残念ながら絶版になっている。

今回のアニメーション版『リーンの翼』は小説版の70年後が舞台だ。小説版の主人公サコミズ(迫水)が天下を取ったバイストン・ウエルから、数隻のオーラシップ(戦艦)が地上に現われる。そして大学浪人中のフリーターである主人公エイサップ・鈴木を巻き込み、バイストン・ウエルと地上を巻き込んだ壮大な物語が繰り広げられる。

ネット配信はバンダイチャンネル(http://www.b-ch.com/)にて最終話6話まで配信中。DVD版も全6巻が順次発売される予定だ。

 

リーンの翼 <1〜4巻発売中>
第4巻/¥6,090(税込)
2006年10月26日発売


【SPEC】カラー/約24分/ドルビーデジタル(5.1ch)/片面1層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ
>>『リーンの翼』公式ホームページ

第1巻〜3巻も好評発売中。全6巻シリーズのDVD情報はこちら
>>『リーンの翼』DVD作品情報


鈴木 視聴を開始する前に、今回お持ち頂いた作品『リーンの翼』について教えてください。

河口 本作は当社サンライズ初の「ネット配信先行アニメ」として制作された作品です。いままでバンダイチャンネルの協力を得て、「機動戦士ガンダム」や「装甲騎兵ボトムズ」など、過去の名作をネット配信していたのですが、これが好評だったので、今回は新作をネット配信しようという事になりました。せっかく新しい試みをするなら、話題性のある作品で行こう、ということになり、“機動戦士ガンダム”の監督でもある富野由悠季さんの作品を制作しようという事になりました。

鈴木 今回はDVD版での視聴になります。音声の仕様について、ネット配信ではステレオでしたがDVD版の音声はドルビーデジタル5.1chになっていますね。

若林 少し前のアニメ作品は2chステレオが主流でしたが、ここ数年でアニメを取り巻く環境も様変わりしています。まずテレビのデジタル放送化が進んできた事を考えると、将来デジタル放送で流すことを見越した上で、最近は5.1chサラウンドで作品を作りたいと心がけています。また海外への輸出も増えているので、世界市場で受け入れてもらうためにも最新の音響方式に対応しておくべきだと考えています。『リーンの翼』は出演者が多く、それぞれセリフが長い。そしてオーラバトラーや戦闘機など兵器も盛りだくさんです。それだけ音が詰まっているので5.1chで再生すると迫力がありますよ。

河口 若林さんがおっしゃるように、サンライズの作品でもDVD版はドルビーデジタル5.1chに対応したDVDが増えています。『リーンの翼』もネット配信用に制作している時から、セルDVDでの5.1chサラウンド化を見越して制作していました。この作品は映像のクオリティも高いので、サラウンドで見ると、ちょうど映像と音のバランスが取れていいと思います。

鈴木 “アニメも音を楽しむ”という時代が来ているということでしょうか。確かに日本のアニメが世界に輸出されるということは、各国のDVDショップでハリウッド作品と肩を並べて売られるわけですから、映像だけでなく音声のクオリティも要求されるわけですね。

若林 そうですね。ただ日本の住宅事情を考えると、5.1chサラウンドのシステムを部屋の中に配置して、作品を楽しめる人はまだ少ないのかなと思います。

 

〜〜今回の取材を行った時点で、『リーンの翼』のDVDは全6巻のうち、3巻までが発売されていた。今回、若林氏に“聴きどころ”となるシーンを収録したディスクをセレクトしていただいたところ「音がギッシリ詰まっている」ということで1巻をリファレンスに選ぶことになった。1巻はふんだんな戦闘シーンだけでなく、富野作品の持ち味でもある「キャラクターたちによる、世界観を語る長尺のセリフ」を、存分に楽しめる1本だ


鈴木 第1巻全体を通して再生してみましたが、皆さんの印象はいかがでしょうか。

ボーズのホームシアター視聴室にて。作品『リーンの翼』の音響監督である若林氏に、「3・2・1 GSX」で再生したサウンドを体験したいただいた

若林 ボーズのシステムらしい、中高音のハッキリとした音がしますね。音がシャープなので、セリフがとても分りやすく聴こえます。クオリティに関してどうかと聞かれれば、何を基準にするかによって印象は変わってくると思います。私たちが日頃、再生に使っているのはTHX方式に準拠して設計された試聴室です。その環境と比べれば違いがあるのは当然だと思います。そのような環境と比べると高音と低音に少し物足りなさを感じます。ただこの小さなスピーカーとベースモジュールで、これだけの音を楽しめるなら充分満足できます。小さなスピーカーから驚くほど迫力のある音を鳴らす、ボーズらしいシステムだと感じました。

