【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
毎月連載のPhile-web特別企画「Sound Adventure(サウンド・アドベンチャー)」では、オーディオ・ビジュアルエンターテインメントの最前線で活躍される評論家の方々を「ナビゲーター」に迎え、いま最も注目を浴びるデジタルエンターテインメントのスタイルを徹底探求します。最新オーディオ・ビジュアル製品のレビューやハンドリングレポートも毎回紹介して行きます。
【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム

ボーズの“マルチメディアスピーカー”として新たに発売された「Companion 3 Series II」が話題を集めている。今回はプロのレコーディング・エンジニアである道添“Mc”信之氏と、オーディオライターの岩井喬氏に本機のサウンドを体験してもらった。また、同じくボーズのヒットモデルである「Micro Music Monitor(M3)」と聴き比べながら、それぞれのスピーカーの上手な使いこなし方を検証する。


レコーディング・エンジニアの仕事が具体的にどのようなものなのか、よくわからないという方も多いだろう。その内容は大きく2つに分けられる。一般的なレコーディングの手順としては、はじめにバンドサウンドを楽器ごと個別のトラックにレコーダーへ記録するレコーディングを行う。収録するトラック数は、ハードディスク・レコーディングが主流になってきた現在では40以上に上る場合が多い。録音の段階でステレオバランスを組むことも可能であるが、その後、多くの場合は一つ一つの素材として記録したものを、じっくりと時間をかけてステレオの素材にまとめ上げるミックスダウンという工程を踏む。

今回はボーズの試聴室にて、新製品マルチメディアスピーカー「Companion 3-II」と、パワードスピーカー「Micro Music Monitor(M3)」のサウンドを体験した
最近はPCに保存した音楽コンテンツを、iPodなどのポータブルプレーヤで持ち出して聴くというスタイルが定着したように思われるが、一方でより良い音質でお気に入りのアーティストの音楽を聴いてみたいと思ったことはないだろうか。例えばロック・ポップス系の音楽を高品位な再生機器で楽しむと、普段音楽を聴いている部屋がライブのステージに早変わりし、ボーカルの口元の動きまでもが見えてくるような、これまでに味わったことのない音楽体験が得られるとしたらどうだろうか。お気に入りの曲がさらに魅力的に感じられるようになるはずだ。今回試聴する機会を得たボーズの「Companion 3-II」と「M3」は、デスクトップに気軽に置けるコンパクト・サイズながら、ピュアオーディオにも匹敵する音質を持つモデルとして評判が高い。サイズ的、価格的にも近く感じられるこの2機種を聴き比べると、それぞれにどういった特徴が見えてくるのだろうか。

今回は音楽制作の現場で活躍するレコーディング・エンジニアである道添信之氏を招いて、プロの耳での判断も交えて、両モデルの魅力を一緒に探ってみようと思う。道添氏はストリングスも含めた大編成のステレオ録音から、ハードディスク・レコーディングまでありとあらゆる録音技術に精通されている、若手では数少ない実力派エンジニアである。キング・レコードに在籍されていた90年代にはアニメーションの大ヒット作品『エヴァンゲリオン』のサウンドを支えたキーマンであり、独立後もロック・ポップスをはじめ、ジャズ、クラシック、民族音楽まで幅広い音楽ジャンルでのレコーディングに携わっている。私が道添氏と出会ったのは、かつて在籍したスタジオであり、当時レコーディング技術に関する基礎を授かった私の大先輩である。


■エンジニアとしてリスナーが聴きやすい作品をつくりたい

岩井氏(以下敬称略):道添さんにとって、特別に好きな音楽のジャンルはありますか。

道添氏(以下敬称略):一人の音楽好きとしては、普段からロック・ポップス、クラシック、ジャズまで幅広いジャンルの音楽を聴いています。作品についても海外から国内、古いものから新しいものまで問わず聴くほうですね。レコーディング・エンジニアとしては、自身ボーカルの録音にこだわりを持っていますので、特に女性ボーカルものの作品を聴く時には、どんな録音なのかを気にかけて聴いています。


