炭山氏(以下:炭山):今日はさまざまなタイプの高音質化CDを試聴してみて、その音の違いを楽しみましょう。小澤さんは普段から音楽をよく聴かれますか。
編集部・小澤(以下:小澤):はい、音楽は大好きでよく聴きます。 私は趣味でオーケストラをやっているので、普段はクラシックを聴くことが多いですね。
CDも、好きな作曲家や演奏家のものを中心に沢山持っています。最近は「何を聴くか」ということに加えて「いかに良い音で聴くか」ということにも興味が出てきたんです。でもそのためには高い機器や専用プレーヤーなどを買ったりしないといけないなあと思うと、少し敷居が高く感じてしまって…。
炭山:高音質化を図ったメディアはSACDやDVDオーディオなどがありますが、それらの再生には専用のプレーヤーが必要になります。でも、多くの方が持っているプレーヤーで聴くことのできる、いわゆる「普通のCD」にも、録音技術などのほか、素材や製造方法を工夫することで驚くほど良い音を実現するものがあるんですよ。
小澤:CDの素材の違いでも音が変わるんですか!それは知りませんでした。そもそもCDというのはどういう素材でできているんでしょうか?
炭山:一般的なCDは、基材にポリカーボネートという樹脂を使っています。これは耐食性があり、水や紫外線などからの害も受けづらい、非常に頑丈な素材です。ただし樹脂なので、熱で盤面が歪んでしまうこともあるなどの問題も持っているんですね。盤面が歪んでしまうと記録された信号を正しく読み取れず、結果として再生される音が悪くなってしまいます。
こういった問題点を改善しようとしているのが、これからご紹介する「ガラスCD」と「緑色特殊コーティングCD」という2種類のCDです。今回はボーズのスピーカー「77WER」と「M3」を使って、2つのCDの音の違いを楽しんでみましょう。
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リファレンスにはボーズのスピーカーシステム「77WER」と「M3」を使用した |
■光学特性に優れた強化ガラスを採用した「ガラスCD」
炭山:最初に聴くのは、ユニバーサルミュージックから発売された、マエストロ・カラヤン生誕100年記念のガラスCDです。このCDは、メガネなどにも使われている、光学特性に優れた強化ガラスでできているんですよ。
小澤:盤面を少し弾いてみると、ガラスのコップを弾いた時のような音がしますね。それに普通のCDよりも少し重いみたい。堅くて全然しならないですね。
炭山:CDは再生中、分速600〜200回転という高速で回っているのですが、回転の中心がごくわずかにズレるだけで余計な振動が発生してしまい、信号読み取りの精度を下げてしまうんです。一方ガラスは余計な振動が発生しづらい素材のため、読み取りの精度が下がらずS/N比が良いんですね。ただし反射率や透過率は普通のCDの規格と同じものなので、もちろん普通のCDと同じプレーヤーで再生できますよ。まずは普通のCDから聴いてみましょう。
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ガラスCD(▲写真はクリックで拡大) |
小澤:1962年に録音したとは思えないほど古さを感じさせないくっきりした鮮度のある音ですね。これでも十分、音の良さに驚きました。
炭山:ではいよいよガラスCDを聴いてみましょう。
小澤:わあ、通常CDよりもさらに音が綺麗になって、磨かれた感じ。余韻に透明感があるように思います。こんなにはっきりと分かるとは思わなかったので驚きました。77WERだと部屋全体に広がる迫力と、オーケストラの大きな音場が楽しめますが、M3で聴くと、まるでミニチュアのオーケストラが目の前にいるみたい。夜部屋で音楽を楽しむときなどは、M3のこの音場感はぴったりですね。
炭山:M3はニアフィールドリスニングに適していますね。こぶし大というコンパクトなスピーカーですが、再生する空間に自然な広がりがあり、音の定位もそのまま再現されている印象です。
ちなみにCDプレス工場で最初にプレスするチェック用のCDは、1982年のCD第1号以来全てガラスで作られているんですよ。
小澤:なるほど、つまりガラスCDはプレス工場で作られる高精度・高音質盤を家庭で楽しめるものと言えるわけですね。でもこのガラスCD、とても高価で、音もさることながらその値段にも驚いてしまいました!
