システムオーディオ全盛期にも希有な存在だった「一体型システム」
岩井氏(以下
敬称略):大橋さんはどんなシステムでオーディオを始めたのでしょうか。また初めてWestBoroughを目の当たりにした時の印象をお聞かせいただけますか。
大橋氏(以下 敬称略):最初は家にあった父のステレオで音楽を聴いていたのですが、やがて自分の部屋にステレオが欲しくなってきました。当時は折しもオーディオコンポーネントが急成長した時代でしたので、高校生になった時に自分専用のオーディオをセパレートコンポをそれぞれ揃えるかたちで手に入れました。いま考えれば、当時ボーズのWestBoroughのような一体型のシステムコンポが存在していれば、そちらを選んだのではないでしょうか。
岩井:それはなぜですか?
大橋:私は当時オーディオシステムにかける投資はなるべく安く抑え、余ったお金でたくさんソフトを買った方が良いだろうと考えていました。私が音楽を熱心に聴き始めた当時は、海外のタレントが続々と来日するようになっていましたので、「もっとたくさんのレコードを買って、コンサートやライブにも行きたい」という思いが強かったんです。ボーズのWestBoroughは手頃な価格で購入でき、一台でたくさんのソースが楽しめて、しかもデザインやスペース性能も良い。こういう製品があるということは今の時代の音楽ファンは非常に幸せなことだと思います。岩井さんがオーディオに出会ったきっかけはどのようなものだったのですか。
岩井:私がオーディオに興味を持ち始めた中高生の頃は、ちょうどバブル期の終わり頃でした。オーディオ機器としての単品コンポーネントが選択肢に入らなくなってきたのはちょうど私たちの世代からではないでしょうか。私の場合は好きな音楽を良い音で聴きたいという願望が強くあったので、父の持っていたオーディオの外部入力にCDラジカセをつないでみることから始めて、徐々に単品コンポの安価なものからセットを揃えて行きました。当時はいわゆるミニコンのような一体型の製品も10万円以上の高価なものしかない時代だったので、初めてWestBoroughを目の当たりにした時は強く興味を持ちました。プレーヤーからスピーカーまで単独ブランドで開発された“トータルサウンドシステム”という構成は当時も斬新でしたので。
大橋:ミニコンポの上位クラスとして登場した、大人向けのいわゆる“ハイコンポ”が全盛を迎えた時代にも、一体型タイプのシステムは数少なかったのではないでしょうか。
岩井:そうですね。WestBoroughはマルチな再生能力を備えていて、好きな音楽や聴きたい音楽との相性を心配せずに楽しめる安心感を感じました。デザインの魅力やブランドの知名度の高さも魅力的だったと思います。
大橋:欧州系のブランドで一体型サウンドシステムを手がけるブランドも幾つかありますが、それらの製品はどちらかと言えば“音楽を選ぶタイプ”だと思います。ところがWestBoroughは様々なジャンルの音楽再生に対応する、マルチな再生能力を備えたシステムであると私も感じています。
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▲センターユニット「PLS-1610」のフロントパネル。本体正面に外部入力端子を設けている(写真は拡大します) |
▲センターユニットのリアパネル。映像出力の他に、フォノイコライザーも搭載する(写真は拡大します) |
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▲WBS-1EXIVのセットを構成するコンパクトスピーカーシステム「125」(写真は拡大します) |
▲今世代から新たに通常のリモコンに加え、簡単リモコンも付属する(写真は拡大します) |
WestBoroughが“聴かせ上手”であると言える「2つのポイント」
岩井:大人向けのシステムオーディオが初めて登場してきた、当時の時代背景はどのようなものだったのでしょうか。
大橋:CDが人々のリスニングソースとして中心にり、直径12cmのサイズが「ラジカセ」や「ポータブルCDプレーヤー」など様々なかたちのゼネラルオーディオを生み出してきました。1992年にボーズからWestBoroughが誕生した時代は、セットステレオのバリエーションとして「システムコンポ」があって、それをさらに小型化したミニコンポがありました。当時ミニコンポは中学・高校生が楽しむオーディオの入門編としてたいへん好評を博していましたが、やがて少子化も始まり、市場が徐々に小規模化してきました。それをカバーするように、システムコンポをさらにダウンサイジングした大人向けの“ハイコンポ”というものが出てきました。
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▲プレーヤー部とアンプ部を一体化。スピーカーも自社ブランドで統一させ、“入口から出口まで”をトータル設計するメリットを活かした点もシリーズの特徴だ(写真は拡大します) |
ハイコンポは単体コンポと同じくチューナー搭載のプレーヤーがあり、アンプとスピーカーによるセパレート構成を採っていましたが、“オーディオメーカーが考える所の合理化”が進んだ結果、セットシステムのコンポーネントがみな同じデザインになってしまい、それをつまらないと評価するユーザーの声も一方ではありました。WestBoroughが斬新だった点は、プレーヤー・チューナー部とアンプを一つの筐体にまとめ、スピーカーとの2つのエレメントに凝縮し、新機軸による合理化を実現した点にあります。
岩井:WestBoroughシリーズのサウンド面での特徴はどんなところにあると大橋さんは考えていらっしゃいますか。