道添”Mc”信之
レコーディング・エンジニア

キング・レコードの録音部に在籍し、ロック・ポップス系から劇作品のサウンドトラックまで、幅広い作品に関わりながらレコーディング・エンジニアとして活躍。同社を退社後は、米ニューヨークでの修行を経験し、帰国後に独立。現在はフリーランスのレコーディング・エンジニアとして、国内のロック・ポップス系作品をはじめとした、数多くの注目作品を手がけている。

>>道添”Mc”信之氏のホームページ

岩井:レコーディングの技術については、その始まりから今日までに大きく変化してきたと思いますが、最近のレコーディング技術の傾向を道添さんはどのように考えていますか。

道添:業界ではここ数年の間に急速にハードディスク・レコーディングが普及してきました。これと同時に従来のテープ・レコーダーによるアナログスタイルの録音が少なくなってきています。ハードディスク・レコーダーを使ったデジタル録音が、今や主流になりつつあるようです。ハードディスク録音を導入することのメリットは、録音のコストが下げられることと、後からの修正が迅速かつ正確に行えることです。また、ハードディスク・レコーダーをアレンジャーやエンジニアが個人で導入できるようになって、スタジオを使わずに自宅で録音作業を行う方も増えてきたようです。音楽編集ソフトの「Pro Tools」が普及したことも、デジタルレコーディングの普及を一気に加速させました。

今ではハードディスク・レコーダーのシステムも進化してきたので、音質的にはまったく問題ありません。ただ、一般の方々は「デジタルの方が録音が良い」と思われているかもしれませんが、これは必ずしもそうではありません。アナログのレコーディングにも音質の良い作品があって、独自の味わいがあります。また、アナログだからこそエンジニアのこだわりが盛り込める部分があります。今後、レコーディングの現場からアナログテープでの録音がなくなることは有り得ないと思います。

岩井:道添さんがレコーディングを行う際に、環境的にこだわっていることはありますか。

道添:フリーのエンジニアとして働いていると、方々のスタジオに足を運んでの作業が多くなります。私の場合は「そのスタジオにある機材でベストを尽くす」ことをモットーとしています。ただ、モニター・スピーカーにはこだわっていて、いつも“マイ・スピーカー”であるGenelecの2ウェイ・アクティブスピーカー「1031A」をスタジオに持ち込んでいます。スタジオが変われば、同じスピーカーでもコンソールやアンプなどの周辺機材によって聴こえ方も変わります。アンプ内蔵のスピーカーを使っている理由については、なるべく自分のリファレンスになる環境に近づけたいからです。このスピーカーのダイナミック・レンジが広いところや、低域全体の感触など、サウンドのキャラクターも気に入っているので、独立してからも10年近く愛用しています。

岩井:レコーディング作業についてのこだわりはどんなところでしょうか。

道添:レコーディングの現場では、とにかくアーティストの一番良い部分を引き出してあげることを大事に考えています。リスナーの方々に対しては、やはり出来上がったCDを“聴きやすい”ものにしてお届けできるよう心がけています。エンジニアの仕事には大まかに言って、アーティストの演奏をレコーディングする作業と、出来上がった個々の素材を2chにまとめるトラックダウン(ミックスダウン)の作業があります。この過程の中で、リバーブやコンプレッサーかけたりしながら、音を整えて行くわけですが、私の場合はダイナミクスとレンジ感をつくり出すことを、特に大事にしています。

岩井:今回お持ち頂いたリファレンスディスクの内容を紹介していただけますか。

道添:1曲目はクインシー・ジョーンズの『The Places You Find Love』("Back on the Block"収録)です。この曲は愛用するGenelecのスピーカー1031Aを買う時のリファレンスにしていたもので、今でもよく確認用に聴いているタイトルです。2曲目はポーラ・アブドゥルの『Crazy Cool』("Head Over Heels"収録)で、こちらも長年のリファレンスです。この曲はマスタリングが素晴らしく、しっかりとした低音をモニターするのに適切なソースと考えています。