鈴木 サラウンド感はどうでしょうか?オススメのシーンなど。

バイストン・ウェルより現れたオーラシップと地上軍との戦闘シーン。戦闘機の移動感と迫力たっぷりの重低音も楽しめる、サラウンドの聴きどころの一つだ

若林 第1巻の「チャプター3」の戦闘シーンは、後方からのサラウンド音が多く収録されていますので、そこでチェックしてみました。

爆発音や遠くから飛んでくる戦闘機など、スピーカーを置いた位置よりも広い範囲から聴こえてきます。フロントに置いた2つのスピーカーよりも広がった場所から音を感じるということは、サラウンドの効果は十分に再現されているということです。斜め後ろから爆発音がしますが、後方からの音も録音時に設定した場所近くから聴こえてきます。


〜〜5.1ch
のサラウンド効果についても音響監督の手腕によるものだ。若林氏の場合は「作品に集中してほしい」と考え、背面の音は臨場感を持たせつつも、出しゃばらないように録音している。その雰囲気を見事に再現したようだ。

戦闘シーンの効果音にBGM、キャストのセリフなどが重なる「音数」の多いシーンも3・2・1 GSXは上手に表現してみせた

鈴木 ただ今聴いていただいた感じからは、高音と低音が少し物足りないとの事ですが、製品本体のイコライザー機能を使えば、サウンドの補正が可能です。

若林 今のはデフォルトでの再生だったんですね。では少し調整してみましょう。確かに調整すると音に厚みがでて、イメージしている音に近づきますね。低音を発するベースモジュールを壁際に置くと、より低音に迫力が増すと思います。


〜〜3・2・1 GSXのサウンドは、筆者としては満足できる範囲に入っているが、若林氏の耳はさらに上を目指し、細かなイコライザーの設定を追い込んでいった。その表情からは、若林氏の作品に対する愛情が伝わってくる。

主人公のエイサップ・鈴木とリュクス・サコミズが空を翔けるシーン。第1巻のクライマックスとなる舞台を臨場感溢れるサラウンドが盛り上げる

若林 最近は簡単な製品がありがたがられる風潮がありますね。それはそれで否定をするつもりはありませんが、一方で私たちの世代は趣味に手間をかけてきた世代です。オーディオなどについても「買ってきて終わり」、ということはなかったですね。何か自分なりの一工夫を加えて楽しもうとするのが楽しいんですよ。3・2・1 GSXも操作は簡単だけど、使う側が設置場所などに少し気を配るだけで、再生する音が大きく変わってきましたね。システムはコンパクトだけど、それだけのポテンシャルが備わっているということでしょう。



最近はコンパクトなシステム構成によるフロントサラウンドシステムも数多く登場してきたが、実際に音を聴いてみるとその効果にがっかりする製品も多い。しかしながら、今回試聴した3・2・1 GSXは最小限の設置面積で、音にこだわるアニメ『リーンの翼』を見事なサラウンドで再生しきった。

アニメファンでもある筆者としては、3・2・1 GSXのコンパクトさにこそ注目したいと思う。というのもファンにとって、テレビ周りは聖域だ。テレビの回りのスペースはお気に入りのフィギュアやDVD、そしてゲーム機が占有しているはずだ。まさにアニメに関する物以外は置きたくないというのがファンの心境だろう。コンパクトな3・2・1 GSXなら、テレビの周囲にスピーカーを設置しても決して邪魔とは感じないのではないだろうか。テレビの周りを少しだけ片付けて3・2・1 GSXを置けば、お気に入りのアニメのサウンドがグッと迫力を増すこと請け合いだ。

 
【今回試聴したシステム】
BOSE
フロントサラウンドシステム
3・2・1 GSX
¥241,500(税込)

>>ボーズの製品紹介ページ
>>製品データベースで調べる
 
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