大橋:一つにはやはり“聴かせ上手”であることだと思います。ここでイギリスという国の音楽文化を例に挙げてみたいのですが、イギリスには「大作曲家」と呼べる巨匠はそれほどいませんが、音楽を演奏し、産業化し、オーディオ機器やレコードをつくる才能に長けたクリエーターが大勢いると私は考えます。イギリスの音楽文化の特性は“聴かせ上手”であり、そういう人たちの感性に訴えるコンポーネントが幾つものブランドからつくられてきました。20世紀前半のイギリスの音楽文化には“厚み”というものがあったのです。イギリスのオーディオは確かに“聴かせ上手”ではありますが、一方でザ・ローリング・ストーンズのようなワイルドな音楽を聴くとやはりイマイチな感じを受けます。現代音楽市場の中心はアメリカに移りました。音楽が大衆と密着しているアメリカには“聴き上手な国民”のための、“聴かせ上手なオーディオ”による独自の音楽文化が生まれ、成熟しつつあります。情報文化の発達により、ジャンルに捕らわれず様々な音楽を楽しむ方が増えていますが、ボーズのWestBoroughはどんなジャンルの音楽でもポイントをきちんと認識し、オールマイティに鳴らすことのできる“聴かせ上手”なシステムであると思います。
岩井:ボーズは業務用のオーディオも手がけていますが、どんな環境に設置しても安心感の高い“ボーズサウンド”が楽しめる点も製品の魅力だと私は感じています。
大橋:おっしゃる通りだと思います。その製品を使うユーザーの環境を初めから考慮に入れている点もボーズの特長だと言えます。それはボーズが世界の様々な地域で業務用を含む多彩なオーディオを展開してきた蓄積があるからなのだと思います。どんな環境でも最高のパフォーマンスが発揮できる“聴かせ上手”なハードウェアであることも重要な要素の一つであると言えます。
自分の部屋に長く置いておきたくなるデザインであることが大事
大橋:岩井さんの世代はWestBoroughシリーズのデザインを見てどのように感じますか?
岩井:私たちの世代ではスピーカー「101MM」のヒットもあり、“オーディオのボーズ”というイメージが強くあります。WestBoroughシリーズについても、ウッド調の高級感のあるデザインも魅力的ですし、自分の部屋に長く置いておきたくなる満足感が得られるものと感じます。私たちの世代はオーディオにかけるお金についてはシビアな方が多いと思いますので、部屋に置いてみて古臭く感じてしまうデザインではきっとダメだと思います。WestBoroughの一体型構成も手軽に設置できる大きなメリットとして高く評価できると思います。
大橋:より多くの若い方が今の生活にオーディオシステムを導入する可能性については、岩井さんは何がポイントになると考えますか。
岩井:まずはその人が音楽に興味を持っていることが大事ですが、やはりWestBoroughのように魅力的なシステムとの出会う場所、音が体験できる機会がもっと増えれば良いと思います。“オーディオは高価だ”という先入観を持っている若い方もいると思いますが、良いコンテンツと同じくらいに、クオリティの高いシステムを持つことの価値が伝わって行けば、若い人たちの生活に自然とオーディオシステムが浸透していくのではないかと思います。
“大人の音楽ファン”が求めるのはオールマイティな再生能力
岩井:最近は団塊世代の方々を中心に“オーディオブームの復興”が訪れていると言われています。かつてセットシステムを手がけてきたオーディオブランドからも、昨年頃から新製品が次々に発表されていますが、なぜ今オーディオブームが復活しつつあるのでしょうか。
大橋:振り返ればこの10数年間はホームシアターなど「映像付きオーディオ」が主体になって市場を引っ張ってきました。薄型大画面テレビや100インチを超えるスクリーンで楽しむオーディオの迫力は格別なのですが、一方では映像と音がかけ算になった時の情報量はとてつもなく大きなものになって行きます。それが許容量を超えた時、私たちにどんな選択肢があるかといえば、「時には映像を拒否する時間を持つ」ことだと思います。映像をOFFにして、情報量を制限することで音だけの世界をつくりだす。人間の中に眠っていたイマジネーションの感覚が目覚めてくる。見えない物を見ること、想像力で見ることに新たな快感が発見されて行くのです。このことに多くの方が気が付き始めたいま、オーディオブームの復興という現象が起こりつつあるのではないかと私は思います。
岩井:そのようなオーディオブームの復活が起こる中で、“大人のためのコンポーネント”に必要な要素は何であると大橋さんは考えますか。
大橋:“大人が楽しむ音楽”を考える際に、静かでメロウな成熟した音楽を思い描くことも一つの考え方ですが、一方でより多くの“大人のリスナー”を掴むのであれば、彼らが築き上げてきた「音楽の履歴」にも気を配る必要があると私は思います。例えば「最初はビートルズ、次にプログレ、やがてモダンジャズ、クラシックへと展開してきた」といったかたちで、その人なりの音楽遍歴を経てきた年代の方は、いざ質の高いコンポーネントを手に入れた時には過去のアーカイブを全て遡って聴きたいと思うはずです。その時には、あるカテゴリーに特化した音作りではなく、オールマイティな再生能力を持つシステムであることが求められてきます。その人の音楽経験の厚みを奏でてくれるようなシステムであってほしい。現代の音楽産業の中心であるアメリカから生まれたWestBoroughは「リスナーと音楽」、あるいは「生活と音楽」の結び付きに気を配りつつ、オールマイティな再生能力を大切にしてきたシステムであると、そのサウンドを聴く度に感じます。
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