炭山:確かに20万円というのは簡単に手を出しづらい価格ですね。基材に使用した強化ガラスは優れた素材ですが価格が高いですし、1枚1枚手作り感覚で作られているため、手間もかかっています。ただ、そのようなこだわりが詰まっているだけに、やはり特別な体験を与えてくれると感じます。
■読み取りレーザーの補色色素を利用した「緑色特殊コーティングCD」
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camomile
Best Audio
¥3,200
(税込)
PCCA-60019
*CD/SACD Hybrid
[ポニーキャニオンの商品情報] |
炭山:さて次は「緑色特殊コーティングCD」を聴いてみましょう。これは基板にポリカーボネートを使っていますが、表面を特殊な緑のインクでコーティングしているんです。CDは赤色レーザーでその信号を読みとっているのですが、赤の補色である緑のインクをコーティングすることで、レーザーの乱反射を抑えて読み取りを安定させ、音を良くしているんですね。
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緑色特殊コーティングCD(▲写真はクリックで拡大) |
小澤:さっきのガラスCDのように分かりやすい素材の違いはなく、見た目が緑色をしている以外は普段私が聴いているCDと全く変わらないですね。緑色のコーティングでどれだけ音が変わるんでしょうか?興味深いです。
炭山:今回は藤田恵美さんの「camomile
Best Audio」を聴いてみましょう。
小澤:まずCDが再生されて最初に出た音で「わっ、すごい」と思わず引き込まれました。77WERから、優しい歌声がふわっと部屋中に広がった感じ。歌声が生々しく、ディティールや余韻まできれいに聞こえてくるのに驚きです。
炭山:最新の録音のいい所が全部入ったような音がしますね。音がクリアでレンジに広がりがあり、藤田さんが歌に込めた感情が、より細かに感じ取れるように思います。
頑丈さと安価さのバランスが良い素材を使用しているため大量生産に向いており、多くの人に音楽を楽しむ機会を与えてくれるところが、ポリカーボネートを使用した一般的なCDの利点でしょう。ポリカーボネートに緑色特殊コーティングを施したこのCDは、価格も普通のCDとほぼ変わりなく、手が届きやすいところも魅力であると言えますね。
■良い音を楽しむのに特別なものは必要ない
小澤:使用素材の違いによっても、聴き親しんだCDというメディアから聞こえてくる余韻や広がりが変わることに驚きました。伝わってくる音楽のニュアンスまで違ってくる感じです。例えばクラシックだと、同じ曲でも指揮者やオーケストラによって曲の解釈や音作りの違いがありますが、そういった細かなニュアンスをより一層楽しむことができそうだと感じました。
炭山:
良い音を楽しむために必要なのは、特別な気構えや機器、そしてソースではありません。例えばオーディオシステムでも、高い機器を使えば必ず良い音になるかと言ったら、それは違うと私は思います。何のチューニングもしていない数百万円のシステムよりも、ケーブルを交換したり、アクセサリーを使ったりと、丹念に手を入れた廉価なシステムの方が音が良かったりするんです。それと同様にCDでも、素材や製造方法を工夫することで高音質を実現しているものがあるということを、多くの音楽を愛する方々に知っていただきたいと思います。
小澤:確かに自分の身を振り返ってみても、良い音を楽しむには新しいものや高価なものが必要だと思いがちです。でもそれは必ずしも正しいわけではなくて、身近にあるもの ー今回の場合だと聴き親しんだCDでも、新たな音楽体験を発見させてくれることを実感しました。「あの機器を持っていないから無理」とか、「今使っているのは特に良い機器でもないから…」なんて二の足を踏んでいるのはもったいないですね!もっといろいろな高音質CDを探して、楽しんでみたくなりました。本日は有り難うございました。
■コラム:まだまだある!高音質化CD |
上で紹介したように、CDの盤や表面コーティングなどの素材を変えるだけではなく、音源データの圧縮方法や録音方法に工夫を凝らして高音質化を図る方法もある。それらのソフトを以下にご紹介しよう。
■高音質音声を非圧縮で記録した「HQ-SACD」
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ドヴォルザーク:チェコ組曲/
スーク:組曲「おとぎ話」
ズデニェク・マーツァル(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
¥3,000
(税込) OVCL-00296
*CD/SACD Hybrid
[オクタヴィアレコードの商品情報] |
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HQ-SACD(▲写真はクリックで拡大) |
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オクタヴィアレコードのEXTONレーベルから発売されている「HQ-SACD(High-Quality
SACD)」は、2ch信号のみを収録したSACD。従来のSACDは、膨大な情報量を1枚のディスクに収めるため、音源をDSTというSACD用に開発されたロスレス音声圧縮方式で圧縮して再生時にプレーヤーで解凍していたが、HQ-SACDはこの圧縮・解凍作業を省略。音質を高めている。 |
■独自のA/Dコンバーターなどを用いた「XRCD24」
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サマータイム&美しい夕暮れ
〜ガーシュウィン&フランス音楽名演集
ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)
¥3,465
(税込) JM-XR24047
[XRCD公式サイトの商品情報] |
オリジナルマスターからのアナログ信号を、独自のK2
24bit A/D コンバータを用いてデジタル変換。24bitのクオリティーをもった16bit信号をCD用記録フォーマットにエンコードした後音質に最適なピッチで記録するExtended
Pit Cutting技術などを採用して製作したガラス原盤を元に専用プレスラインで成型することで、マスターテープからの音質劣化を抑える。
■録音方法にこだわった「マイスター・ミュージック」
「トーンマイスター(Tonmeister)」というドイツの国家資格を取得した、平井氏が提唱する、2本のマイクを1カ所に立てるワンポイント録音を採用。これによりコンサートホールの一番いい席で体験するような自然な音場を再現できるという。また、集音には半導体でなく真空管マイク「エテルナ・ムジカ」を使用。さらにダイレクト・カッティング方式で、臨場感あるサウンドを実現するという。
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