3曲目はジョン・メレンキャンプの『Someday』("Freedom's Road"収録)というタイトルです。これは私の推測なんですが、恐らく全編アナログ録音による作品で、太く、がっちりとした、アナログ録音ならではのサウンドが特長です。反対に4曲目のクリスティーナ・アギレラ『Makes Me Wanna Pray』("Back to Basic"収録)は、最先端のデジタル・レコーディングによって制作されたサウンドを確認するためのリファレンスです。

5曲目以降は私自身がエンジニアリングに関わった作品です。はじめに5曲目のジェシー『Wonderland』("Jessy's Wonderland"収録)は、ボーカルの録音とミキシングを担当した作品で、今回は女性ボーカルとコーラスのダイナミクスを確認するために持ってきました。6曲目の鈴木真仁『You're Mine』("ふつう" 収録)はリミックスを担当した作品で、当時ディレクターから「リミックスなので好きにつくって良い」という条件をいただき、リズムを前面に出しながらボーカルをオケの中に埋め込むという、音像定位に工夫を凝らした作品です。7曲目の本宮麻衣香『いろは詩』はボーカルのプロデュースで参加した作品で、今回は彼女の声質の再現を確かめたいと思い選曲しました。最後に8曲目『Caravan』("HAVATAMPA"収録)は、今回インタビューをしていただいている岩井さんと一緒にレコーディングした作品で、ビックバンド編成のラテン・ジャズの作品です。楽器全体のダイナミクスを確認するために持ってきました。


■エンジニアの意図したサウンドが伝わってくるスピーカーだ


岩井:はじめにM3を聴いた感想はいかがですか。

道添:まずこの小柄なサイズに驚きましたが、これだけパワーのあるサウンドが再現できることに2度驚きますね。今回持ってきたロック・ポップス系タイトルを再生した感触としては、私がポイントに置いているダイナミクス・レンジについても高い表現力を持っているようです。高域から中・低域まで、いずれの帯域にも伸びがあり、空間表現にも長けています。 1曲目、2曲目を聴いた感触としては、自分の持っているGenelecで聴いたイメージにほぼ近く、レコーディング・エンジニアが意図した部分が忠実に再現されていると感じました。

岩井:私も自宅に環境を整えてレコーディングの仕事も行っていますが、コンパクトな筐体なのでレコーディング・ルームの限られたスペースに手軽に置くことができそうです。自宅でハードディスク・レコーディングを行っているエンジニアは重宝するのではないでしょうか。自然で、余分な色付けのないサウンドはモニタリング的にも魅力が高いですね。

道添:エンジニアリングの段階では、リスナーの方々が聴いて“良い”と思ってもらえるレベルに持っていくことに力を傾けます。M3は一般リスナーの方々だけでなく、プロの現場でも評判の高いスピーカーということですので、作り手もリスナーの再生環境をイメージしながら作品づくりができるのではないでしょうか。

岩井:続いてCompanion 3-IIを試聴された感触はいかがでしょうか。

道添:自分が関わった作品も含めて、ボーカルの再現力がポイントとなる作品を一通り聴かせてもらいました。M3と並んで、本機も非常に高い再生能力を持っていることがわかります。またM3同様に筐体サイズがコンパクトな点も、使い勝手の幅を広げてくれそうですね。

1曲目、2曲目、4曲目ではボーカルの再現もさることながら、低域のサウンドがとても巧みに表現されています。5曲目の『Wonderland』は曲の構成がかっちりとしていて、“Aメロ−Bメロ−サビ”の間で、ボーカルやコーラスの流れが途切れないよう、録音にも大変気を使った作品です。本機での再生は、私の狙い通りにきれいなボーカル、コーラスパートの流れを味わうことができました。7曲目『いろは詩』も、ボーカリスト本宮麻衣香の声質が正確に再現されていて、サウンドの定位も狙い通りです。スピーカーから再生される音質にも変なキャラクターが添加されていないので、とても聴きやすく感じました。

岩井:こちらのモデルではベースモジュールが別筐体になっているので、低域の豊かな量感を作り出せる点も大きな特徴だと感じました。最近の若いオーディオファンの方々が主に楽しまれるような、ロック・ポップス系サウンドにもベストマッチするのではないでしょうか。


■オーディオ・ビジュアルを楽しむ生活シーンを広げるスピーカーだ

道添
:それぞれの特徴としては、M3がプロの現場に携わる方々やオーディオリスナーに最適なスピーカーとするならば、Companion 3-IIは家庭内の様々な場所で、多用途に楽しめるスピーカーであると言えるのではないでしょうか。Companion 3-IIは、例えば8畳くらいの広さの部屋ならば、余裕を持ってメインの音楽再生システムとしてパフォーマンスを発揮できると思います。今はやりの薄型テレビと組み合わせれば、2.1chのシアターシステムとしても楽しめそうですね。

岩井:デスクトップ環境をはじめとするニアフィールドでのリスニングにも良さそうですが、道添さんのおっしゃるように8畳からのミドルサイズのスペースで聴くのにも適していると思います。ベースモジュールを含め、コンパクトに設置ができるので、家の中の各所に移動させて使えるし、スピーカーのレイアウトを変えても音の変化が少なく、安心して聴けます。iPodと組み合わせて使うのにも良いのではないでしょうか。

道添:ウーファーにもパワーがあるので、リスニングポイントからある程度離れていてもしっかりとした、バランスの良いサウンドが楽しめます。薄型テレビのスピーカーが物足りない場合などにも、最適な組み合わせとして使えると思います。

岩井:両方のスピーカーを比較してみると、M3は率直に言って私の好みの音を再現するスピーカーと感じました。レンジ感が広く、色付けのないサウンドはレコーディングでも真価を発揮してくれると思います。それでいてモニター然としていないところも、本機の大きな魅力です。

一方で用途の広さでは何と言ってもCompanion 3-IIではないでしょうか。オーディオシステムとしての完成度が高く、幅広い用途に活躍してくれそうなスピーカーです。最近はCDを買う人も少なくなってきたと言われていますが、余計な味付けをせずに作品の魅力を素直に引き出してくれて、かつオーディオ的にもレベルの高い本機のようなスピーカーが、新しい音楽の楽しみ方を提供してくれるような気がしています。

道添:それぞれにポータビリティが高いことも大きな魅力です。オーディオ・ビジュアルの新しい楽しみ方を開拓してくれそうな頼もしさが、それぞれのスピーカーにはあると感じました。気軽に良い音を楽しめるスピーカーが、作り手とリスナーとの距離をいっそう縮めてくれるのではないかと期待しています。

インタビュー
岩井 喬
オーディオライター

東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業に携わりながら、プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ制作現場にて精力的なレポートを展開している。


マルチメディアスピーカー「Companion3-II」のサウンドは、豊かなベースの表現力に支えられ、コンパクトなボディサイズを感させないほどの迫力に満ちたものであった。低域のサウンドに、サテライト部の高解像度で穏やかな高域再生が気持ちよく融合し、落ち着いて音楽を楽しむことができる。道添氏もコメントされていたが、本機は音楽の本質を変えることなくサウンドを再現できるスピーカーだ。程よく拡散する方向性で、機器と向かい合ってのリスニングよりも、リビングサイズの部屋に広がる音楽を楽しむといったスタイルが似合いそうだ。本体から離れていてもコントロール・ポッドによって、手元で音量調整などの操作が可能な点も便利なポイントだ。

一方で「M3」は、その音楽表現、楽器やボーカルの質感の正確さがひときわ光るスピーカーだ。2つのコンパクト・スピーカーだけの構成なのに、サイズを感じさせない迫力と、録音時のサウンドイメージを崩すことのない表現力に驚愕させられる。ロック・ポップス系のサウンドではボーカルの繊細さやベース、ドラムの質感もしっかり描き出す。音楽を楽しむのにはもちろんのこと、音楽制作者のサウンド・モニタリングにも活用できるハイレベルな製品であると言えるだろう。ぜひそれぞれの魅力を体験してみて欲しい。

(レポート:岩井喬)

■試聴したスピーカーシステム

BOSE マルチメディアスピーカーシステム
Companion 3 Series II
¥34,650(税込)

>>ボーズの製品紹介ページ
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BOSE パワードスピーカーシステム
Micro Music Monitor (M3)

¥49,980(税込)

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